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44.聞こえないように囁きます(クエスト:人物鑑定)

第二章 葡萄の国と聖女


主人公が初めて島の外に出て、戦闘狂の聖女と出会い、葡萄のコロンバールで様々な出来事に遭遇するお話です。


年内は毎日投稿する予定です。

よろしくお願いします。

第二章 葡萄の国と聖女(44)

【コロンバール編・首都コロン】



44.聞こえないように囁きます(クエスト:人物鑑定)



「さあ、飲みすぎる前に食べてね。」


アリーチェさんが料理を並べてくれる。

彩りのバランスがいい野菜サラダ。

鶏肉をトマトソースで煮込んだもの。

生ハムとチーズの盛り合わせ。

これでも軽めの夕食らしい。


そして料理の味がまた格別。

素材はもちろんのこと、ドレッシングとか、トマトソースとか、何をどうしたらこういう味になるのか。

うまく言葉にできない自分が悔しいくらい。


「お口に合うかしら?」


黙々と食べることに集中しているとアリーチェさんから声をかけられた。


「すみません。食べるのに夢中で。美味しくて。何と言っていいか分からないくらい美味しくて。」

「あら、嬉しい。あなたもこれくらい言ってくれないと。」


アリーチェさんが会話をマッテオさんに振る。

マッテオさんは飲みかけていたグラスを慌てて置いて、ちょっとむせてから言う。


「美味しいかどうかは、食べっぷりでわかるだろ。なあ、ウィン君?」

「言葉にすることが大事なのよ。何度でもね。」


二人の仲の良さに、ちょっと当てられながらも、賑やかな食事が続いていく。


鑑定クエストは・・・

とりあえず無視することにした。

この状況で愛を囁く訳にはいかない。

二人のうちどちらに聞かれても事案になる。


それにしても二人とも、とってもお酒が強い。

初めの2本はすでに空き瓶となり、新たに2本追加されている。

料理に合わせて赤と白を飲み分けるわけでもなく、自由気ままに飲んでいる。


「ひとつ、質問してもいいですか?」

「いくつでもいいぞ、ウィン君。」


食事が一段落したところで訊いてみる。


「このお店、どうして夜は営業しないんですか?」

「ここは街から少し離れていてな。葡萄農園と醸造所はあっても宿泊施設はないんだよ。だから夜はやってない。夜来るのは、親しい友人か、葡萄畑で叫んでたウィン君くらいさ。」

「ウィン君、畑で叫んでたの?」

「いや、その話は、ちょっと・・・」

「『大好きだ』って何度も叫んでるのが聞こえてな。人の畑で告白してるやつがいると思って、行ってみたらウィン君一人でな。そんなにこの畑を気に入ってくれたのかと、そのまま連れてきたわけだ。」

「それは、あなた、もう当然ね!」


酔いも入ってるのか、二人の話が止まらない。

こちらは穴があったら入りたい。

「中の女性」に後で抗議しよう。

あっ、その前にさらなる難問があるんだった。   


アリーチェさんが空いたお皿を下げるために席を立つ。

マッテオさんもワインが空なのを確認して立ち上がる。

新しいワインを取りに行くマッテオさんの背中に向けて、口元を隠し、小声かつ早口で囁く。


「愛してる。」 ×10


…情熱的ね…

…私には他に好きな人が…


いろいろメッセージが流れてますが完全無視で。

そして鑑定結果が表示された。



名前 : マッテオ(40歳) 男性

種族 : ドワーフ

職業 : 醸造家・栽培家

スキル: 醸造・栽培・植物鑑定(中級)

魔力 : 32



続けてカウンターにお皿を置こうとしているアリーチェさんに向けて、同じように囁く。



名前 : アリーチェ(32歳) 女性

種族 : ヒト

職業 : シェフ

スキル: 調理・調味・食材鑑定(中級)

魔力 : 53



この世界のドワーフって、あんなに大きいのか。

髭も生やしてないし。

それともマッテオさんが特別なのか。

アリーチェさんはやっぱりシェフなんだね。

料理が美味し過ぎるからね。

あと、魔力の表示があるけど、基準が分からないので、多いのか少ないのか判断できない。


二人の鑑定表示を見ながらいろいろ考えていると、先にアリーチェさんが戻ってきた。

両手にデザートのお皿を持っている。


「甘いものは大丈夫?」

「大丈夫です。」


そう答えるとアリーチェさんはお皿をテーブルに置いた。

一つは僕の前に、もう一つはマッテオさんの席に。

アリーチェさんの分はないようだ。


「アリーチェさんは食べないんですか?」

「味見で食べてるから大丈夫。どうぞ、食べてね。」


デザートは白いプリンのようなものに赤いソースがかかっている。

一口食べてみると、当たり前のように美味しかった。


「とても美味しいです。これは、何ていうデザートですか?」

「パンナコッタよ。生クリームから作るの。赤いのは苺のソースよ。」


名前は知っている。

食べた記憶はない。

今さらだけど食べ物に関しては元の世界とあまり違いがないのかもしれない。


アリーチェさんとしゃべっていると、マッテオさんが戻ってきた。

ワインを、また2本持っている。

この人たち、どれだけ飲むんだろう。

すでに4本のワインが空になってるけど、二人ともふらついたりしていない。

                    

「お二人とも、お酒、強いんですね。」

「まあ強いほうかな。オレは、お酒を作ることと飲むことくらいしか取り柄がないからな。アリーチェは・・」

「私は嗜む程度よ。」


マッテオさんの言葉にアリーチェさんが言葉をかぶせる。

にっこり笑いながら。

これはあれだ。

たぶんアリーチェさんのほうが強そう。

話題を変えよう。


「このお店はアリーチェさんがやってるんですか?」

「そうね。基本的に私が料理担当。マッテオがお酒担当かな。」

「ウィン君、まだ飲めるか?」

「これ以上飲むと、酔っ払いそうです。」


自分の体調と相談しながら、そう答える。


「心配しなくてもいいぞ。宿泊施設はないと言ったが、ウィン君を泊める部屋くらいはあるからな。」


そう言って豪快に笑うマッテオさん。

結局、飲むんですね。

長い夜になりそう・・・。


読んで頂いてありがとうございます。

次回投稿は明日です。

よろしくお願いします。

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