318. 神様は2人しか知りません(『七神に愛されし者』:ウィン)
武神様と称号神様以外にも神様がいるようです。
多神教設定ということで・・・
第四章 氷雪の国と不良王子(318)
(アンソロ編・首都セリオン)
318.神様は2人しか知りません(『七神に愛されし者』:ウィン)
「アルムさん、リベルさん、ちょっと鑑定かけてもいいですか?」
ディーくんがメルさんを連れ去ってくれたおかげで落ち着いて会話できるようになったので、僕は2人にそう尋ねた。
黙って鑑定してもよかったけど、一応パーティーメンバーだし、礼儀は尽くしたほうがいいよね。
「ウィン殿、私は構わぬが。」
「ウィンさん、串焼き10本で手を打ちましょう。」
2人が承諾してくれたのでリベルさんに追加の串焼きを渡してから、まずアルムさんに人物鑑定をかけた。
表示は気になる部分だけに限定した。
【鑑定結果】
◯アルム
称号 : 『不良王子』『黒の騎士』『漆黒の獅子』
『百獣のもふもふ王』(新規)
やっぱり。
称号神様、完全に暴走してますよね。
もうルールとか完全無視な感じですけど、神としてそれでいいんですか。
まあ特に害は無いので構いませんけど。
続けてリベルさんにも鑑定をかけた。
【鑑定結果】
◯リベル
スキル : 勇者の剣・光衣・剣術(上)・光縛り
射光(新規)・滅光(新規)・断光(新規)
【射光】(光の剣一の型): 物理攻撃としての光線。
【滅光】(光の剣二の型): 浄化系の光。闇属性の魔物を滅する。
【断光】(光の剣三の型): 魔法を切り裂く光の剣。
リベルさんの言葉の通り、新しいスキルが3つ増えている。
従魔たちとの特訓の成果なんだろう。
でもこの短期間に3つもスキルを身につけるなんて、リベルさん、 『庭』で地獄の日々を過ごしたに違いない。
でも獲得したスキルは、血を見ずに相手を倒せそうなものばかりだ。血に対する耐性はまだできていないのかもしれない。
精神的な忌避感って、そう簡単に訓練で克服できるものでもないからね。
「お久しぶりです、アルム様。」
集団が近づいて来る気配には気づいてたけど、殺気も敵意も感じなかったので放置していたら、その先頭に立つ人物がアルムさんに声をかけてきた。
綺麗に揃えられた武具を身につけた獣人たちなので、おそらくこの国の騎士団かなにかだろう。
先頭の人物は狼獣人に見える。
「久しぶりだな、ヴォルグ副団長。いや、今はヴォルグ騎士団長か。」
「はい。しかし私の中では、今でも騎士団長はアルム様です。」
「迂闊なことを言うものではない。王への叛意と見做されるぞ。それに私は自ら職を辞したのだ。」
「アルム様の御心は全ての騎士団員が正しく理解しております。お守りすることができず申し訳ありません。」
「お前たちが守るべきはこの国であり、そこに住む者たちだ。勘違いするな。」
「しかしそれでも、己の不甲斐なさを消し去ることはできません。」
「気にするな。私は私なりに新しい道を進んでいる。」
うん、いきなりシリアスな話が展開してる。
アルムさんってやっぱり慕われてたんですね。
でも現騎士団長のヴォルグさんもいい人そうだし、騎士団に問題が生じてるとかは無さそう。
「アルム様、その者たちは?」
「ああ、私の・・・仲間だ。」
「仲間! ということはようやく支持者たちを集めるということですね。」
「ヴォルグ、それは違う。彼らはウィン殿のパーティーメンバーだ。私もそのパーティーに参加させて頂くことになった。」
「アルム様が冒険者パーティーに!?」
「そういうことだ。」
アルムさんの説明を聞いてヴォルグさんが愕然とした表情になった。
まあそりゃ驚くよね。
アルムさん、現在の身分は冒険者だけど元々この国の第三王子だから。
そんな高貴な人物が自分でパーティーを作るならまだしも、平民の冒険者が作ったパーティーに所属するなんて、普通ならあり得ないだろうし。
「しかしアルム様、どう見てもこの者たちはアロンソ所属の冒険者には見えないのですが。」
衝撃から立ち直ったヴォルグさんが、いかにも当たり前な疑問を口にする。
ルルさんと僕はヒト族(僕は『?』付きだけど)、リベルさんはエルフ族、獣人族はフェイスさんだけなのでどう見てもアロンソの冒険者パーティーには見えないだろう。
まあフェイスさんはパーティーメンバーじゃないけどね。
