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311. 黒獅子の不良王子②(SIDE アルム)

黒獅子の不良王子アルムの独白後半です。

ちょっと後悔してるようです。

第四章 氷雪の国と不良王子(311)

  (アンソロ編・首都セリオン)



311.黒獅子の不良王子②(SIDE アルム)



まず最初の驚くべき出来事は冒険者ギルドの受付で起こった。


「Cランク・・・?」


入国登録のために提出されたウィン殿の冒険者カードがCランクだったのだ。

私は自分の目を疑った。


Cランクを馬鹿にする訳ではないが、そのレベルの冒険者ならここアンソロには数え切れないほどいる。

Bランクの冒険者もたくさんいるし、多くはないがAランクの者もそれなりにいる。

噂が事実であればウィン殿は間違いなくSランクのはずだ。


「パートタイムといいますか・・・」


私の疑問に対してウィン殿は聞き慣れな単語で理由を伝えてきた。

どうやら冒険者専門ではないという意味らしい。

しかしそれでもあれだけの実績があればCランクというのはあり得ない。

Aランクの私でさえ、あの噂に匹敵するほどの実績は一つもないのだから。


そんなことを考えているとさらに驚愕の出来事が。


「今後ウィン様はAランク冒険者としての待遇を受けることができます。」


受付嬢がウィン殿に冒険者カードを返しながら、ランクアップの申請と受理について説明した。

しかし・・・・・


CランクからいきなりAランクに昇格だと!

冒険者ランクの飛び級など聞いたこともない。

しかも推薦者はすべて、各ギルドにおいてもその名を知られたトップ級のギルド長たち。

何もかも異例過ぎる。


ただこの決定にはウィン殿も疑問を抱いたようで受付嬢にいろいろと質問している。

しかし、いきなりAランクだと言われても驚いた様子は一切ない。

普通に経緯について問いただしているだけだ。


いったい何が起こっているのだろう。

私は展開についていけず、ただ呆然と受付嬢とウィン殿のやり取りを聞いていた。

そしてある言葉に引っかかった。


ウィンギルド?

なんだそれは?

ウィン殿個人のためのギルドが存在するというのか。

しかも全ギルド連合会が正式に認めた?

支部設立の準備中?

ギルド長が『コロンの白鯨』ジャコモ殿?


ダメだ。

頭が爆発しそうだ。

私のような小さな器では到底受け止め切れない事案だ。


何事もないふうを装いながらも心の中で頭を抱えていると、次なる爆弾がやってきた。


「ウィン、ようやく私と同じAランクだな。」


聖女ルル様!

ということはウィン殿が従えているという聖女はルル様なのか。

しかし、誰とも組まないことで有名な『孤高の聖女』がなぜ?


私は驚きつつも心のどこかで妙に納得もしていた。

これだけの事態に対応できる聖女など、ルル様以外にはいないだろうと。

ということはおそらく勇者の方は・・・・・。


「ダメ勇者だな。」


ルル様は事もなげにそう頷いて見せた。


やはり『光の勇者』リベル殿か。

しかし・・・・・


ルル様とリベル殿はずば抜けた能力を持つことで有名だが、同時に扱いが難しいことでもよく知られている。

この2人を従えるなど、大国の王族でも無理だ。

それをごく普通に引き連れているとは・・・・・

ウィン殿とは強いだけではなく、それほどの器なのか。


ここに至って私は、数々の噂がほぼ事実だろうと確信し始めていた。

ウィン殿の力を実際に見た訳ではないが、周囲に集う者たちを見ればもう疑うことはできない。


名前が上がったギルド長たちも、ルル様やリベル殿も、そしてフェイスも、私利私欲だけで誰かに付き従うような人物ではない。

権力には反抗し、財には靡かず、力にも屈服しない。

己を磨き、己の信じる道を突き進む猛者たちだ。

その者たちが当然のように絆を繋ぐのであれば、それはウィン殿が本物だということだ。


私はウィン殿たちを鍛治士ギルドまで案内すると、そのまま辞去の挨拶をした。

驚き疲れた頭を冷やすためにも1人になりたかったからだ。

これ以上一緒にいても私にできることは何もないだろうとの思いも強かった。

しかし意外なことに、ルル様に引き留められた。


「黒獅子王子。」


ルル様は私のことをそう呼んだ。

あの巨大ゴーレムを共に討伐した時と同じように。

そして私はいつものようにその呼び名を否定した。

もう王子ではない、ただのアルムだと。


何かを期待した訳ではない。

ルル様が誰のことも名前で呼ばないことは知っている。

それでも言葉を返してしまうのは、自分が選んできた道に対する意地のようなものなのかもしれない。


そこまで考えて私は初めてあることに気付いた。

そういえばルル様、ウィン殿のことは「ウィン」と呼んでいるなと。


「了解した。しかし条件がある。」


ルル様から承諾の言葉が返ってきた。

まさかルル様が呼び名に関する私の申し出を受け入れるとは思っていなかった。

ただ条件があると言う。

聖女ルル様が私のような者に対していったい何を望むというのか。


「ウィンのパーティーに入れ。」


ルル様はとても軽い調子でそう言った。

私は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

しかしその意味を理解した瞬間、体の中心が大きく揺さぶられた。

それは生まれて初めて感じた魂の震えだった。

そして気が付くと、返事をしてしまっていた。


「参加させて頂きます。」


私は人生の節目で常に危険を避ける道を選んできた。

第三王子の地位を捨てたのも騎士団長を辞任したのも貴族籍を抜けたのも、周囲を争い事に巻き込まないためだと自分を納得させていた。


しかしそんな私をルル様は「つまらないヤツ」だと切り捨てた。

そんなものは単なる「逃げ」だと。


いつもの私なら反発しただろう。

自分が下してきた苦渋の決断を否定されたのだから。

しかしなぜかこの時はそんな感情は湧き上がらなかった。

むしろ突然目の前に開けた新しい可能性に魅了されていた。

ウィンという冒険者とともに歩む道程を夢想して。




それにしてもこれは・・・・・

やり過ぎでは・・・・・


パーティー参加を承諾した直後、私はウィン殿の実力を目の当たりにすることになる。


1500個の武具を一瞬で作り上げる?

超希少魔術の【転移】持ち?

しかも不可能とされる【複数転移】?

氷雪系魔物のスタンピード瞬殺?


パーティー参加の決断は、少し早まったかもしれない。


来週の2話掲載できるよう頑張ります。

よろしくお願いします。

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