313. 簡単には終わらないようです(特異種::アイスマン・グレート)
お約束ですが、最後に大物(魔物)が登場します。
そしてあの人も。
第四章 氷雪の国と不良王子(313)
(アンソロ編・首都セリオン)
313.簡単には終わらないようです(特異種:アイスマン・グレート)
揺れ動く【炎の壁】が一瞬で出現した。
冒険者たちが大盾で作った前線のラインと『雪だるま』たちの先頭集団とのちょうど中間辺り。
高さは『雪だるま』の背丈と同じくらい。
炎の色は透明に近いブルー。
最高レベルの激熱指定だ。
戦闘に参加している冒険者たちから一斉にどよめきが起こる。
いきなり現れた炎の壁が、敵なのか味方なのか判断できないでいるのだろう。
これはまずいね。
混乱させちゃう前に終わらせないとね。
では、【炎の壁】からそのまま【炎の絨毯】へ。
そう念じると、【炎の壁】はそのままの厚さで『氷雪の谷』に向かって急速に拡がっていき、すべての『雪だるま』たちを包み込む分厚い【炎の絨毯】となった。
「ほら、一瞬だっただろう。」
すべての『雪だるま』たちが溶けて消滅した後、ルルさんがそう言った。
しかし、フェイスさん、アルムさん、メルさんからは何の反応も返って来ない。
3人の方を見ると、全員口を開いたまま固まっていた。
「ルルさん、討ちもらしはないですよね。」
「ない。確認した。見事だ、ウィン。」
僕は他の3人が黙り込んでいるので、仕方なくルルさんに話しかけた。
魔物の核まですべて消滅したことは【魔力感知】で確認していたけど、念の為ルルさんの【魔力視】でも確認してもらった。
どうやらミッションは無事にコンプリートできたようだ。
「ウィン様、今の魔法は?」
「えっ、火魔法だけど。」
しばらくしてようやくフェイスさんが口を開いた。
でもフェイスさん、どうしてそんなに驚いてるんだろう。
僕に関してはほとんど何でも知ってるはずなのに。
「ウィン様、これほどの威力の魔法、火魔法と呼ぶのは無理があるかと思われます。」
「そうなの。でもフェイスさんどうして驚いてるんですか?」
「ウィン様の・・・大規模殲滅魔法を見るのは初めてでしたので。」
そうだったっけ。
他にも似たようなことがあった気がするけど。
大規模って言えば、『フルーツバードの大量瞬殺事件』とか?
あの時はルルさんしかいなかったし、手羽先と手羽元を確保するために一体ずつ倒したんだっけ。
じゃあ『七色ワームの洞窟蹂躙事件』?
あれも同行者はルルさんだけだったし、基本的には個別撃破か。
カラード・ワームが大量に出現したモンスター部屋では、多少はまとめて倒したかもしれないけど、大規模ってほどじゃなかったし。
それから『碧の海の異変単独解決事件』。
あれは名前の通り単独だったし、海の魔物のほとんどは『海の魔王』化したタコさんが処理したんだよね。
僕の魔法で倒したってわけじゃない。
あとは『暴走カネバッタ完全駆除事件』?
あの時はカネバッタを集めて大きな団子にして氷漬けにしたよね。
でもあれも大規模殲滅ってタイプの魔法じゃないか。
ということは、フェイスさんが何らかの方法ですべての出来事を監視していたとしても、今回のような大規模な殲滅魔法は初めてってことか。
「ウィン殿、貴殿の本職は魔導士なのか?」
フェイスさんに続いてアルムさんがそう質問してきた。
魔導士?
語感からすると魔術師の上位職かな?
でも本職かって言われても何と答えればいいんだろう。
「アルムさん、魔導士の意味がよく分かってないんですけど、冒険者自体がパートタイムなので、魔術はパートタイムのパートタイムみたいな感じかな。」
「・・・・・」
アルムさんは僕の答えを聞いて、再び黙り込んでしまった。
説明がややこしかったかな。
まあ正直なところ、自分でも何を言ってるのかよく分からなくなっちゃったしね。
アルムさん、パーティーに参加したことをすでに後悔してるんじゃないかな。
「なんなの? グス・・・あなた、なんなの?」
メルさんに至っては、なぜか半泣き状態だ。
泣かせるようなこと何かしましたっけ。
「メルさん、何か気に障りました?」
「気に障った? 冗談言ってんじゃないわよ。魔術師の私があんなもの見せられて平気でいられるわけないでしょ。なんなのよあなた。なんなのよあの魔法。あなたにケンカ売ってる私がバカみたいじゃない。」
あっ、ケンカ売ってる自覚はあったんだ。
これで思い直して普通に対応して頂けると嬉しいんだけど。
「分かったわよ。認めるわ。もう馬の骨なんて呼ばないわ。その代わり条件があるわ。私をパーティーに入れなさい。そしてあなたの魔法を私に教えなさい。悔しいけど、これが私の最大限の譲歩よ。」
おっと、さらに面倒なこと言い始めたぞ。
最大限の譲歩とか言ってるけど、どの辺りが譲歩なのかまったく理解できない。
メルさんまでパーティーに加わったら、もう団体行動とか無理だと思う。
今でも皆さんやりたい放題なのに。
メルさん、ポルトの冒険者ギルドに帰ってくれないかな。
そんなことを思っていると、
「メル、よく言った。パーティーへの参加を認めよう。」
ルルさんがあっさりメルさんのパーティー参加を認めてしまった。
でもルルさん、よく考えるとそれはリーダーである僕の権限では?
