40.よく頑張りました(従魔:ディーくん)
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『第一章 はじまりの島』は序章(準備編)です。
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第一章 はじまりの島(40)
40.よく頑張りました(従魔:ディーくん)
〜(独白)〜
気がつくと、寝室のベッドに寝かされていました。
従魔たちが心配そうに覗き込んでいます。
体に異常はなさそうです。
あったとしても、ウサくんが治してくれたのでしょう。
どうしてこうなったのか。
自分の記憶を呼び起こします。
確か、森の中で・・・
* * * * *
〜気絶する前に戻る〜
クエストが改変され、テディ・ミニマによる訓練が開始された。
目の前にぬいぐるみのような小熊が立っている。
まだ従魔じゃないけど呼びにくいので名前をつけることにした。
名前はテディ・・・じゃなくて「ディーくん」で。
○ 「ディー君」 : テディ・ミニマ(☆☆☆)
従魔候補 : 猛獣系熊型(召喚可能)
特技 : 剛腕・敏捷・激怒・転移(短)・剣術(上)
進化先 : ホリブルテディ・ミニマ(☆☆☆☆)
素材 : 木材担当
名前をつけると、従魔に適用される情報が視界の中に表示された。
「従魔候補」?
そういうカテゴリーもありなんですね。
自由自在ですね、「中のヒト」。
だんだん便利になるのは大歓迎です。
ついでに他のものも、鑑定できるようになるといいですね。
…調子に乗るな(怒)…
「中のヒト」から(怒)をいただきました。
はい、無理だとは思いながらちょっと期待しました。
「中のヒト」に気を取られていると、突然頭の中に誰かの声が響いた。
(まずはクエストと武器なしね〜。体術のみで行ってみようか〜。)
これ、ディーくんだよね。
従魔候補でも念話できるの?
でも予想よりもなんかちょっと軽め?
情報を見る限りもっと武闘派っぽいかと思ったけど、口調が体操のお兄さん的な感じ。
親近感湧くよね。
そんな風に思えたのは最初だけでした。
丸く開けた空間の真ん中でディーくんと向かい合う。
ディーくんが頭を下げたので合わせて頭を下げる。
訓練はきちんと礼で始まるようだ。
ディーくんがゆっくりと動き出す。
しっかりと動きは見えている。
でも見えているのに体が反応しない。
こちらが何もできないうちに懐に入られる。
ディーくんの小さな右手の拳が、スローモーションでこちらの体に向かってくる。
僕はかわすこともブロックすることもできずに立ちすくむ。
次の瞬間、世界は真っ暗になった。
* * * * *
従魔たちによると、小屋まで運んでくれたのはディーくんらしい。
初日の訓練が一撃で終わりとか。
これって1日にカウントされるのだろうか?
そんなことをベッドに座って考えているとタコさんから訂正が入った。
(まだお昼なの。午後の訓練もあるの。)
気絶してもまだ終わりではないらしい。
午後も森を抜けてあの場所(訓練場)まで行かないといけない。
まあ、ウサくんのおかげで体調的には問題ないけど、精神的にはかなりきついかな。
おにぎりと青汁で昼ご飯を食べてから森へ向けて出発した。
小屋の前で従魔たちが並んで見送ってくれる。
やっぱり付き添いは誰も来てくれないんだね。
ひとりで森を抜け訓練場に辿り着くとディーくんが準備運動をしながら待っていた。
(ごめんね〜。加減間違えちゃった〜。)
ディーくんが念話で謝ってくる。
謝られると余計に惨めな気がするけど、自分が弱いんだから仕方がない。
頑張って少しでも強くなろう。
* * * * *
それからの10日間はあっという間に過ぎた。
今は10日目の午後の回、つまり最終訓練。
初日以来、訓練中に気絶することはなくなった。
もちろんディーくんが、絶妙に手加減してくれたからだけど。
それでも訓練後には起き上がれないくらい疲弊した。
ディーくんは毎回、僕の限界を少し越えるところを見極めているんだと思う。
訓練内容はただひたすらディーくんとの模擬戦。
クエストでの攻撃・防御は使用不可。
短剣の使用もいっさいなし。
その代わりディーくんも「敏捷」以外は使わない。
一度だけ「剛腕」の威力を見せてもらうために、クエストで出した石壁を殴ってもらった。
ディーくんの拳が石壁に当たると、ドンッという音がして石壁が粉々になって崩れ落ちた。
割れて吹っ飛ぶというんじゃなく、衝撃が石壁全体に拡がりその場で崩壊した感じだった。
あんなのをまともに喰らったら全身の骨が粉々になるんじゃないかな。
「転移」も参考のために見せてもらった。
離れた位置から一瞬で目の前に転移してくる。
予備動作はなく連続使用も可能。
短距離といいながら見えている範囲ならだいたい転移できるらしい。
ええっと最初のクエスト。
「テディ・ミニマを倒せ」ってやつ。
絶対に1対1じゃ無理じゃないかな。
いや、従魔たち全員のサポートがあっても無理だと思う。
☆の数が魔物のレベルを示すのなら、ディーくんの☆3つって絶対詐欺だよね。
ディーくんが「敏捷」を使って迫ってくる。
僕は右斜め前に足を踏み出して、自分の体を相手の打撃の軌道からずらす。
同時に右手でディーくんの拳を左に払う。
「敏捷」の速度にかろうじて対応できるようになったのは訓練期間の終盤になってからだ。
それでもぎりぎり回避するのが精一杯。
相手を攻撃する余裕はほとんどない。
ディーくんが攻め続け、それをこちらが防ぎ続ける。
何かを一つ間違えるとディーくんの拳が体に当たる。
ただ訓練の初期と違って、まともに体の芯にダメージを受けることはなくなった。
(クエスト使っていいよ〜。全力で来てね〜。)
最後にディーくんからクエスト使用の許可が出た。
相変わらず口調は軽いけど。
おそらくこれで訓練の総仕上げなのだろう。
一定の距離を置いて向かい合い僕が構える。
ディーくんは自然体で立っている。
開始の合図は特にない。
いっさい予備動作を見せずにいきなり「炎」でディーくんを狙ってみる。
でもそこにディーくんはいない。
動きを読んで「炎」をその先に置きにいく。
そこにもディーくんの姿はない。
気配なのか、視線なのか、思念なのか。
ことごとくこちらの思惑を読まれてしまう。
クエストの発動は一瞬なので、先読みしなければ完全回避は難しいはずだけど。
「炎」の複数発動や形態変化も織り交ぜて工夫してみる。
単発で無理なら物量作戦で。
それでも一度としてディーくんに当たらない。
「敏捷」だけで全て避けられてしまう。
攻撃用の他のクエストは使わなかった。
「炎」で当てられなければ、どうせ他のクエストでも当たらない。
倒すことではなく、当てることが目標なので、とにかく炎を打ち続けた。
気がつくと、ディーくんは僕の目の前にいた。
そしてその右拳がコツンと僕の体に触れた。
それが終わりの合図だった。
(訓練終了だよ〜。よく頑張ったね〜。)
結局一度も攻撃を当てられないまま10日間の訓練は終了した。
とても・・・悔しい。
読んで頂いてありがとうございます。
次回投稿は明日です。
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