328.指揮官アルム(王命:by カートくん)
獅子王からの王命の内容は・・・・・
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第四章 氷雪の国と不良王子(328)
(アンソロ編・氷樹地帯)
328.指揮官アルム(王命:by カートくん)
「アルム殿下、ウィン殿、ルル殿、フェイス殿、魔道通信により王命が届きましたゆえ、お伝え申し上げます。」
ノクセク隊長は僕たちにそう告げて、一度大きく頭を下げた。
そして顔を上げ、一枚の紙を広げてその内容を読み上げた。
「元第三王子アルム、汝を此度の氷樹地帯調査の指揮官に任命する。ノクセク、パランの両名はアルムの指揮下に配置する。」
「何だと! そんなバカな!」
ノクセク隊長が王命を読み上げるとパラン隊長が大声を上げた。
まあこの内容だし、思わず声が出てしまう気持ちは分からなくもないけど・・・・・
「パラン隊長、王命伝達を途中で遮るとは、貴様、命が惜しくはないのか?」
「うぐっ。」
どうやら王命には続きがあるようだ。
パラン隊長は自分の失態を指摘されて顔を真っ赤にしている。
「追記、ウィン君とルルちゃんは王の友である。彼らに対する無礼は王権への謀反と見做す。獅子王(カート君だよ)」
カート君、最後の部分は必要ないんじゃないかな。
さすがのノクセク隊長も、もの凄く小さい声になってたよ。
まあしっかり聞こえたけどね。
でもねカート君、王命を読み上げる者の身にもなってあげてよ。
書いてある以上、無視するわけにいかないんだから。
「ゴホン、以上で王命伝達を終える。パラン隊長、態度を改めよ。我々の上司と陛下の友であるゆえな。」
「そ、そんなことが・・・・・」
パラン隊長の顔を見ると、真っ赤から真っ青に豹変していた。
心なしか巨体が震えているようにも見える。
まあそうなるよね。
王命を拝受する前とはいえ、すでにかなり無礼な態度をとってしまってるし。
もしそのことがカート君に伝われば、事の前後に関わらず処罰を受ける可能性もある。
「王権への謀反」とか、怖すぎるよね。
きっと厳罰に違いない。
市中引き回しの上とか、一族郎党とか、介錯人が必要なアレとか。
「ノクセク殿、王命である以上、不肖ながらこのアルムが指揮を取らせて頂く。パラン殿、これまでの言動はオール兄のことを想ってのことと理解している。ここからは遺恨なくご協力をお願いできるか?」
アルムさんが穏やかな口調で青と緑の親衛隊長に語りかけた。
さすがアルムさん、対応が大人だな。
あれだけ敵意を向けられたら、僕なら嫌味の10や20、パランさんにぶつけてしまうと思う。
「アルム殿下、何なりと御下命を。」
「・・・・・承知・・・致しました。」
ノクセク隊長とパラン隊長がそれぞれに了解の意を返した。
さすがのパラン隊長も王命には逆らえないようだ。
まあ、そんなことをしたら自分だけじゃなく、オール第二王子にまで悪影響が及ぶ可能性があるからね。
「ではパラン隊長、氷樹地帯の中の様子を教えて頂けるか? すでに部隊を派遣したと伺ったが。」
アルムさんが早速情報収集に取り掛かかった。
その問い掛けに、パラン隊長は一瞬苦虫を噛み潰したような顔をしたけど、思い直したように表情を戻して質問に答える。
「はい。先遣隊は精鋭10名。しかしすぐに撤退させました。」
「魔物たちの攻撃を受けたということか?」
「その通りです。」
「魔物の種類は?」
「確認できたのはスノースパイダーとスノーエイプ、それからアイストレントの3種です。」
「氷樹地帯に普通にいる魔物たちだと思うがやはり強化されているのか?」
