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308. どこから見ても脅迫だと思います(再再登場:メル)

ルルさん、再再登場です。

ちょっとうるさいですが許してやってください。

第四章 氷雪の国と不良王子(308)

  (アンソロ編・首都セリオン)



308.どこから見ても脅迫だと思います(再再登場:メル)



「ようやく見つけましたわよ、馬の骨。ここで会ったが100年目、そのパッとしない顔をさらにボコボコに・・・」


ボコッ。


見事な拳骨が機関銃のように喋る女性の頭頂部に振り下ろされた。

頭を抱えてうずくまる背の低い女性。

もちろん冒険者ギルド・ポルト支部の支部長、メルさんである。

そして彼女に鉄槌を加えた女性は、ウィンギルドの筆頭秘書・・・じゃなくて諜報ギルドのエース、フェイスさんだ。


「メル様、ウィン様に対する暴言、敵対行為、機関銃トーク、全て禁止したはずですが。」

「い・・・いたい・・・フェイスさん・・・本気で・・・殴った。」


メルさんがうずくまったまま涙目でフェイスさんを見上げる。


「加減してます。メル様、私が本気なら既にこの世にいませんよ。それより約束をお忘れですか?」

「ごめんなさい・・・忘れてません・・・ついこいつの顔を見たら・・・反射で。」


ボコッ。


フェイスさんの、「あなたなんていつでも殺せるのよ」発言に気を取られていると、2発目の鉄拳が撃ち込まれた。


「こいつではありません。ウィン様です。」


フェイスさんが、メルさんの言葉使いを訂正する。

でもフェイスさん、たぶんメルさんには聞こえてないと思いますよ。

地面に倒れて完全に気絶してますから。

呼吸してるかな。


「ところでフェイスさん、なぜメルさんがここに?」

「冒険者ギルドで騒いでおりました。」

「騒いでた?」

「はい。受付嬢相手にウィン様の情報を教えろ、メル様の居場所を吐けと。」

「ああ容易に想像できますね。でもなぜメルさんがアンソロに? あっ、ランクアップの情報が漏れたのか?」


セリオン本部の受付嬢には口外しないようお願いしておいたけど、メルさんのことだから何らかの方法で情報を入手したのかもしれない。

いや、でもそれだアンソロに着くのが早過ぎる。

商人ギルドの秘密の『転移陣』でも利用したんだろうか?


「ウィン様、メル様はご自身の推測によりここまで辿り着いたようです。」

「推測で?」

「はい。ウィン様が関わった事案の情報から進路を予想し、スタンピードが多発しているここアンソロにいるのではないかと推測したようです。聖女様の戦闘好きも判断材料だったと本人から伺いました。」


なるほどね。

でもメルさん、すごい執念だね。

そこまでルルさんに執着するなんて、立派なストーカーだよ。

あっ、そう言えばここにも立派なストーカーが・・・。


「ウィン様、何か?」


フェイスさんの切れ長の目がキラリと光った気がした。


「いえ、なんでもありません。あと、先ほどメルさんに言っていた約束とは?」


僕はフェイスさんの視線が怖かったので、慌てて話題を変えた。


「ウィン様に丁寧な態度で接することを約束させました。」

「どうやって?」

「よく言い聞かせました。」


いやいやいや、メルさんって言い聞かせて承知するような性格じゃないでしょう。

何か奥の手を使いました?


僕が疑わしげな視線を向けると、フェイスさんは澄ました顔で説明を付け加えた。


「正確には、もしウィン様に対して失礼があった場合、メル様に関する様々な情報を公表すると伝えました。」

「様々な情報って?」

「そうですね。例えば、メル様が初恋の相手に送った恥ずかしい恋文ですとか、魔法学校時代の苦手科目の目も当てられない試験結果ですとか、ポルトの冒険者ギルド職員たちのメル様に対する赤裸々な勤務評価ですとか、様々です。」


フェイスさん、それは『言い聞かせた』とは言いません。

360度どこから見ても『脅迫』です。

だいたい初恋の人へのラブレターなんてどうやって入手したんですか。

そんなものを街中に張り出されたら・・・・・考えるだけで恐過ぎる。


「ウィン様、重要人物の暗部を探るのは諜報ギルドの基本業務ですので。決して私個人の趣味ではございません。」


本当に?

