322. アルムちゃん? (親馬鹿?:獅子王)
アルムさんの父親、獅子王が登場します。
第一王子と第二王子も。
第四章 氷雪の国と不良王子(322)
(アンソロ編・首都セリオン)
322.アルムちゃん?(親馬鹿?:獅子王)
「アルムちゃん、やっと来てくれたか。たまには顔を見せてくれんとパパも寂しいじゃないか。」
僕たちは今、王城の謁見の間にいる。
両側には煌びやかな衣装を纏った様々な獣人族が並び、その後方に鎧を着た衛士たちが控えている。
武闘派の獣人族でも公式の場では身なりを整えるようだ。
正面壇上の玉座に獅子王、向かって右側に王妃様らしき女性が座り、彼女の隣に獅子族の若者が2人立っている。
4人とも見た目はヒト族と変わらないけど、王妃以外は髪型が金色の鬣だ。
外見は無骨な王城だが、さすがに謁見の間はそれなりに豪華な造りだ。
玉座も多くの宝石が散りばめられ、キラキラと光を反射している。
国外からの使節団を迎えることもあるだろうし、国の権威や王の威厳を保つためには最低限の体裁が必要なんだろう。
そんなふうにわざと意識を逸らしてみたけど、やっぱり冒頭の発言が頭から離れない。
獅子王がアルムさんに向かって放った言葉。
アルムちゃん?
パパ?
耳がおかしくなったんだろうか。
「父上、平民の冒険者ごときにそのような言葉をかけるのは・・」
「黙れ、第二王子。口を挟むな。それに公の場では陛下と呼べ。」
右端に立っている若い獣人が獅子王からお叱りを受けた。
あれがたぶん第二王子だろう。
フェイスさんが敬称を付けずに「オール」と呼び捨てにしてた人物。
弟のアルムさんのことを『平民の冒険者』呼ばわりする辺り、性格はよろしくなさそうだけど、今のはちょっとかわいそうな気もする。
だって、王様、自分のことパパって言ってたし。
「陛下、登城せよとの報を受け急ぎ参じました。」
「アルムちゃん、パパに対して他人行儀すぎるんじゃないかな。もっと普通にしゃべっていいんだよ。」
「それは畏れ多きこと。私は陛下の庇護を受ける民のひとり。何なりとご下命を。」
「アルムちゃん、相変わらずつれないなぁ。パパのこと嫌いなのかな?」
「けしてそのようなことは・・・」
アルムさんが獅子王の態度にとても困った顔をしている。
一方、壇上の第二王子は苦虫を噛み潰したような顔だ。
これだけ対応に差をつけられると当然だけどね。
でも第二王子以外の人たちが平然としているってことは、これがデフォルトなのか?
選択肢としては、獅子王がアルムさんを溺愛してるか、第二王子を毛嫌いしてるかの2択だけど、両方かもしれない。
それとも他に何か深い意図があるんだろうか。
う〜ん、今ひとつ獅子王の人となりが読み切れない。
「ところでウィン殿、アルムと共に登城して頂き感謝する。」
王と王子たちの関係性について考えていると、突然獅子王が僕の方を向いて言葉を発した。
その瞬間、強い【威圧】が僕を襲う。
僕の心の隙を狙ったような先制攻撃。
巨大な魔物が咆哮を上げて僕を丸呑みしようとするイメージが僕の心に迫ってきた。
なるほどこれが獣人族を束ねる王の力。
獅子王の獅子王たる所以か。
まあ僕にはあんまり効果ないけどね。
「陛下の許可もなく同行いたしましたこと、謝罪申し上げます。」
「いやいや気にすることはない。アルムの友であればいつでも歓迎する。それにしてもわしの【威圧】を受けてもビクともせんか。アルムがついて行きたくなるのも理解できるな。」
僕が平然と答えると、獅子王は【威圧】を解き、表情を和らげて顎に手を当ててうんうんと頷いた。
情報が早いな。
アルムさんが僕のパーティーに参加したことをすでに把握している。
まあこの国の王様だしね。
隠密とか諜報員とかそこら中にいるんだろうな。
あっ、フェイスさんがその役割って線も・・・・・
彼女もアンソロの国民だからね。
「獅子王、ウィンを試すな。【威圧】を返されて醜態を晒すことになるぞ。」
「無礼者! 陛下に対してその態度は何だ。ここで手討ちにするぞ。」
ルルさんの言葉に第二王子が噛み付いた。
オール王子はかなり短気な性格のようだ。
でも今のはルルさんが悪い。
