48.首都に向かいます(RUN)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
年内は毎日投稿する予定です。
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第二章 葡萄の国と聖女(48)
【コロンバール編・首都コロン】
48.首都に向かいます(RUN)
「おはようございます。」
「おおウィン君、おはよう、早いな。」
食事を終えて外に出ると、マッテオさんが農具の手入れをしていた。
部屋からはもう少し人がいる気配がしたけど、マッテオさんしかいない。
周辺を見まわしていると、マッテオさんから声がかかる。
「どうした? 何か探してるのか?」
「いえ、他にも人がいたような気がしたので。」
「ああ、通いの従業員たちはもう葡萄畑の方に行ったぞ。またそのうち紹介してやる。」
「何人くらいいるんですか?」
「今は5人だな。」
「5人で、この広い葡萄畑の世話をしてるんですか?」
見渡す限りの葡萄畑は、境界が見えない。
起伏があるので目視できる範囲に限界はあるけど、それでもかなり広いことは間違いない。
たった5人でこの広さをカバーできるのだろうか?
「そうだな。普段は5人で世話してるぞ。もちろん収穫時期とか繁忙期にはたくさん助っ人が来るけどな。こういう葡萄農園は、だいたいそんなもんだぞ。」
「そうなんですね・・・マッテオさん、教えてほしいことがあるんですが。」
あまり仕事の手を止めてもいけないと思い、知りたいことを尋ねることにした。
「おお、何が知りたい?」
「冒険者ギルドに行くには、どうすればいいですか?」
「登録するのか?」
「はい、今日、登録したいと思ってます。」
「そうか。ここから一番近い冒険者ギルドは首都のコロンにある。歩きだと3時間くらいかかるぞ。馬には乗れるか?」
「いえ、というか記憶がないので分かりません。でも体力には自信があるので歩いて行きます。」
馬には乗れる気がしないので、たぶん乗れないんだと思う。
この体は能力の伸び率が高いので、練習すれば乗れるようになるかもしれないけど。
でも体力もあるし、いざとなれば転移もあるので、徒歩で行くことにする。
「分かった。ちょっと待ってろ。」
マッテオさんはそう言うと、一度家に入り、しばらくして鞄を持って戻ってきた。
「この鞄を持って行け。古いもので悪いが、ないよりはマシだろう。あと、これがコロンまでの地図だ。」
「ありがとうございます。」
お礼を言って鞄と地図を素直に受け取る。
鞄はリュックのように背負う形で、使い込まれてるけど破れたりはしていない。
地図を見ると、コロンまでの道のりは、距離はあるけど平坦で山越えとか谷越えとかはなさそうだ。
「では、行ってきます。」
鞄を背負い、早速出発することをマッテオさんに告げる。
「ああ、気をつけてな。ちゃんと戻ってくるんだろう?」
「はい、夜までには戻ります。」
「分かった。ワインを用意して待ってるぞ。」
そう言いながら、マッテオさんは僕の背中をバシバシと叩いた。
ちょっと痛かったけど、とても嬉しかった。
ご飯じゃなくて、お酒を用意して待ってるんですね。
マッテオさんらしい送り出しの言葉だと思った。
葡萄農園の入り口には大きな木製のアーチがあった。
その下をくぐって外に出ると、なだらかな丘陵地帯が広がっている。
たくさんの葡萄畑と所々にこんもりと固まる緑の木々、それらの間を縫うように続く道。
この道を低い方に向かって進んで行くと、首都コロンにつながっているらしい。
(しばらくは歩いてみようかな。)
せっかくなので、転移は使わず、周囲の景色を楽しみながら歩いてみることにする。
早朝のせいなのか、いつものことなのか、どれだけ歩き続けても人にも馬車にも出会わない。
葡萄農園で働いている人は、すでに働いているし、それ以外の人はまだ寝てるのかもしれない。
することもないので、風のクエストの練習をしながらテクテクと歩いて行く。
○風クエスト
クエスト : WIND
報酬 : 風(NO LIMIT 個数・規模・形態)
カウント : 1000
風のクエストのカウントが1000回になった。
いろいろ練習したので、個数は同時に10個まで、規模も本来の10倍くらいまでは自由に出せるようになった。
形態と他のクエストの混合については、周りへの迷惑も考えて、島に戻った時に検証しよう。
(ちょっと気分を変えようかな。)
歩くことと変化のない周囲の景色に飽きてきたので、気分を変えるために走り出す。
初めはジョギング程度の速さで、段々スピードを上げて、最後には全速力で走ってみる。
めちゃくちゃ早い。
飛ぶように景色が後ろに流れ去る。
馬より早いかもしれない。
ちょっと思いついて風のクエストを発動してみる。
自分の後ろから自分の背中に向けて。
追い風の勢いでさらにスピードが上がる。
初めはバランスを崩しかけたけど、何度か試しているうちに慣れた。
走るというより、飛んでる感じで気持ちがいい。
(でもこれ、誰もいないからできるけど、他の人がいたら危ないよな。)
人が見えたらやめようと思いつつ、快適に走り続けていると、遠くに大きな壁が見えてきた。
(あれっ、もしかしてもう着いちゃったかも?)