僕の恥ずかしい情報も集めてるんじゃないでしょうね。

まあ、この世界に転移してから日も浅いので、そんなに恥ずかしい情報はないはずだけど。


「ウィン様、ご心配なく。ウィン様のことは諜報ギルドの調査対象から除外しております。ですので私の胸の内だけに収めております。」


結局調べてるんじゃないですか。

フェイスさん相手に隠し事なんて不可能だし、変なことしないように気をつけないと。


そんな風にフェイスさんの恐怖の真髄に震えていると、倒れていたメルさんがフラフラと立ち上がった。


「はっ? 私、何してたんだっけ? そうだわ、突然あいつが現れて、あっ!」


言葉を言い切る前に叫び声を上げて、メルさんが再び頭を抱えてうずくまった。

でも今回はフェイスさんは何もしていない。

おそらく、条件反射みたいなもんだろう。

僕に対して失礼な物言いをすると拳骨が頭に落ちてくると、心と体に刷り込まれてしまったようだ。


「ウィン・・・様・・・ご無沙汰・・・致しております。」


メルさんは恐る恐る立ち上がり、チラチラとフェイスさんに視線をやりながらそう言った。


「メルさん、普通にしゃべって下さい。そのしゃべり方、気持ち悪いです。」

「何ですって! 気持ち悪いですって! 人が下手に出てるからっていい気になってんじゃ、・・・いえ・・・いい・・・いいお天気ですね。」


メルさんの中に『普通に話す』っていう設定はないのかな。

『暴言』と『バカ丁寧』の2択なのか。

でもこれじゃあ話が進まないよね。

仕方がない。

僕がフェイスさんと交渉しますか。


「フェイスさん、メルさんの態度や言葉使いですけど、ある程度許容してもらえませんか。このままだと意思の疎通が難しいので。」

「ウィン様、了解致しました。ただ、度が過ぎる場合は対処させて頂きます。」


フェイスさんの合意を得た上で僕は改めてメルさんと向き合った。


「メルさん、はるばるアンソロまで追いかけて来た理由は何ですか?」

「決まってるじゃない。馬の骨・・・いえ、あなたのことはいいわ。ルル様のパートナーになるためよ。」

「ギルド長のお仕事はどうしたんですか?」

「休暇届を出したわ。」

「ネロさん(コロン本部のギルド長)、よく許可しましたね。」

「何を言ってるの? 私が許可したのよ。」

「えっ?」

「ポルト支部のギルド長の私が、ポルト支部ギルド長の私に、ポルト支部ギルド長の私の休暇届を出して、ポルト支部ギルド長の私の休暇を許可したと言ってるの。」


メルさん、それって何か間違ってません?

なんて言うか、『マッチポンプ』の変形版?

ギルド長代理のコニーさん、今頃途方に暮れてるだろうな。


「ポルト支部、大騒ぎになってるんじゃないですか?」

「大丈夫よ。もともと私はたいした事してないし。あそこはコニーがいれば十分回るの。むしろ私がいない方がスムーズなくらいよ。」


腰に手を当て胸を張ってそう言い切るメルさん。

でもそれって自信満々で宣言するような内容じゃないと思います。

まあ本人が気にしてないなら、こちらから突っ込む必要もないんだろうけど。


「そんなことより、ルル様はどこにいらっしゃるの? 早く会いたいんだけど。一刻も早く可愛い妹分の姿をお見せしなければ。きっと慣れない長旅でお疲れのはず。こんな時こそ癒し成分1000%の私の存在が不可欠よ。」


機関銃トークの片鱗を見せつつ、周囲をキョロキョロ見回すメルさん。

もちろんどこを探してもルルさんはいない。


「ここにはいませんよ。『氷雪の谷』でスタンピード討伐に参加してます。」

「何ですって。あなた、ルル様を魔物の大群の中に1人で放置してきたの。なんて酷い・・・・・思いやりが欠ける人なの。すぐに合流しましょう。」

「大丈夫ですよ。アルムさんも一緒だし。」


僕がそう答えると、メルさんが大きな目をさらに大きく見開いた。


「アルムってあのアルム? 『不良王子』で『黒い悪魔』のあのアルム? ああ、いつの間にかまた悪い虫が増えてるじゃない。あなた何を考えてるの。ちゃんと見張ってなきゃダメじゃない。」


僕は慌てて右手でフェイスさんを制止した。

3回目の拳骨が発動しかかってたからだ。


これはしばらく大変だな。

メルさんとフェイスさんの両方を制御するのは至難の業だ。

でも『黒い悪魔』ってどういう意味だろう。

アルムさん、悪魔ってタイプじゃないと思うけど。

週2回程度の更新です。

よろしくお願いします。

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