332. 再生しないはずだよね(エンドレスゲーム)
アイストレントとの戦いが始まります。
一筋縄ではいかないようですが。
第四章 氷雪の国と不良王子(332)
(アンソロ編・氷樹地帯)
332.再生しないはずだよね(エンドレスゲーム)
「アイストレントって、本来は星1つですよね。」
「ウィン様、その通りです。」
僕の確認にフェイスさんが淡々と答える。
今、僕たちの前にはアイストレントらしき魔物が10体並んでいる。
ブラック・アイストレントが生み出した魔物たちだ。
通称『氷樹モドキ』というだけあって、見た目は氷樹そっくりな姿をしている。
ただ、大きさが全然違う。
周辺の氷樹の倍くらいの太さと高さがある。
体色も完全な透明じゃなく、ちょっと濁ってる気がする。
「これって、強化され過ぎじゃないのかな?」
「ウィン様、おそらく騎士たちが遭遇した魔物とは別物かと。」
「どういうこと?」
「騎士たちを襲ったのは通常のアイストレントの強化版、これはブラック・アイストレントが生み出した変異種ではないでしょうか。」
フェイスさんの意見を聞いて僕はすぐに目の前の魔物に【鑑定】をかけることにした。
【鑑定結果】
○グレイ・アイストレント(灰色氷樹モドキ) ☆☆
※アイストレント(氷樹モドキ)の変異種
体型 : 中型
体色 : 灰色クリスタル
食性 : 氷雪食
生息地 : 氷樹地帯
特徴 : 氷樹を巨大化させた姿。
枝が鋭利な刃状になる。
根が鋭利な槍になる。
氷の針を飛ばす。
魔法攻撃は効きにくい。
熱は効かない。
可食(魔力豊富な灰色のかき氷)
特技 : 氷刃・氷根・氷針・魔法耐性(大)
特殊能力: 温熱無効
結果はフェイスさんの予想通りだった。
目の前の魔物はアイストレントの変異種でグレイ・アイストレント。
通称『灰色氷樹モドキ』。
星2つで【魔法耐性(大)】と【温熱無効】を持っている。
さらに攻撃手段が【氷刃】【氷根】【氷針】と3つもあり、攻撃特化型の魔物のようだ。
『黒』が司令塔で『灰色』が兵隊ってことか。
兵隊を生み出す司令官って、超面倒くさそうなんですけど。
「ウィン、報告。」
『灰色氷樹モドキ』の鑑定結果について考察していると、ルルさんから催促がきた。
僕はできるだけ簡潔に答えを返す。
「星2つで魔法耐性と温熱無効持ち。攻撃は枝と根と針。再生はありません。」
「物理で破壊ってことだな。」
「そうですね。」
魔物の特性を聞いて、ルルさんが即座に戦闘方針を決めた。
戦うことに関しては本当に決断が早い。
そして行動も早い。
僕の「そうですね。」の「ね」の音のところで、ルルさんの姿が目の前から消えた。
【転移】で特攻を仕掛けた模様。
ガキン
ゴキン
バキン
ボキン
氷樹地帯の中の円形の空間に重い打撃音と破壊音が響き渡る。
ルルさんが目まぐるしく動き回りながら両方の拳をフル回転させている。
さすが『鋼の拳闘士』だ。
あれっ、でも・・・・・
ルルさん、意外に苦戦してるような。
確かに拳が当たったところは破壊できてるけど、そのほとんどが枝や根の部分だ。
なかなか胴体部分まで辿り着けていない。
魔物一体あたり何本の枝と根があるのかよく分からないけど、10体が連携しているため攻撃量が多過ぎる。
枝と根と針が空間を埋め尽くすように飛び交っている。
これ、なんて言うんだっけ?
飽和攻撃?
この状態だと【短転移】も使いにくそう。
転移先にランダムな攻撃が飛んで来るかもしれないからね。
戦況を眺めながらそんなことを考えていると、
「ウィン様、情報収集は私がいたしますので、ウィン様も攻撃に参加されては?」
フェイスさんが僕の戦闘参加を促してきた。
そうですよね。
呑気に観戦してる場合じゃないですよね。
ルルさん、『灰色』に囲まれちゃってるし。
そろそろ援軍として参戦しますか。
僕は黒の剣を構えて、その姿勢のまま転移した。
『灰色』10体の円陣の中心にいるルルさんの隣へ。
「ウィン、何しに来た?」
「援軍です。」
「必要ない。」
「僕も仕事しないと。」
「なら好きにしろ。」
一瞬だけ言葉を交わすと、僕とルルさんは示し合わせたように『灰色』たちの円陣の外側に転移した。
お互いに反対方向、二人が左右に分かれる形だ。
『灰色』たちも僕とルルさんの動きに反応して二手に分かれた。
5体が僕に。
そして残りの5体がルルさんの方へ。
これで飽和攻撃の濃度が半分に下がるはず。
半分ならなんとか対処できるんじゃないだろうか。
僕は【魔力感知】を全開にした。
これで視界に入らない攻撃も躱わすことができる。
【氷針】は【風壁】で防ぎ、【氷根】は体術で避けて、【氷刃】を黒の剣で叩き切る。
そして一瞬の隙を見つけて、『灰色』の胴体めがけて黒の剣を横薙ぎに振り抜いた。
ドギャン
氷を叩き割ったにしては奇妙な音が甲高く響いて、『灰色』が一体、粉々に砕け散った。
これで僕の担当は残り4体。
少し遅れてルルさんの方でも同じ音が響いたので、状況は同じだろう。
魔物の数が減れば、必然的に攻撃量も減っていく。
『灰色』を一体倒した後は、討伐速度が加速度的に速くなり、僕とルルさんはほぼ同時に最後の『灰色』を破壊した。
「なかなかいい運動になったな、ウィン。」
「はいルルさん、氷の割には硬かったですけど、物理耐性持ちじゃなかったのが幸いでした。」
一息つきつつ、そんな会話をルルさんと交わす。
もちろんまだブラック・アイストレントが残っているので、警戒を解いてはいない。
視線は真っ黒な小さい木に向けたままだ。
「ウィン様、まだ終わりではないようです。」
戦闘に参加せず、後方で見守っていたフェイスさんから注意喚起の言葉が発せられた。
そして次の瞬間、目の前に10体の『灰色』が現れた。
完全に元の姿のままで。
あれっ?
振り出しに戻っちゃったの?
『灰色』は【再生】持ちじゃなかったはずなのに。
これじゃあ、エンドレスゲームになっちゃうよ。
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来週も1話投稿の予定です。
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