327.溶けちゃったんじゃないかな(空間収納)
パラン隊長との揉め事はまだ続きます。
それを止めたものは・・・・・
第四章 氷雪の国と不良王子(327)
(アンソロ編・氷樹地帯)
327.溶けちゃったんじゃないかな(空間収納)
パラン隊長の言葉を無視して、転移で他のメンバーたちと合流しようかなと考えていると、パラン隊長が親衛隊の騎士たちに命令する声が聞こえた。
「皆の者、魔物の亡骸を集めよ。戦果としてオール殿下に献上するぞ。」
おいちょっと待て。
今の言葉は聞き捨てならない。
いきなり獲物の横取りですか。
君たち、何もしてないでしょう。
騎士としての矜持とか、戦人としての自尊心とか、人としての礼儀とか、そういうものはないのかな?
「はっ、了解致しました。」
こちらの憤りに気付くこともなく、命令を受けた青の騎士たちは、雪狼の亡骸を回収するために動き始める。
まあ騎士たちに責任はない。
命令されればその通りに実行するのが仕事だし。
でもだからと言って、僕がその行為を許すかと言えば答えはNOだ。
「空間収納。」
僕がそうつぶやくと、平原を埋め尽くしていた雪狼たちの亡骸は一瞬で跡形もなく消え失せた。
元々何も無かったかのように。
「た、隊長、魔物が消えました。」
「何だと、そんなバカなことがあるか。」
「しかし・・・この通りどこにも見当たりません。」
「あんなにたくさんあっただろうが・・・」
パラン隊長は自身の目で氷樹地帯手前の平原を見渡し、そこに何もないことを確認すると、厳しい視線を僕に向けてきた。
「おい、冒険者。貴様、何をした?」
「さあ、何のことでしょう?」
「討伐した魔物をどこに隠した?」
「さて、溶けちゃったんじゃないですか。雪狼だけに。」
「ふざけるな! 冒険者風情が王家を愚弄する気か。」
「いやあ、僕、この国の人間じゃないのでよく分かりません。」
「何だと! 貴様! 許さん!」
パラン隊長はついに堪忍袋の緒が切れたようで、いきなり剣を抜いて切りかかってきた。
そんなに短気でよく隊長が務まりますねぇ。
まあ第二王子の親衛隊長だし、冒険者の一人や二人、斬り殺したところでどうにでもなるってことなのかも知れないけど。
僕はお世辞にも鍛えられているとは言い難いパラン隊長の剣筋を漫然と見つめ、僕に向かって振り下ろされる直前で【転移】を発動した。
ガツン。
盛大に空振りしたパラン隊長の剣はそのまま地面を叩き、反動でどっかに飛んでいった。
剣の持ち主は両腕を抱え込むようにしてうずくまっている。
あれは・・・手首を痛めたな。
相手に躱わされた場合を考えずに闇雲に振り下ろすなんて、戦人としては失格だ。
普通は二の太刀、三の太刀を想定して剣を振る。
僕が無抵抗のままで斬られるとでも思ったんだろうか。
それにしても、この国は実力主義だと思ってたけど、そうじゃない部分もあるみたいだ。
第二王子のあの性格なら、弱くても自分に媚を売る貴族を重用するってこともあり得るよな。
「ウィン、敵か? 殴ってもいいか?」
地面に膝をついたままのパラン隊長を眺めていると、いつの間にか隣にルルさんが立っていた。
僕がもめていることに気付いたのだろう。
【転移】で様子を見に来たようだ。
しかしいきなり現れて「殴ってもいいか?」って・・・・・
まあ以前のルルさんならいきなり殴ってただろうから、少しはマシになったってことかな。
あっ。
「ルルさん、ステイ。」
ルルさんが僕の返事を待たずにパラン隊長を殴り飛ばそうとしたので、慌てて止めた。
まったく油断も隙もあったもんじゃない。
「ステイ? どういう意味だ?」
振り上げた拳を途中で止めた状態で言葉の意味を質問してくるルルさん。
「とりあえず殴るのは無しでお願いします。」
「分かった。だが何かバカにされた気分だぞ。」
うっ、ルルさん鋭い。
「ステイ」は人に使っちゃいけないよね。
咄嗟に口から出ちゃったけど。
でもルルさん、凶暴な猛犬みたいだったから。
「ウィン殿、大丈夫か? パラン隊長が斬りかかったように見えたが。」
アルムさんが少し遅れて駆けつけて来た。
もちろんフェイスさんも一緒だ。
「ウィン様、先程の雪狼を消した魔法は何でしょうか?」
フェイスさんはパラン隊長のことなど眼中に無いようだ。
いきなり僕の魔法について質問してきた。
その飽くなきストーカー精神・・・いや情報収集への熱意には頭が下がります。
でも僕も聞きたいことがあったのでちょうどいいかも。
「あれは【空間収納】で回収しただけですよ。」
「空間収納? あの広範囲をですか?」
「はい。そう言われてみれば結構遠くまで収納できたな。」
「ウィン様、普通それはあり得ません。距離的にも、収納量的にも、常軌を逸しています。」
「そうなの? まあできちゃったからしょうがないよね。それよりフェイスさんに聞きたいことがあるんだけど。」
僕は自分の魔法に関する話を早々に切り上げて、フェイスさんに逆質問することにした。
「ウィン様、何でしょうか?」
「フェイスさんとアルムさんが担当した所、雪狼が肉眼で見えてましたよね。」
「はい。」
「なぜですか?」
「私が【氷雪迷彩】を剥がしました。」
剥がしました?
【迷彩】って剥がせるの?
どういうこと?
「私のスキル、【隠蔽(極)】は隠蔽剥がしが可能です。迷彩は隠蔽の一種ですので剥がせます。」
僕の頭の中で?マークが飛び交っていることに気づいたのだろう。
フェイスさんが説明を追加してくれた。
そういうことか。
レベルが【極】まで行くと、いろんなことができるんだね。
そういう意味では【空間収納】も、【収納(極)】って感じなのかな。
そんなことを考えていると、うずくまっていたパラン隊長が急に立ち上がり大声を上げた。
「皆の者、何をしておる。その不埒な冒険者どもを捕えろ! 斬り殺しても構わん!」
あ〜あ、また面倒なことを言い出しちゃいましたよ、この水牛隊長。
こちらのメンバーからすれば、青の親衛隊全員を敵に回しても問題ないと思うけど、隊員たちに非はないからね。
しかしさすがの騎士たちもすぐには行動を起こさない。
僕たちの力を見た後だからね。
それにこちらには元第三王子もいるし。
「お前たち、隊長の命令が聞こえんのか! すぐにこいつらを始末しろ!」
あ〜あ、そこまで言っちゃうともう抑えが効きませんよ。
主に僕の隣に立っている聖女様がね。
騎士団一つを全滅させちゃったら、カート君になんて言い訳しようかな。
これは無難にやり過ごせそうにないなと心の中でため息をついていると、後方から大きな声が響いた。
「そこまでだ、パラン隊長。」
「ノクセク、邪魔をするな!」
「控えろ! 王命である。」
「何だと!」
「王命」という言葉を聞いて、さすがのパラン隊長も動きを止めた。
それでも怒りは収まらないようで、鬼の形相でノクセク隊長のことを睨みつけている。
「こいつらと王命は関係ないだろうが!」
「この方々に関する王命である。パラン隊長、黙って聞け。」
えっ?
僕たちに関する王命?
カート君、いったい何を命令したんだろう?
お読み頂きありがとうございます。
ゆっくりですが、更新していきたいと思います。
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