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314. ネーミングセンスが向上しているようです(慇懃無礼魔族:パサート)

吟遊詩人、再再登場です。

絡みは少ないですが。

『氷だるま』との戦闘も始まります。

第四章 氷雪の国と不良王子(314)

  (アンソロ編・首都セリオン)



314.ネーミングセンスが向上しているようです(慇懃無礼魔族:パサート)



「これはこれはウィン様、何かお困りですかな?」


突然背後から聞こえた声に振り向くと、そこには派手な衣装の吟遊詩人が立っていた。


「パサー、うわっ。」


僕が吟遊詩人の名前を言い切る前に、ルルさんが飛び出してその右拳を彼の体に叩き込んだ・・・ように見えた。

しかしパサートさんの姿は瞬時に消え、少し右側にずれた位置に再び現れた。


「これはこれは聖女ルル様、ご機嫌麗しいご様子。重畳でございます。」


パサートさんは少しも動じることなく、左手を腹部に当て右足を一歩引いて貴族のようなお辞儀をして見せた。


「ふん、食えないやつだな。しかし断りもなく女性の背後に立つのは感心せんな。」

「ルルさん、だからっていきなり殴りかかるのもどうかと。」

「ウィン、甘いな。気配も魔力も感じさせず死角から近づく者など、すべて敵だ。」


まあ確かにその通りなのかもしれませんが。

それにパサートさんって、「手段は選ばず絡め手上等」って感じのキャラではあるけど。

それでも後ろからこっそり撃つタイプじゃないと思うんですよね。


「ウィン様、ご注意を。この手の輩は堂々と目の前に立ったままで後ろから撃つタイプですので。」


フェイスさん、ご忠告ありがとうございます。

表現はややこしいけどニュアンス的には理解できました。

油断しないように気をつけます。


「ウィン殿、この者は?」

「ウィン、こいつ誰?」


アルムさんとメルさんが同時に尋ねてきた。

そう言えばこの2人はパサートさんと初対面だったね。

でもどう紹介すればいいかな。

とりあえず事実だけ伝えるか。


「え〜と、こちら吟遊詩人で魔族のパサートさん。格闘大会の準決勝で対戦しました。妙な魔法を使うので苦戦しました。」

「パサートと申します。以後お見知りおきを。」


パサートさんはアルムさんとメルさんに対しても、男性版のカーテシーのようなお辞儀をして見せた。


「私は冒険者のアルムだ。魔族とは珍しいな。」

「ウィン、こいつ胡散臭すぎるんじゃないの?」


アルムさんはきちんと自己紹介を返した上で、魔族に対する興味を示した。

ここアンソロでも魔族は珍しいのだろう。


メルさんはいつも通り、思ったままを口に出す。

確かに胡散臭いけど、本人の目の前で言うのはどうなのかな。

パサートさんは、全然気にしてないみたいだけどね。


2人がそれぞれの反応を見せる中、ルルさんが単刀直入な言葉をパサートさんに飛ばした。


「慇懃無礼魔族、何しに来た?」

「ウィン様の戦いぶりを、特等席から見学させて頂こうかと愚考した次第でございます。」

「ウィンは見せ物ではない。」

「聖女ルル様、そうは申されましても、吟遊詩人にとっては英雄譚に触れる絶好の機会。見逃す訳には参りません。」

「ふん、白々しい。どうせこの舞台も貴様が作ったものじゃないのか。」

「滅相もございません。そのような力は、まだ、取り戻しておりませんので。」


ルルさんが切り込み、パサートさんがかわす。

そんな言葉の攻防が続いた。


でもパサートさん、「まだ」ってことは本来の力が戻ればできるってことですよね。

いや、本当はもう取り戻してるんじゃないですか。

『七色ワームの洞窟』でもそうだったけど、こんなに変異種や特異種がポロポロ出て来るなんて不自然過ぎますからね。


あとルルさん、『慇懃無礼魔族』はなかなかナイスな呼称ですね。

最近ちょっとネーミングセンスが冴えてるんじゃないですか。


「まあ見物するのは貴様の勝手だが、私たちに近付くな。次は本気で倒しに行くからな。」


そう言ってルルさんはパサートさんを睨みつけた。


「了解いたしました。それでは皆さまのお邪魔にならないところから拝見させて頂きます。ご武運を。」


パサートさんはそう言って頭を下げると、一瞬で空気に溶けるように消えてしまった。


「なんなの、あの変なヤツ。」

「最近突然現れた魔族の吟遊詩人。自然の法則を捻じ曲げる不思議な魔法を使う。それ以上の情報は諜報ギルドでも掴めていません。ただ、ウィン様とは何か因縁があるようです。」


メルさんの疑問にフェイスさんが答える。

しかし諜報ギルドでもパサートさんについてはよく分かっていないようだ。

まあ、パサートさん自身が語っていることが事実だとすれば、彼は僕と同類なんだろう。

つまり、この世界にとっては異端で異分子。


「慇懃無礼魔族のことはどうでもいい。それより今はアレの討伐だ。」


ルルさんが前を向いたままでそう言った。

僕たちは慌てて視線を正面に向ける。

そこにはゆっくりとこちらに近づいて来る巨大な『氷だるま』の姿があった。


「ウィン、【溶岩】はどうだ?」

「試します。」


ルルさんの提案を受けて僕はすぐに【溶岩】を発動した。

【温熱無効】持ちなので効果はないかもしれないが、試す価値はある。


『氷だるま』の上方に大量の溶岩が出現し、そのまま『氷だるま』を包むように落下する。

普通の氷ならこれであっさり溶けるはずだ。

しかしやはり期待した展開にはならなかった。

大量の溶岩は『氷だるま』の巨体に触れる直前で石化し、ボロボロと地面に落ちてしまった。


「ダメか?」

「はい、やっぱり熱で溶かすのは無理そうです。」

「他の魔法は?」

「やってみます。」


僕はとりあえず【風矢】を一本だけ発動してみた。

一気に大量発動することも考えたが、ちょっと嫌な予感がしたのだ。


【風矢】はまっすぐに『氷だるま』に向かって飛び、その透明な巨体に当たって弾き返された。

つるりとした氷の表面には傷ひとつ付いていない。

続けて【火矢】【石矢】【氷矢】と順番に試してみたが、結果はすべて同じだった。


やっぱり。


『七色ワームの洞窟』で戦ったワームの特異種も体が透明だった。

水晶と氷の違いはあるが、透明な個体は何らかの魔法耐性があるのかもしれない。


透明ワームは【魔法反射】持ちだったけど『氷だるま』にその表示はない。

でも【攻撃耐性(大)】があるので、その中に【魔法反射】か【魔法耐性】が含まれてるんだろう。


「ルルさん、魔法は弾かれます。」

「【魔法反射】持ちか?」

「【攻撃耐性】の効果だと思います。」


ルルさんと情報共有をした後でこれからの行動方針を考える。

パーティーメンバーの能力を考慮すれば、魔法特化のメルさんは厳しい。

アルムさんとルルさんと僕の物理攻撃がどこまで通るか。

そしてどうやって核の位置を見極めるか。


「ウィン、ひと当たり、行くぞ。」


僕が悩んでいると、ルルさんがそう宣言した。


そうですよね。

とりあえずやってみるしかないですよね。

まぐれ当たりがあるといいんだけど。

お読みいただきありがとうございます。

今週はもう1話掲載予定です。

よろしくお願いします。

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