306. 時々ポンコツになるようです(冷温耐性クエスト)
新年明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
第四章 氷雪の国と不良王子(306)
(アンソロ編・首都セリオン)
306.時々ポンコツになるようです(冷温耐性クエスト)
「ウィン殿、質問してもよいか?」
鍛治士ギルドを出て冒険者ギルドに向かって歩いていると、アルムさんがそう尋ねてきた。
「何でしょう、アルムさん。」
僕は気軽な調子でそう返した。
「鍛治工房でのことは・・・あれは・・・どう理解すれば?」
ああ、あれね。
アルムさん、現場では平然としてたから普通に受け入れたのかと思ってたけど、そうでもないみたいだね。
言葉にかなりの動揺が見て取れるし。
「え〜っとですね、依頼通り武具を1500個作りました・・・かな?」
僕はとりあえず事実を簡潔にそのまま答えにしてみた。
語尾は疑問形だけど。
最近このパターン、多いな。
「いやそれは、見ていたので分かっている。分からないのは、鉄の山が燃え上がり一瞬で武具に変化したことだ。あれは魔法なのか?」
うん、そうきますよね。
魔法なのか?
スキルなのか?
違いをよく理解してないんだけど、まあスキルでいいか。
「あれは【錬金】というスキル・・・かな?」
再び疑問符付きで答えると、アルムさんは黙り込んでしまった。
どう見ても納得した表情じゃない。
僕の答えが要領を得ないので、どう質問したらいいのか分からなくなったのかもしれない。
でも仕方ないよね。
僕自身よく分かってないんだから。
「アルム、これくらいのことはウィンにとっては当たり前だ。深く考えるな。」
「しかし聖女様・・・これが当たり前というのは・・・・・。」
「私も最初は驚いた。でもな、ウィンは数え切れないほどスキルを持っている。しかもすべて規格外だ。いちいち驚いてたら身が持たないぞ。」
「・・・・・」
アルムさんは言葉を失い、その視線をルルさんからフェイスさんに移した。
「フェイス、貴殿が言ってた意味が理解できた気がする。確かにウィン殿は人智を超えている。」
アルムさんの言葉にフェイスさんがにっこりと笑う。
ルルさんも腕を組んで、何故か偉そうに頷いている。
とりあえずアルムさんも納得した表情・・・じゃないな。
理解するのを諦めただけか。
でもなんだかなあ。
目の前で3人から「人外認定」されたみたいで、ちょっとモヤっとするな。
「アルム、そんなことより大事なのはスタンピードだ。ここから一番近い現場はどこだ?」
ルルさんがすぐに話題を変えてきた。
もう鍛冶や【錬金】のことはどうでもいいらしい。
まあ『戦闘狂の聖女』様だからね。
早く魔物討伐がしたくてウズウズしてるんだろう。
「ここから一番近いのは、北の山脈にある『氷雪の谷』です。氷雪系の魔物たちが谷の奥から溢れ出してきています。セリオン所属の冒険者たちがなんとか食い止めていますが、なかなか厳しい状況のようです。」
アルムさんがルルさんに状況を報告する。
アルムさん、ルルさんに対してだけは言葉使いが丁寧だよな。
本人も元第三王子なのにね。
これは聖女に対する崇敬の念なのか。
あるいは冒険者としての尊敬なのか。
たぶん後者のような気がする。
「分かった。すぐに向かおう。フェイス、冒険者ギルドの手続きは任せるぞ。」
「了解いたしました。先にお進みください。討伐参加の申請を終え次第合流いたします。」
ということでルルさんとアルムさん、僕の3人はそのまま街を出て『氷雪の谷』に向かうことになった。
パーティー・リーダーとしての僕の意向は完全に無視されてるけど、いつものことなので気にしない。
僕も氷雪系の魔物、見てみたいしね。
「寒っ!」
セリオンの街門を抜けて外に出た途端、強烈な寒さが襲ってきた。
速攻で鼻の頭と耳が痛くなるくらいのレベルだ。
おそらく氷点下のかなり下まで行ってるだろう。
街の内と外でこんなにも気温が違うなんて。
