331. 小さくて、、黒くて、厄介なやつ(特異種:ブラック・アイストレント)
氷樹地帯の異変の元凶と遭遇します。
ちょっとタイプの違う面倒な魔物のようです。
第四章 氷雪の国と不良王子(331)
(アンソロ編・氷樹地帯)
331.小さくて、黒くて、厄介なやつ(特異種:ブラック・アイストレント)
「ではウィン殿、氷樹地帯の偵察任務、よろしくお願いする。」
軽い事前打ち合わせの後、アルムさんが偵察開始の指示を出す。
従魔たちの悪ふざけについては、騎士団や冒険者に対して【幻影魔法】だとの説明で押し切った。
もちろん、納得していない者たちもいたけど、王命で指揮官に任命されたアルムさんからの説明に真っ向から異を唱える者はいない。
まあ、確認のしようもないしね。
事前打ち合わせの中でルルさんから、氷樹を僕の火魔法ですべて溶かしてしまえばいいんじゃないかとの提案が出たが、アルムさんが却下した。
「氷樹は、破壊しても溶かしてもすぐに再生する。」
というのが理由だった。
氷でできた樹がなぜ再生するのか、そのメカニズムはよく理解できないけど、そういうものだと思うしかないんだろう。
「じゃあルルさん、フェイスさん、行きましょうか。」
僕は偵察隊のメンバーである二人に声をかけた。
従魔たちは全員【小屋】に戻してある。
どう考えても過剰戦力だし、悪ふざけに対する罰も必要だったから。
まあ万が一の場合は【召喚】すればいいだけだしね。
僕たちはゆっくりと氷樹地帯の中に足を踏み入れた。
パラン隊長の報告通りなら強化された星1つの魔物が3種類いるはずだ。
いや、それ以外の魔物がいる可能性もある。
僕は【魔力感知】、ルルさんは【魔力視】を発動して、周囲に注意を払いながら氷樹が林立する中を進んで行った。
「ルルさん、これ、なんかおかしくないですか?」
「そうだなウィン。魔物の反応がない。」
氷樹地帯の中は、全体が薄い魔力で覆われていた。
しかし、魔物のような濃い魔力の塊はどこにも見当たらない。
あえて言うなら氷樹が纏う魔力が周囲より少し強いくらいか。
「フェイスさん、どう思います?」
僕は3人の中でもっとも情報に精通しているフェイスさんに意見を求めた。
「そうですねウィン様。もしかするとお二人の強さのせいで、魔物たちが逃げ出したのかもしれません。」
「魔物ってそんなに勘がいいんですか?」
「ダンジョン以外の魔物は、本能的に自分より強い相手は避けるものです。よほど凶暴な種族は別ですが。」
「スノースパイダー、スノーエイプ、アイストレントはそこまで凶暴ではないと?」
「そうですね。少なくとも後先考えずに襲ってくるタイプではありません。」
そうなのか。
でもそれじゃあ偵察の意味がないかもしれない。
ていうか、僕たちは偵察任務に適していないってことだよな。
そんなことを考えながら進んでいると、
「ウィン!」
「はい、ルルさん。前方ですね。」
進行方向に強い魔力を感知した。
サイズ的に大きくはないが凝縮されたような濃い魔力。
これは間違いなく強力な魔物だろう。
僕たちは強い魔力の塊に向けて足を早めた。
もちろん周囲への警戒は保ったままで。
そしてしばらく進むと突然氷樹の林が途切れ、円形の広場が現れた。
「あれだな。」
「あれですね。」
ルルさんの視線の先、円形の空間の真ん中あたりに、小さな黒い木がポツンと生えているのが見えた。
強い魔力反応は間違いなくその小さな木が源だ。
「フェイスさん、あれが何か分かります?」
「いえ、初見です。」
僕はフェイスさんの答えを聞いてすぐに【鑑定】を発動した。
○ブラック・アイストレント(黒氷樹モドキ) ☆☆☆+
※アイストレント(氷樹モドキ)の特異種
体型 : 小型
体色 : 黒クリスタル
食性 : 魔素
生息地: 寒冷地域に生息。
特徴 : 同系統の魔物を生み出す。
一定範囲の魔物を強化・凶化する。
瞬時に再生する。
可食(魔素豊富な黒いかき氷)
特技 : 魔物生成・魔物強化・再生
魔力反応が強いはずだ。
星表示が3+になっている。
これは進化前の従魔たちより強いってことになる。
油断できない。
「ウィン、報告を!」
ルルさんが当然のように鑑定結果を尋ねてきた。
この辺りはもう、完全に行動パターンを読まれている。
まあ、「阿吽の呼吸」と言えなくもないけど。
「はい、星は3つプラス。能力は魔物の生成、強化。瞬時再生持ちです。」
「弱点は?」
「分かりません。」
同系統の魔物を生み出すってことは、おそらくアイストレントを作り出すことができるんだろう。
そしてさらにそれを強化・凶化できる。
自分では攻撃しないが手下に攻撃させるタイプ。
さらに再生能力まである。
「厄介な魔物だな。」
僕の報告を聞いてルルさんがつぶやいた。
確かにこの魔物は厄介だ。
おそらく氷樹の特性と同じで、物理攻撃で破壊しても火魔法で溶かしても瞬時に再生してしまうんだろう。
弱点の表示もないし、どうやって倒せばいいのか思いつかない。
でもルルさん。
言葉では厄介とか言いながら、顔がニヤけてますよ。
ミスリル製のガントレットを装着した両腕を構えて、やる気満々じゃないですか。
「ウィン、来るぞ!」
ルルさんが叫ぶと同時に、ブラック・アイストレントの漆黒の魔力が大きく周囲に拡がった。
お読み頂きありがとうございます。
この暑さの中で季節感の違う状況(雪の中)ですが・・・
今後ともよろしく願いします。