「私とウィンはコロンバール所属だ。」
「ボクはアマレパークス。もぐもぐ。」
「私は冒険者ではありません。」
ヴォルグさんの疑問にルルさん、リベルさん、フェイスさんが答える。
「アルム様、なぜ他国のパーティーに?」
「広い世界を見たくなってな。」
「この国を出られると? まさか我々を見捨てられるのですか?」
「馬鹿を言うな。この国を捨てるなどあり得ん。だが私はもっと成長せねばならぬ。」
アルムさんの言葉を聞いてヴォルグさんが悔しそうに口元を歪めた。
うん、分かりますよ、その気持ち。
成長するために自分たちより余所者を選んだってことだからね。
まあ立場とか状況とかいろんな要素が絡むから、優劣の問題じゃないとは思うけど、そう簡単に割り切れないよね。
「我々よりもこの者たちを選ぶと、そう言われるのですね。」
「端的に言えばその通りだ。しかしヴォルグ、騎士団長たるもの、常に冷静に客観的判断をしなければならぬ。よく見てみろ。ウィン殿以外はお前のよく知っている人物だと思うが。」
アルムさんの指摘を受けて、ヴォルグさんは初めて強い視線を僕たちに向けた。
それまではアルムさんに気を取られて、サラッとしか見てなかったからね。
「・・・まさか・・・狐獣人族の族長フェイス様。」
「お久しぶりです、ヴォルグ様。」
フェイスさんに気付いた瞬間、ヴォルグさんの額に冷や汗が浮かんだ気がした。
フェイスさん、滅茶苦茶怖がられてますね。
あと、フェイスさんって狐獣人族の族長なんですね。
「そちらは・・・『孤高の聖女』ルル様!」
「狼副団長、いや今は狼騎士団長か。久しぶりだな。」
あれっ、ヴォルグさんの背筋が伸びた気がする。
もしかしてルルさんって、フェイスさんより怖がられてる?
「それに・・・ああ『光の勇者』リベル様。」
そこでヴォルグさんはあからさまにホッとした表情で一息ついた。
この流れで安堵されるリベルさんの存在って何なんだろう。
まあ本人は串焼きをもぐもぐしていてまったく気にしてないけどね。
「そして彼らを率いているのがこのウィン殿だ。」
ヴォルグさんの視線が僕に向けられたタイミングで、アルムさんがそう告げた。
ヴォルグさんの顔にハテナマークが浮かぶ。
まあ初対面だし、「どなた様?」って感じだろうな。
「ヴォルグ、噂くらい聞いてるだろう。あの、『七神に愛されし者』、それがウィン殿だ。」
アルムさんのその言葉を聞いて、ヴォルグさんの顔がハテナマークからビックリマークに変わる。
そして今度は僕の顔がハテナマークになる。
『七神に愛されし者』?
何それ?
初耳なんですけど。
この世界には神様が7柱いるってこと?
それともいっぱいいる中の特別な7柱?
とりあえず僕が知ってるのは、女性が大好きな武神様と遊び心が過剰な称号神様だけだけど。
「まさか・・・・・実在するのですか?」
「ああ、目の前にな。私も今日まで信じていなかったが。」
「ではあの噂もすべて真実だと?」
「真実は噂以上だそうだ。フェイスによるとな。」
「フェイス様が・・・それならば疑いようもありません。」
ヴォルグさんは真剣な表情で深く頷くと、僕の顔を見た。
「ウィン殿、挨拶が遅れました。外征騎士団団長のヴォルグと申します。」
「どうも。ウィンです。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。『七神に愛されし者』にお会いできて光栄です。」
「ちょっと待って下さい、ヴォルグさん。その呼び名はいったい何なんですか?」
「何と言われましても・・・ウィン殿の二つ名ですが。」
「初めて聞くんですけど。」
僕が困惑顔でそう言うと、アルムさんが会話に参加してきた。
「ウィン殿、二つ名には2種類ある。」
「2種類?」
「そうだ。簡単に言えば自称と他称だな。自称の場合は周囲が認めなければ定着しない。逆に他称の場合、周囲には広がっているが本人は知らないということもある。」
そういうことなのか。
でも『七神』ってどういう意味だろう。
なぜそんな呼び名が・・・・・
疑問をそのままアルムさんに尋ねようとしたところで、再びあの声が背後から聞こえた。
「『龍』の文字が抜けておりますな。」
それはもちろんパサートさんの声だった。
お読みいただきありがとうございます。
ストックが切れかけてますが、今週もう1話投稿します。