僕は心に芽生えた疑問をフェイスさんに尋ねてみた。
「そう言えばフェイスさん、うっかり聞き流してましたけど、パーティー名の変更とか、パーティーメンバーの追加とかは僕しかできないんじゃないんですか?」
「ウィン様。、ルル様には代理権限がありますので。」
代理権限?
何それ?
「おそらくパーティー運営に不慣れなウィン様のために、ネロ様(冒険者ギルドコロン本部のギルド長)が設定したものと推察いたします。」
ネロさん・・・何勝手なことしてくれちゃってるんですか。
まあ、悪意は無かったと思いますけど。
いやむしろあの時点では正しい判断だったんでしょう。
でもこれだとルルさんの暴走を止められないじゃないですか。
しかも面倒なことだけ丸投げされるに決まってるし。
「メル、精進しろ。ウィンから学ぶんだぞ。」
「はい、ルル様。」
「今後はウィンのことをウィン師匠と呼ぶように。」
「ええっ、ルル様・・・・・それはいくらなんでも。」
「私の言うことが聞けないのか、メル。それならいい事を教えてやろう。何を隠そうこの私も、ウィンのおかげで【風魔法】と【水魔法】と【収納魔法】と【ヒール】と【転移陣】を会得した。」
「何ですって!」
「何だと!」
「まさか!」
ルルさんの爆弾発言に、メルさんだけでなく、アルムさんとフェイスさんまで大声で叫んだ。
ルルさん、なに勝手にバラしちゃってるんですか。
まあ口外禁止にしてなかった僕の責任ですけど。
でもその話は後にしましょう。
面倒事がまだ残ってるようです。
「ウィン、来たな。」
「はい、来ましたね。」
「大きいぞ。」
「はい、大きいですね。」
新たな動きを感知して、ルルさんと僕が短く言葉を交わす。
『氷雪の谷』の奥からとても大きな魔力がゆっくり近づいて来る。
『雪だるま』たちを殲滅して終わりだと簡単過ぎるなと思ってたけど、やっぱり最後に大物が登場するようだ。
パターンからすると『巨大雪だるま』かな?
【鑑定結果】
◯アイスマン・グレート ☆☆☆
※氷雪ゴーレムの特異種
体型 : 大型
体色 : 透明
食性 : 氷・雪
生息地 : 寒冷地域に生息。
特徴 : 雪だるまのような形状をしている。
氷・雪を吸収して自らを修復する。
氷結効果のある氷玉(大)を飛ばす。
温熱無効を持つ。
体内の核を破壊すると死ぬ。
可食(かき氷)
特技 : 氷玉(超氷結)・攻撃耐性(大・核以外)・氷雪再生
特殊能力: 温熱無効・隠蔽
結果から言うと、姿を現したのは『巨大雪だるま』ではなく、『巨大氷だるま』だった。
形状は雪だるまだけど、その体は雪ではなくて透明な氷でできている。
オーセンティックなバーで出てくる球形のロックアイス。
あれを巨大化して2個重ねたような見た目だ。
そしてなぜか上の球体には『笑顔』が描かれている。
「ウィン、溶かせ。」
「ルルさん、無理です。」
「なぜだ?」
「【温熱無効】持ちです。氷なのに。」
まったく理不尽だ。
氷なのに熱で溶けないなんて自然の摂理に反している。
まあ、魔法がある世界で魔物相手にそんな正論を言ってみても仕方ないけど。
「弱点は?」
「核破壊です。でも・・・見当たりません。」
この巨大な『氷だるま』も『雪だるま』と同じように核を破壊すれば倒すことができる。
しかし、【魔力感知】でいくら探しても、その体内に核らしきものが発見できない。
「私にも視えない。なぜだ?」
「たぶん・・・【隠蔽】の効果かと。」
特殊効果になぜ【隠蔽】があるのかと思ったけど、どうやら核を隠すためらしい。
僕の【魔力感知】でもルルさんの【魔力視】でも見つけられないとなると、どうすればいいんだろう。
まぐれ当たりを狙って、パーティーメンバー全員で突っ込むくらいしか思いつかない。
そんなふうに戦略を組み立てることもできず悩んでいると、
「これはこれはウィン様、何かお困りですかな?」
一番聞きたくない人物の声が後ろから聞こえてきた。
お読みいただきありがとうございます。
少し仕事が忙しくなってきましたので、更新が乱れるかもしれません。
できるだけ頑張ります。