「明らかに強化されております。攻撃速度も防御力も星一つの魔物とは思えません。さらに厄介なのは魔物たちが連携していることです。」
アルムさんとパラン隊長の話し合いが続く。
でもパラン隊長、その「ですます言葉」、気持ち悪いくらいに似合わないね。
ちょっと前までのオラオラ感と違いすぎる。
立場が逆転しちゃったので仕方ないとは思うけど。
「パラン隊長、スノースパイダーやスノーエイプは元々連携して攻撃してくる魔物ではないのか?」
「その通りです。しかし今回は同種同士の連携ではなく、3種がお互いに連携をとっております。そんな例はこれまで報告にありません。」
パラン隊長の説明を聞いてアルムさんは腕を組んで考え込んだ。
異種の魔物の連携。
それは珍しいことなのだろうか。
この世界の知識に乏しい僕の頭では判断がつかない。
こんな時には、「教えて、フェイスさん」だな。
「ウィン様、私の知る限り、異なる種の魔物同士が連携して攻撃してくることはあり得ません。たまたま同時に戦闘になることはあっても、意思を通じて連携することはないはずです。」
僕が質問する前にフェイスさんが背後から答えをくれた。
フェイスさん、やっぱり【念話】か【読心】のスキル持ってるよね。
それとも僕の態度が分かり易すぎる?
「でもフェイスさん、うちの従魔たち、他の魔物と連携してるよ。【庭】で合同訓練とかしてるし。てことは可能性はあるんじゃないの?」
そう僕が返すとフェイスさんはちょっと困ったような顔をした。
「ウィン様・・・・・失礼を承知で申し上げますと、そのような天上天下唯一の特殊事例を持ち出されましても、どうお答えしていいものか・・・・・。普通の世界の常識的な範囲では、異種魔物同士の連携は前代未聞としか申し上げられません。」
フェイスさん、言葉使いは丁寧だけどそれってあれだよね。
僕の周りは異常で非常識だから論外って意味だよね。
ちょっとディスりが入ってない?
まあでも、だからこそフェイスさんほどの人が僕のストーカーをしてるんだろうけど。
「現状では部隊を突入させるのは危険すぎるか。仕方がない、ウィン殿、お力を貸していただけるか?」
「もちろん・・・」
「当然だ、アルム。すぐに殴り倒しに行くぞ。」
アルムさんの協力依頼に応じようと口を開いたところで、ルルさんが言葉を被せてきた。
もちろん僕に異論はないけど、これって僕がパーティーリーダーする必要なくない。
もうルルさんがリーダーでいいんじゃないかな。
「ルル殿、感謝する。ウィン殿、偵察隊の指揮をお願いしても?」
「いいですけど、メンバー、どうしようかな。僕とルルさんとフェイスさんで十分か。」
アルムさんは全体の指揮官なので外すとして、残りはこの3人だよな。
まあそれでも過剰戦力な気がしないでもないけど。
そんな算段を立てていると、
「あるじ〜、ディーくんとハナちゃんも参加するよ〜。それからね〜、他の従魔たち、最近出番なさ過ぎでダレてるから全員参加させようかな〜」
ディーくんがハナちゃんの頭を撫でながらそんな爆弾提案を投げてきた。
「ディーくん・・・・・いくらなんでもそれは・・・」
「名案だな。ウィン、それで行こう。」
「ディーくん殿、素晴らしい作戦だと存じます。」
僕がディーくんに再考を促そうとすると、ルルさんとフェイスさんが従魔の全員参加を肯定してしまった。
ルルさんの場合は派手な戦闘をしたいだけだろうし、フェイスさんは僕の従魔たちの情報を集めたいだけだろう。
僕としても強硬に反対する理由はないんだけど・・・・・。
でもこれ、偵察じゃなくて殲滅作戦になっちゃうんじゃないかな。
明らかに過剰戦力ですね。
でもそろそろ従魔たちも表舞台に立ちたいようです。
次回、従魔たちが暴走します。




