315. どちら様でしたっけ?(救世主?:リベル)
レギュラーのはずなのに、すぐ忘れられる人が登場。
果たして救世主となるのか。
『氷だるま』戦が続きます。
第四章 氷雪の国と不良王子(315)
(アンソロ編・首都セリオン)
315.どちら様でしたっけ?(救世主?:リベル)
「ウィン、ひと当たり、行くぞ。」
「了解です。」
ルルさんの言葉を、物理攻撃を試すという意味だと理解して、僕は『氷だるま』の真上に転移した。
そして『黒の剣』を長剣に変化させて、落下しながら『氷だるま』の頭部に振り下ろした。
カキーン。
甲高い打撃音が辺りに響き渡る。
まるで金属に斬りつけたかのような感触が両腕に伝わった。
氷の表面をわずかに削り取ることはできたけど、その部分もあっという間に修復されてしまう。
【攻撃耐性(大)】、【氷雪再生】、【隠蔽】、このトリプルコンボは厄介過ぎる。
そんなことを考えながら地面に向かって落下していると、頭上で魔力の渦を感知した。
『氷だるま』の頭部、『笑顔』の口の辺りだ。
これはまずい。
僕はすぐに【転移陣】を発動してその場を離れる。
ドコーン。
巨大な『氷玉』が僕が居た辺りを通り過ぎて地面に激突した。
そしてそのまま周辺を凍りつかせる。
あんなのまともに食らったら死んじゃうよね。
もし死ななくてもその後全身が凍りついて、やっぱり死んじゃうよね。
これじゃあ迂闊に近寄れないじゃん。
僕が冷や汗をかきながら砦の上に転移で戻ると、ちょうどルルさんも戻ってきたところだった。
「ウィン、どうだ?」
「全然ダメでした。ルルさんは?」
「ダメだ。何ヶ所も殴ったが少し削れるだけだ。それにすぐ元に戻る。」
「氷玉も危ないですよね。」
「ああ、打ち砕こうと思ったが、直前で止めた。」
ルルさん、避ける前に殴ろうとしたんですね。
ルルさんらしいけど、よく思いとどまりましたね。
殴ってたら間違いなく冷凍保存状態になってましたよ。
そこはやっぱり、野生の勘みたいなものですか。
「ウィン、下らないことを考えずに対策を考えろ。」
「えっ、僕が?」
「当たり前だ。リーダーだろう。」
「それはそうですけど・・・今回は難問というか・・・」
ただでも寒さで頭が回らないのに、この面倒な特異種の討伐方法を考えるなんて・・・・・
あれっ、そう言えば・・・・・
全然寒くないぞ。
…旦那、そろそろクエスト結果、表示するぜ…
【冷温耐性クエスト①〜③】 (達成済み・表示省略)
【冷温無効クエスト】
クエスト : 氷雪系魔物を倒せ
報酬 : 冷温無効
達成目標 : 氷雪系魔物討伐(100体)
カウント : 500/100
【討伐クエスト】
スノーマン・ゴーレム ☆☆
クエスト : スノーマン・ゴーレムを倒せ
報酬 : かき氷(1個)
達成目標 : スノーマン・ゴーレム(5体)
カウント : 100回達成済み
僕の疑問に反応したのだろうか。
唐突に「中のガンちゃん」からのメッセージが表示された。
いつの間にか【冷温耐性】をすっ飛ばして【冷温無効】を獲得していたようだ。
あの『雪だるま』軍団、500体もいたんだね。
【冷温無効】ってことは、『氷玉』を食らっても大丈夫ってことかな。
僕の場合すでに【打撃無効】も持ってるし。
でも当たり方によっては『氷玉』と地面の間でペシャンコになる可能性はあるのか。
油断せず気をつけることにしよう。
あと『雪だるま』の討伐報酬でかき氷を100個ゲットしていた。
2つ星の魔物を5体倒してかき氷1個って。
相変わらず【討伐クエスト】の報酬って微妙だよな。
「アルムとメルは待機。ウィン、もう一度行くぞ。」
視界に表示されたクエスト結果に気を取られていると、ルルさんが再び叫んだ。
アルムさんとメルさんには待機の指示。
これは妥当な判断だろう。
あの『氷玉』があるので転移できない2人には危険が大き過ぎる。
「ウィン、次は繋ぎ目を狙え。」
ルルさんは僕にそう指示して転移した。
繋ぎ目とは2つの球体の接点という意味だろう。
頭部(上の球体)と胴体(下の球体)の間の部分。
確かにそこが一番弱そうに見える。
まあ、そんなに甘くはないだろうけど。
僕はルルさんに続いて転移し、『黒の長剣』を『氷だるま』の繋ぎ目に向かって水平に打ち込んだ。
たぶん跳ね返されるだろうな。
そう思っていると、
ブーン。
『黒の長剣』は何の手応えもなくそのまま振り抜かれた。
あれ?