下手に出ろとは言わないけど、謁見の間で王様の前なんだからもう少し丁寧に対応できないものかな。
「第二王子、口を挟むなと言ったはずだが。」
「しかし陛下、このような無礼を許すわけには・・・」
「ならば貴様がルル殿と戦ってみるか?」
「お許しを頂けるなら今すぐにでも。」
「馬鹿者、彼我の実力差も分からぬとは・・・まだまだ修行が足りぬ。」
まあ獅子王の言う通りだろう。
【鑑定】した訳じゃないけど、今の第二王子ならルルさんには手も足も出ないだろう。
とんでもない隠し球でも持ってない限り。
「陛下、発言の許可を頂けますか?」
王妃様のすぐ隣で沈黙を守っていた若い獣人が口を開いた。
立ち位置からして第一王子のゴルデ様だろう。
こちらの王子のことは、フェイスさんが『様』をつけて呼んでいたはず。
「第一王子、発言を許可する。」
「陛下、ありがとうございます。第二王子と聖女ルル様に模範試合の機会を与えてみてはと愚考致します。」
「第一王子、理由は?」
「噂に聞く『孤高の聖女』の力、私もこの目で見てみたく存じます。」
「なるほどな。ルル殿、如何かな?」
「是非もない。受けてやる。」
ルルさん、即答ですか。
まあそうなるでしょうね。
戦闘大好き聖女ですからね。
でもいいのかな。
いきなり王族をぶちのめしても。
「では陛下、場所を移して・・・」
「その必要はない。第二王子、すぐに壇上から降りろ。」
第一王子が言いかけた言葉を途中で遮り、獅子王は第二王子に謁見の間の平場に降りるよう命令した。
「陛下、この場で戦わせるのは・・・」
「構わぬ。それに第一王子、貴様も理解しておらぬようだ。よく見ておれ。聖女ルル殿の力を。」
獅子王の命令を受けて第二王子が壇上から降りてルルさんの前に立った。
謁見の間なので武器類は誰も携帯していない。
素手同士での戦いになる。
獅子族には鋭利な爪があるので有利に思えるが、ルルさんが相手では誤差の範囲だろう。
「ルル殿、第二王子、模範試合を許可する。はじめ。」
獅子王の開始の声とともに僕の隣からルルさんが消えた。
次の瞬間、第二王子が前方に飛ばされる。
そして床に倒れる前に上方に跳ね上がる。
さらに空中で左に飛び、途中で跳ね返るように右に飛び、最後に床に叩きつけられた。
結果的に第二王子は元々立っていた場所に倒れている形になった。
気がつくとルルさんは僕の隣で腕を組んで立っていた。
まるで何事も無かったかのように。
すべてが試合開始前と同じ状況。
第二王子がうつ伏せに倒れている以外は。
謁見の間にいる獣人族の人たちは何が起こったのか理解できずに目を見開いて固まっている。
結果を予想していたはずの獅子王まで驚きを隠せていない。
こちらサイドとしては予想通りだけどね。
「ルル殿、これほどとは・・・。」
「獅子王、もう以前の私ではない。ウィンのおかげでな。」
「ウィン殿も同じレベルということか?」
「バカを言うな。ウィンが相手なら、そこで倒れてるのは私の方だ。」
「なんと・・・」
ルルさんの言葉に再び目を見開く獅子王。
しかし・・・・・
2人とも、そんな会話してる場合じゃないと思いますけど。
第二王子、ぴくりとも動いてませんよ。
死んでないですか。
ルルさんの拳、連続で5発喰らってますからね。
王族の鎧のおかげでかろうじて息はしてるようだけど。
でもこのままだと死んじゃいますよ。
それじゃあ王族殺しになってしまう。
仕方がないな。
「ヒール。」
勝手に動いていいのか分からなかったので、僕はその場に立ったままで【ヒール】を第二王子に向かって発動してみた。
すると、第二王子の上に光の塊が出現しその体を包み込んだ。
しばらくすると、
「・・・いったい・・・何が・・・」
第二王子は頭を振りながらよろよろと立ち上がった。
無事に【ヒール】の効果が出たようだ。
僕はほっと胸を撫で下ろす。
王族殺しで指名手配なんてシャレにならないからね。
それにしてもルルさん、もうちょっと手加減とか・・・・・
あっ、ルルさんの辞書にはそんな言葉ありませんでしたね。
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