魔道具の気温維持の効果、半端ないな。
機会があればどんな魔道具が見てみたい。
それにしても、ルルさんもアルムさんもどうして平気そうなんだろう。
特に防寒対策してるようには見えないんだけど。
「どうしたウィン、寒いのか。気合いが足りんな。」
震えている僕を見て、ルルさんがそう言った。
いやいやルルさん、この寒さは気合いでどうにかなるもんじゃないでしょう。
目の前に広がる平原を見てください。
雑草の一本も生えてないじゃないですか。
雪こそ積もってませんが、これ、間違いなく凍土になってますよね。
そんな反論を心の中で叫びつつ、ルルさんと同じように平然としているアルムさんの方を見ると、
「ウィン殿、獣人族は元来寒さに強い種族なのだ。自前の毛皮があるしな。」
そういうことですか。
だからこの大陸北端の国は獣人族の国になってるんですね。
寒さに強い種族じゃないとこの環境下で魔物と戦うなんて不可能ですもんね。
あっ、でもこのままじゃ僕が戦力外になってしまう。
何か防寒対策しないと・・・・・。
…旦那、クエスト、あるぜ…
空間収納に魔物の毛皮のコートとかないかなと考えていると、「中のガンちゃん」からメッセージが表示された。
ガンちゃん、寒さ対策のクエストなんてあるの?
すぐに表示してくれる?
…ガンちゃん?・・・まあいい。表示する…
【冷温耐性クエスト① 】
クエスト : 氷雪系魔物を倒せ
報酬 : 冷温耐性(小)
達成目標 : 氷雪系魔物討伐(10体)
おお、ありがとうガンちゃん。
ナイスアドバイス。
でも待てよ。
氷雪系の魔物を10体倒さないと【冷温耐性(小)】を獲得できないってことは、とりあえずこの状態のままで戦わないといけないってことだよね。
大丈夫かな。
「アルムさん、『氷雪の谷』までどれくらいかかります?」
「そうだな。歩いて2日くらいか。」
「2日!」
そんなに長時間の移動には耐えられそうにない。
それに2日ってことはこの寒さの中で野営するってこと?
そんなことしたら絶対に凍死してしまう。
「ウィン、また馬鹿なことを考えているな。」
「だってルルさん、この寒さの中、2日間も歩くのは無理です。それに野営なんかしたら速攻凍死案件ですよ。」
僕がそう主張すると、ルルさんは呆れた表情で溜息をつくと言葉を返してきた。
「転移すれば一瞬だろう。」
「あっ。」
「休憩したければ【小屋】を出せばいいだろう。」
「あっ。」
「ウィン、なぜ時々そんなにポンコツになる? 理解に苦しむ。」
あっ、ポンコツ聖女にポンコツって言われた。
でもおっしゃる通りなので言い返せない。
なぜこんな簡単な解決策に気づかなかったんだろう。
寒さのせいで思考回路が停止してしまっているのか。
それともこの世界での僕が、まだ完全体じゃないせいだろうか。
「ウィン殿、ちょっといいか。」
「はい。」
「この国ではこういう物がある。」
アルムさんはそう言いながら小さな黒い箱を取り出した。
「それは何ですか?」
「気温維持の魔道具だ。」
「えっ。」
「街に使ってるものの小型版だ。野営にはこれを使う。いくら獣人族でもこの環境で野営したら死ぬからな。」
そんな物があるんですね。
そりゃそうですよね。
この極寒の地で何の対策もせずに眠ったら、永遠に目覚めませんよね。
僕が1人で納得していると、ルルさんとアルムさんが可哀想な子を見るような目を向けてきた。
穴があったら奥深く入り込んでそのまま冬眠してしまいたい気分だけど、そんなことも言ってられない。
「じゃあすぐに転移しましょう。」
僕はわざと明るくそう言ってみた。
でも僕のそれまでのポンコツぶりは、無かったことにはできなかったようだ。
ルルさんはやれやれと溜息をつき、アルムさんは右下に視線を逸らした。
ちょっと恥ずかしいけど、気にしたら負けだ。
僕は2人の態度に気付かない振りをしてすぐに【転移陣】を発動することにした。
今年も週2話程度で更新したいと思っております。