何だ今の?
繋ぎ目部分の氷が消えた?
いや、上の球体が浮き上がって隙間ができたのか。
すぐに転移で距離を取り『氷だるま』の方を見ると、その巨体は何事も無かったように聳え立っていた。
「ウィン、何があった?」
ルルさんが僕の隣に転移で現れ、状況を確認してきた。
「繋ぎ目を狙ったんですけど空振りしました。一瞬頭部が浮き上がったような・・・。」
「本当か。それなら試したいことがある。ウィン、もう一度頼む。」
そう言い残してルルさんはすぐに転移で消えた。
ルルさんの狙いが何となく分かったので、僕もすぐに転移で移動した。
もちろん『氷だるま』の繋ぎ目のところへ。
ブーン。
『黒の長剣』を振り抜くと、前回同様に空振りした。
今回はしっかり観察していたので、斬撃の瞬間に上の球体が浮き上がるのが見えた。
そしてその直後、頭上で大きな打撃音が響いた。
ドコーン。
『氷だるま』の上下が分離したタイミングを狙って、ルルさんが上の球体(頭部)に打撃を叩き込んだのだ。
ルルさんと僕の連携攻撃は狙い通りの効果を発揮し、『氷だるま』の頭部はクルクル回転しながら飛んで行った。
かなり遠くまで。
しかし・・・・・
『氷だるま』の頭部は地面でワンバウンドすると空中で動きを止め、そこから真っ直ぐ胴体部(下の球体)のところに戻ってきた。
そして再び接続する。
分離してもダメか。
やっぱり核を破壊しない限りどうにもならないんだね。
あれっ?
『氷だるま』の表情が変わってる?
あれは怒ってる?
嫌な予感がするぞ。
胴体部に再び接続した『氷だるま』の表情が『笑顔』から『怒顔』に変化していた。
そしてその口から連続して『氷玉』を発射し始めた。
ルルさんと僕は短距離の転移を多用して『氷だるま』の攻撃を避け続けた。
地面のあちこちに氷の山が林立する。
しばらく逃げ回りながら様子を見たけど、なかなか『氷だるま』の怒り状態が解除されない。
仕方がないので2人とも一旦砦の上に避難することにした。
「ふぅ〜。ルルさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。しかし手強いな。」
「そうですね。」
「ウィン、何かいい案はないか?」
「すみません。まだ思いつきません。」
そんな会話を交わしていると、久しぶりの声が背中から聞こえた。
「あるじ〜、まだまだ修行が足りないねぇ〜。」
振り向くとそこにはディーくんが立っていた。
背後にウサくんと1人の男性を従えて。
え〜と、どちら様でしたっけ?
というのは冗談ですけど、大変申し訳ありません。
リベルさんのこと、まるまるすっかり失念してました。
お元気でしたか?
僕は心の中でリベルさんに深く謝罪しながら、ディーくんの方を見た。
『氷だるま』討伐のための妙案を期待して。
お読みいただきありがとうございます。
狙ってるわけではありませんが、寒い時期に極寒の地での話が続きます。
よろしくお願いします。




