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303/333

そういう見方もあるんですね(新メンバー:アルム)

ウィンのパーティーに新しいメンバーが参加します。

第四章 氷雪の国と不良王子(303)

  (アンソロ編・首都セリオン)



303.そういう見方もあるんですね(新メンバー:アルム)



「ウィン、着いたぞ。」


アルムさんと並んで先頭を歩いていたルルさんが、僕たちを振り返ってそう言った。

フェイスさんからアルムさんの過去について教えてもらっているうちに鍛治士ギルドに到着したようだ。


鍛治士ギルド・セリオン本部の建物は灰色の石造りの無骨な建物だった。

マーロンさんが支部長をしているポルト支部とそっくりだけど、こちらの方が規模がかなり大きい。


規模の違いは本部と支部の差かな。

いや、その国が置かれている状況の違いかもしれない。

ポルト支部があるコロンバールは『葡萄の国』だ。

おそらく農業系がメインの国だと思う。

でもここアンソロは冒険者が集まる国。

必然的に武具や防具の生産など鍛治士の仕事も多くなるに違いない。


鍛治士ギルドの正面扉の両側には、他のギルドと同じようにギルドの旗が掲げられていた。

図柄はハンマーとやっとこがクロスしている下に雪の結晶が配置されている。

ちょっとファンシーな感じだ。


獅子獣人族が治める国だけに『黄金の獅子』とかが描かれてるんじゃないかと思ったけど違ったね。

この辺りは寒さが厳しいらしいけど、街の中にいると暖かいので雪のイメージが湧かないんだよな。


「ウィン殿、私はこれで失礼致します。」


鍛治士ギルドまで案内してくれたアルムさんが頭を下げながらそう言った。

本来の仕事場である冒険者ギルドに戻るのだろう。


もう少しアルムさん本人からいろいろ話を聞きたかったけど、無理は言えないよね。

初対面の僕にここまで付き合ってくれただけで十分過ぎるくらいの親切だし。

立ち去ろうとするアルムさんにお礼を言おうとしていると、そんな常識に拘らない人が1人いた。


「黒獅子王子、何を言っている。せっかくの再会だ。もう少し付き合え。」

「聖女様、今は王子ではありません。それに私が一緒ではウィン殿に迷惑では?」

「迷惑なものか。ウィンは人でも魔物でも来るもの拒まずだ。それに一緒にいると、割と楽しめるぞ。」


ルルさん、言い方。

来るもの拒まずって、あなたやリベルさんが図々しく着いて来てるだけでしょう。

それにアルムさんだって都合ってものがあるだろうし。

冒険者なんだから、依頼を受けたり魔物討伐の準備だったりいろいろ予定があるんじゃないですか。

そんなふうにアルムさんの立場を慮っていると、


「聖女様、同行するのは構わないのですがひとつお願いがあります。」


アルムさんは意外にあっさりとルルさんの誘いを承諾した。

しかし何か条件があるようだ。


「なんだ? 言ってみろ。」

「黒獅子王子と呼ぶのは止めていただけませんか?」


おおっ、アルムさん、勇者だ。

初めてルルさんの呼び方に注文をつける人が現れた。

ルルさん、どう対応するんだろう。


「分かった。何と呼べばいい?」

「アルムと。」

「了解した。しかしそのためにはこちらにも条件がある。」

「どんな条件でしょうか?」

「ウィンのパーティーに入れ。どうせ今も単独なんだろう?」


いやいやいやルルさん、それはいきなり過ぎるでしょう。

誰とパーティーを組むかなんて、冒険者にとっては最重要事項じゃないですか。

そんなに軽く扱っていいもんじゃないですよ。

アルムさんも困って・・・・・


「分かりました。パーティーに参加させて頂きます。」


えっ?

アルムさん、そんなに簡単に決めていいんですか?

僕のことをほとんど知らないでしょうし、この聖女とあの勇者がいるんですよ。

あれっ、そう言えばリベルさんってパーティー登録してたっけ?


「ウィン様、リベル様は正式にウィンパーティーに登録されております。あと、パーティー名ですが、『ルル様とウィン様』から『ウィンとルルとダメ勇者』に変更済みです。」


優秀な秘書役のフェイスさんから説明が入った。

さすが僕の心を的確に読み取るフェイスさん。

でもいつの間にパーティー名まで変更されてたんだろう。

しかもリベルさんのこと『ダメ勇者』って。

まあ間違いなくルルさんの仕業だろうけど。


「ということでウィン、新しいパーティーメンバーを紹介する。元第三王子、元騎士団長、A級冒険者のアルムだ。」

「ちょっと、ちょっと待ってくださいルルさん。アルムさん、本当にそれでいいんですか?」


先走るルルさんを制止して、僕はアルムさんに意志を確認した。


「ウィン殿のパーティーに加えて頂けるなら光栄に思う。」

「いや、僕のことほとんど知りませんよね。」

「周囲にいる者を見れば、その人物の本質は分かる。」

「えっ、でもルルさんにリベルさんにフェイスさんですよ。あと他にもいろいろ・・・独特な人たちがたくさんいますよ。」

「孤高の聖女、光の勇者、諜報ギルドのエース、これ以上の人材を揃えられる冒険者はいない。」


アルムさんは真剣な表情でそう断言した。

僕としてはアルムさんのような人物がパーティーに参加してくれるのは大歓迎だけど、こんな急展開で本当にいいのか。


「ウィン、アルムにはいろいろと事情があってな。」

「はい、フェイスさんからだいたいの話は伺いました。」

「なら分かるだろう。こいつは本当につまらないヤツなんだ。」

「はいっ?」


つまらないヤツ?

アルムさんが?

どう考えても凄い人だと思いますが。


「まず12歳の時に第三王子の地位から逃げた。」

「それは母親である王妃を守るためじゃ・・・」

「次に騎士団長の職からも逃げた。」

「それも騎士団員たちのことを思ってじゃ・・・」

「そして冒険者になっても誰とも深く関わろうとしない。」

「それは・・・・・」


ルルさん、本人を目の前にしてよくそこまで言えますね。

そりゃ同じ出来事でも見方を変えれば評価が変わるってのは理解できますが。

アルムさんの行動を悪い方に捉え過ぎじゃないですかね。


「ウィン、不服そうだな。でも私がアルムなら、」

「ルルさんなら?」

「全部蹴散らして全部を守る。」


ルルさんは獰猛そうな笑いを浮かべてそう宣言した。


「アルムがしてきたことは、面倒事から逃げてきただけだ。そのせいで友人さえ1人もいない。どうだつまらんヤツだろう?」


僕はルルさんに反論できなくなっていた。

確かにルルさんならどんな状況でも前に出て戦うことを選択するんだろう。

自分が身を引くことでその場を収めるのではなく、力でねじ伏せて反対勢力を抑えこむに違いない。

しかし、人にはそれぞれ異なる性格、異なる考え方がある。

ルルさんの主張が絶対的に正しいとは限らない。


「だがな、ウィンと一緒にいればアルムは変わる。」

「どういう意味ですか?」

「まっすぐに進んでも道は開ける。そのことを実感できるはずだ。」

「それって、褒めてませんよね。」

「いや、最大限の賛辞だが。」


ルルさんはそう答えると視線をアルムさんに向けた。


「ウィン殿、よろしくお願いします。」


アルムさんはそう言って頭を下げた。

こうして僕のパーティーに4人目のメンバーが加わった。

しかし・・・・・またパーティー名を変更しないといけないんじゃないかな。

読んで頂きありがとうございます。

次週も2話投稿の予定です。

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