慌ててスピードを落とし、一旦立ち止まる。
見えているのはおそらく首都コロンを守るための外壁だと思う。
マッテオさんの葡萄農園を出てから体感で1時間前後。
明るくはなっているけど、まだ早朝の範囲じゃないだろうか。
そこからはゆっくり歩いて外壁に近づいて行くことにした。
道を辿った先には大きな門があり、馬車が数台と荷物を背負った人たちが数十人並んでいる。
門の前には鎧を着て槍を持った兵士たちが入場する人たちに対応している。
(身分証とかないけど、大丈夫かな?)
とりあえず並んでいる人たちの最後尾に同じように並ぶ。
見ていると、身分証の提示と荷物のチェックで結構スムーズに進んでいく。
兵士と談笑している人も多いので、顔見知りがほとんどなのかもしれない。
並んでいる人たちを観察していると、あっという間に僕の番が回ってきた。
「見たことがない顔だな。コロンに来るのは初めてか?」
兵士が僕の顔を見ながらそう告げる。
特に威嚇する感じではなく、淡々と事実を述べる感じ。
「はい、初めてです。」
「身分証は?」
「ありません。」
そう答えると兵士さんは少し思案顔になる。
僕は心配になって尋ねる。
「身分証がないと入れませんか?」
「いや、入れるが多少手続きが面倒になる。ここに来た目的は?」
「冒険者ギルドに登録しようと思って。」
「冒険者カードは?」
「初心者なので持ってません。」
兵士さんが困った顔になる。
そこに上官らしい兵士が近づいてきた。
「どうした?」
「はっ、身分証を持たない者がいたので、口頭で聞き取りをしておりました。」
「なるほど。」
上官はそう応じると、右手を顎に当てながらこちらを向いた。
「君の名前は?」
「ウィンです。」
「どこから来たのかな?」
葡萄農園からと答えかけて、マッテオさんたちに迷惑をかける訳にもいかないと思い直し、答えを変えた。
「島のほうから来ました。」
「ほう、南の群島からか。珍しいな。」
「街に入るのは難しいでしょうか?」
「そうだな。身分証がなく、冒険者としてもこれから登録するということは今は無職、遠い島の出身では確認のしようもない。そうなると入れるにしても時間がかかる。」
落胆した気持ちが表情に出たのだろう、上官が話を続ける。
「勘違いしないでくれよ。君を悪者だと決めつけてる訳じゃないんだ。ただ我々も街の治安に責任を持つ立場なんでね。」
上官が言っていることはもっともなことだ。
別に理不尽なことじゃない。
でもどれくらい時間がかかるんだろう。
今日中に入れてもらえるんだろうか。
「とりあえず、こちらの部屋までついてきて・・」
「私が責任を持とう。」
突然後ろから声が聞こえた。
凛とした女性の声。
振り返るとそこにローブを着てフードを被った人が立っていた。
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