321. 一緒に王城に行くようです(最後の砦:王城)
【小屋】を使って首都セリオンに戻ったウインんたちは、アルムと一緒に王城に向かいます。
第四章 氷雪の国と不良王子(321)
(アンソロ編・首都セリオン)
321.一緒に王城に行くようです(最後の砦:王城)
「地下と2階と庭まで!?」
フェイスさんの表情は半分驚きながら半分は嬉しそうだ。
情報収集マニアとしての血が騒ぐんだろう。
「こういう空間を作る魔法って、他に無いんですか?」
「私は存じ上げません。空間自体に影響を与える魔法はいくつかありますが。」
「【転移】とか、【影潜り】とかですか?」
「はい、ウィン様が使用されている【空間収納】もそうですね。いずれにしても希少な魔法です。」
そうなんだ。
あれっ、でも【空間収納】ってある意味、収納する空間を作ってるってことじゃないのかな。
もしかすると【小屋】って【空間収納】の特殊形態?
僕の【空間収納】が【小屋】に接続できるのはその辺が理由かもしれない。
「ウィン様、お願いがあります。」
「なんでしょう、フェイスさん。」
「地下と2階と庭を見せて頂けませんか?」
フェイスさんがそう言いながら上目使いで僕を見つめてきた。
おおっ、もの凄い破壊力。
妖艶美女の上目使いって、無敵の最終兵器だよね。
でもここは我慢しないと。
見せるとなると絶対に短時間では終わらないはずだから。
「フェイスさん、アルムさんの王城訪問が優先です。」
「やはりダメですか?」
「いえ、後で必ずお見せします。」
「本当ですか、ウィン様?」
「はい、約束します。」
今さらフェイスさんに隠し事をするつもりはない。
ただ父親(獅子王)から呼び出しを受けているアルムさんを放置したままで、ここで時間を浪費する訳にはいかない。
ということでアルムさん、移動しますよ。
「これはいったい・・・・・」
扉を抜けるとそこは首都セリオンの商人ギルドの裏庭だった。
まあ、そう設定したからね。
予め説明したんだけど、それでもアルムさんの驚きは大きかったようだ。
入って来た時と同じ扉から出てみたら、遠く離れた別の場所に出ちゃいましたっていうのは、慣れないと動揺するよね。
「アルム、考えるな。」
「しかしルル様、これは。」
「ウィンを人間と思うな。不条理の魔物だと思っておけ。」
ルルさん酷い。
僕のことをそんなふうに思ってたんですね。
いくらなんでも『魔物』はないと思います。
世が世なら、いや世界が世界ならセクハラかパワハラかモラハラか・・・・・
よく分からないけど、きっと何かのハラスメントに該当するはずです。
後でじっくり話し合いましょう。
「アルム様、ここからなら王城はすぐそこ。徒歩で向かえます。我ら外征騎士団がお供致します。」
【小屋】を出てしばらく呆然としていたヴォルグさんが正気に戻り、アルムさんに登城を進言してきた。
騎士団の面々も慌てて行進の隊形を組む。
「そうだな。行くとするか。ウィン殿、ルル様、ご同行願えるか?」
「えっ?」
「もちろん。」
アルムさんの言葉に僕は驚きの声を上げ、ルルさんは当然のように承諾する。
アルムさん、これから王城で王様に会うんですよね。
そこに呼ばれてもいない僕たちが一緒に行ってもいいんですか?
当然ここは、行ってらっしゃいと見送る場面だと思ってたんですけど。
「ウィン、冒険者がパーティーメンバーと行動を共にするのは当たり前のことだ。」
「でもルルさん、王様に会うんですよ。」
「冒険者にとっては、王も貴族も平民も魔物も関係ない。」
そうなんですか?
ルルさん、いつも自信満々に言うから信じそうになるけど、意外に常識から外れてることが多いからなぁ。
鵜呑みにすると面倒事に巻き込まれる可能性が・・・・・
あと、王様と魔物は同列に並べちゃいけない気がします。
「ウィン殿、大丈夫だ。獅子王は強き者を好む。ウィン殿、ルル様、フェイスであれば問題なく王城に入れるはずだ。」
アルムさんがそう明言する。
そう言えばフェイスさんも一緒でしたね。
リベルさんはややこしくなりそうなので【小屋】に居残りしてもらいました。
最初ちょっとゴネたけど追加の串焼き10本で手を打ちました。
花コウモリじゃなく魚介の串焼きで。
それから従魔たちも今回は待機組です。
まあいつでも【召喚】できるので。
「では出発いたします。」
ヴォルグさんの号令で一同が動き出した。
先頭は騎士団長のヴォルグさん。
2列目にアルムさん、ルルさん、フェイスさんと僕。
その後ろに騎士団員が隊列を組んだ状態で進んで行く。
街中を歩いていると周辺の人々からアルムさんに声がかかる。
「不良王子さま〜」
「黒騎士さま〜」
「第三王子さま〜」
「騎士団長さま〜」
「黒獅子のお兄ちゃ〜ん。」
呼ばれる名前は様々だけど、さすがのアルムさんもいちいち訂正したりしない。
声がする方へ軽く手を挙げている。
でもこんなに人気があるなんて羨まし過ぎる。
王族や貴族たちがアルムさんのことを警戒するのも仕方がないのかもしれない。
「どうぞ中へお進み下さい。」
王城の正門らしき場所に到着するとヴォルグ騎士団長がそのまま僕たちを門の中へ通してくれた。
どうやら前触れの伝令を出していたようで、門番が僕たちの存在を訝しむ様子もなかった。
城壁の内側に入り正面を向くと見慣れない光景が広がっていた。
もちろんこの世界の王城に入るのは初めてなので、見慣れないのは当たり前だけど、想像していたものとかなりかけ離れている。
広い前庭には石造りの四角い建物が等間隔で並び、その後方に巨大な建物が鎮座している。
四角い建物が前線基地で巨大な建物が本拠地って感じ。
おそらくあれが王城本体だと思うけど、僕がイメージする王城とは形状がまったく違う。
華やかな尖塔や優美な装飾はまったくなく、堅牢な砦のように見える。
「アルムさん、ここ、王城ですよね。」
質実剛健を絵に描いたような王城を見つめたまま、僕は思わずそう尋ねていた。
「ウィン殿、何か疑問でも?」
「いえ、どちらかというと砦みたいだなと。」
「ご推察通りだ。ここがこの国の最後の砦なのでな。」
「ここまで攻め込まれた場合を想定してるってことですか?」
「最悪の場合、民を逃した後にここで最終決戦に臨む。」
なるほど。
さすが獣人族、戦闘民族としての思考が徹底している。
これは、獅子王との面談には相当気合を入れないと、圧倒されてしまうかもしれない。
お読み頂きありがとうございます。
不定期更新になっており申し訳ありません。




