324. 面倒ごとがやって来るようです(氷樹地帯)
ウィンのパーティーが氷樹地帯に到着します。
現地には、予想外に多くの人がいるようです。
第四章 氷雪の国と不良王子(324)
(アンソロ編・首都セリオン)
324.面倒ごとがやって来るようです(氷樹地帯)
結局、『獅子王』改め『カート君』からの依頼を、うちのパーティーで受けることに決定した。
ルルさんが受諾の返事をした以上、対外的には正式に契約が成立したことになる。
まあ僕も後で同意したけどね。
「ではウィン君、すぐにでも氷樹地帯に向かってくれ。報酬は何でも良いぞ。」
カート君(獅子王)はそう言い残すと、王妃様を伴って部屋を出て行ってしまった。
最後に見せた笑顔が、「してやったり」って感じでちょっとムカつく。
まあ、交渉ごとに関してはまだまだ僕の修行が足りないってことだろう。
それにしても報酬は何でもいいって・・・・・
大雑把なのか、こちらのことを完全に見抜いているのか。
正直言って僕たちにとって報酬はたいした問題じゃない。
お金は『七色ワーム洞窟』で十分稼いだし、特殊なクエスト報酬もある。
住むところは【小屋】があるし、移動手段は【転移陣】がある。
武具は【錬金】で作れるし、食べ物は従魔たちが勝手に集めてくる。
地位や名誉に至っては、むしろ無い方がいい。
僕が望むのはこの世界の知識。
ルルさんが望むのは強い魔物との戦闘。
リベルさんは食べ物があればいいし、フェイスさんは情報が命。
アルムさんは・・・・・たぶん己の成長だけが望みだろう。
「ウィン殿、これからどうされるのか?」
「仕方がないのでカート君と呼ぶことにします。」
そう答えると、アルムさんにすごく変な顔をされた。
質問の意味が違ったらしい。
「ウィン殿、そのことではなく依頼について・・・いや、本当に陛下のことを今後そう呼ぶと?」
「状況で使い分けようとすると失敗する気がするので、もうそれで行っちゃいます。」
「う〜む・・・公の場では問題が起きる気もするが・・・王命でもあるし・・・う〜む・・・」
アルムさんが難しい顔で考え込んでしまった。
まあアルムさんの立場からしたら複雑だよね。
でも考えても無駄な気がするのでさっさと話を進めちゃおう。
「ところでアルムさん、氷結湖ダンジョンと氷樹地帯について教えてもらえますか?」
僕がそうお願いすると、アルムさんは考え込むのをやめて顔を上げた。
「了解した。まず氷結湖ダンジョンだが、この国の最北端に広大な湖がある。湖と言っても厚い氷が湖面を覆っていて一年を通して溶けることはない。」
アルムさんの説明によると、この氷結湖の上だけが特殊なダンジョンになっているという。
湖面に足を踏み入れると多くの魔物が出現し、そのドロップ品の中に氷結石という鉱石があるらしい。
「アルムさん、氷結石というのは?」
「一見すると氷の塊に見える鉱石だが、冷たくもなく溶けもしない。そして魔素を豊富に含んでいる。今の所、氷結湖の魔物のドロップ以外では発見されていない。」
「冒険者がわざわざ収集に行くということは、利用価値が高いんですね。」
「その通りだ。魔道具の燃料として重宝するのでな。我が国の数少ない資源のひとつだ。」
それはとても興味深いですね。
是非たくさん集めたい。
従魔たちも張り切るんじゃないかな。
ダンジョン魔物のドロップ品なら、取り尽くすってこともないだろうし。
「ただその手前に氷樹地帯というのがあって、今回はそこで問題が起きているようだ。」
「氷樹というのは?」
「文字通り氷でできた樹だな。それが密集しているので氷樹地帯と呼んでいる。ここにも魔物はいるが、数も少なく弱い魔物ばかり・・・のはずだったが、なぜか強化されているとのことだ。」
氷でできた樹で『氷樹』か。
樹に氷が付着した『樹氷』ではないってことだな。
なぜそんなものができるのか不思議だけど。それを言い出せば魔法自体が不思議そのものなので、考えないことにしよう。
あとは強化された魔物。
うん、派手な衣装のあの人の姿がチラつくよね。
砦の上から消える際に、まだいろいろな準備があるって言ってたし。
あの魔族、いったい何がしたいんだろう。
「ウィン殿、氷樹地帯に向かう前に何か準備は必要か?」
「アルム、準備など常にできている。すぐに向かうぞ。」
アルムさんから僕への質問に対して、ルルさんが横から答えを返した。
ルルさん、早く『強化された魔物』と戦いたくてしょうがないんだろうな。
『氷だるま』との戦いではリベルさんに美味しいところを持って行かれちゃったしね。
ルルさん的には闘争心が不完全燃焼ってところか。
「アルムさん、すぐに氷樹地帯へ向かいましょう。方向的にはどっちになります?」
「この方向だな。」
アルムさんは右腕を上げて一つの方向を指差した。
「あっ、そうだ。氷樹地帯って、他にもあります?」
「他にはない。」
「それなら大丈夫ですね。僕がアルムさんとフェイスさんと一緒に転移します。」
氷樹地帯が一つしかないなら間違うこともないだろう。
少し手前を目的地に指定すれば大丈夫なはずだ。
まあ多少ずれても問題はないし。
「ルルさんは少し遅れて転移して下さい。目標は僕がいる場所で。」
「了解した。」
ということで僕はアルムさんとフェイスさんの腕を掴んで、『転移陣』を発動した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ウィン、人が多いな。」
「そうですね。」
一瞬遅れて転移してきたルルさんが目の前の光景を見てそう言った。
僕も同じ感想を抱いていたので素直に同意した。
転移先の指定に間違いはなかったけど、ちょっと僕が想定していたのと違う状況だ。
氷樹地帯の手前の平原には、大きく分けて3つの集団が拠点を構えていた。
1つは、不揃いの武具を身につけた集団で所々に簡素なテントが張られている。
おそらく氷結湖ダンジョンを目指してやって来た冒険者たちのグループだろう。
他の2つはどう見ても冒険者には見えない。
それぞれに統制の取れた集団で、一方は青、もう一方は緑を基調にした揃いの武具で身を包んでいる。
どちらの集団も中央に大きなテントが設置されていて、それを囲むように小さなテントがいくつか見える。
おそらくどこかの騎士団とかじゃないかな。
「これはまた・・・面倒なことを・・・」
アルムさんが、青と緑の集団に順番に視線を向けて、ため息交じりに
言葉をこぼした。
「アルムさん、どうしたんですか?」
「ウィン殿、どうやら陛下に面倒ごとを押し付けられたようだ。」
「面倒ごと?」
「ああ。その面倒ごとが向こうからやって来るぞ。」
そう言われてアルムさんの視線の先を見ると、青と緑の集団それぞれから馬に乗った騎士が、こちらに向かって来るのが見えた。
お読み頂きありがとうございます。
不定期ですが、投稿を続けますのでよろしくお願いします。




