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301.すべて『事件』化されてるようです(昇格:Aランク)

今週2話目の投稿です。

よろしくお願いします。


第四章 氷雪の国と不良王子(301)

  (アンソロ編・首都セリオン)



301.すべて『事件』化されてるようです(昇格:Aランク)



「ウィン殿、うちの冒険者たちが足止めしてしまって申し訳なかった。入国登録に来られたのだったな。私が案内しよう。」


黒獅子獣人のアルムさんがそう言って受付に向かって歩き出すと、周囲に集まっていた冒険者たちがサッと道を開けた。

人垣が割れて、受付まで一本の道が出来上がっている。


アルムさん、モーゼですか?

これだけ屈強そうな冒険者たちが何も言わなくても従うなんて。

周囲からのリスペクトが半端ないですね。


「ウィン様、アルム様は『不良王子』で凄腕冒険者ですから、冒険者たちも皆従うのです。もちろん本人の人柄もありますが。」


僕の後ろからフェイスさんがそう囁いてきた。


「フェイスさん、どうしてアルムさんのことを『不良王子』って呼ぶんですか?」

「それは・・・」


フェイスさんからの説明を聞こうとしていると、その前に受付に到着してしまった。

冒険者ギルドの受付フロアって、そんなに広いわけじゃないしね。


「ようこそ黒の騎士様、ご用はなんでしょうか?」

「黒の騎士ではない。冒険者アルムだ。ウィン殿の入国登録をお願いしたい。」

「かしこまりました。」


あれ?

また違う呼ばれ方をしてるぞ。

今、ウサ耳の受付嬢が『黒の騎士様』って呼んだよな。

本人は不本意そうな顔で否定してたけど。

これ、どうなってるんだろう?


「ウィン様、冒険者カードを。」

「あっ、はい。どうぞ。」


フェイスさんに催促されて僕は慌てて冒険者カードを兎獣人の受付嬢に差し出した。

受付嬢は専用のトレーのようなものでそれを受け取った。


「Cランク・・・?」


受付前で僕と受付嬢のやり取りを見ていたアルムさんが突然声を上げた。

叫んだわけじゃないけど、思わず言葉が漏れたって感じ。


「アルムさん、どうかされましたか?」

「ウィン殿、盗み見るつもりは無かったんだが貴殿の冒険者カードを見てしまってな。なぜCランクなのか理由を聞かせてもらえないだろうか?」


ああ、そういえば冒険者としてはCランクでしたね。

ランクのこととかすっかり忘れてました。

いろんな噂を聞いてるアルムさんからしたら当然の疑問ですよね。

でもなぜと問われてもどう答えればいいものやら。


「え〜とですね。冒険者はパートタイムといいますか・・・・・」

「ウィン殿、パートタイムとは?」

「他にもいろいろなことをしていて、冒険者としての活動時間をあまり取れないんです。だから実績が少ないといいますか・・・」


僕がそこまで説明するとアルムさんは首を傾げ、一つ一つ確認するように指を折りながら話し始めた。


「コロンにおける『フルーツバードの大群瞬殺事件』、ポルトにおける『七色ワームの洞窟蹂躙事件』、アマレにおける『碧の海の異変単独解決事件』、シルワの森における『暗殺者ギルド殲滅事件』と『暴走カネバッタ完全駆除事件』、シルワにおける『お花畑の大決闘事件』、そしてコロンバール格闘大会での『余裕でちょちょいと優勝事件』。これだけの実績があって少ないと言うなら、実績のある冒険者は皆無になる。」


アルムさん、ちょっと待って下さい。

それだけの情報、どこで集めたんですか?

実はアルムさんも諜報ギルドのメンバーだったりします?


それになぜ、実績なのに『事件』扱い?

名称も大袈裟過ぎるし。

最後の『余裕でちょちょいと』なんて、ネーミング・センスが無さ過ぎじゃないかな。


「ウィン様、これらの情報はすでに普通に流通しております。アルム様が特別に情報通というわけではありません。それから私が広めたわけでもありませんので、念の為。」


僕の心の動揺を読み取ったのか、フェイスさんが注釈を入れてきた。

ただ、それでもイマイチ納得できない。

この世界の情報伝達のレベルを見誤ってたかもしれない。

どの事案にも目撃者や関係者がそれなりの数存在するので、噂が広がるのは仕方ないけど、広がり方がちょっと早過ぎる気がする。


「ウィン様、冒険者カードを返却致します。問題なく入国登録が完了致しました。それからランクアップ申請が出ておりましたので処理しておきました。」


僕たちの会話が中断したところを見計らって、兎獣人の受付嬢が遠慮がちにそう言いながら僕に冒険者カードを差し出してきた。

僕はカードを受け取り、そこで動きを止める。


受付嬢さん、今、最後に妙な言葉を付け足さなかった?

ランクアップ申請?


「今、ランクアップって言いました?」

「はい。」

「それは、どういうことでしょう?」

「失礼致しました。説明させて頂きます。ウィン様に対するランクアップの申請が出され、冒険者ギルド連合会において受理されておりましたので冒険者カードのランクを変更させて頂きました。今後ウィン様はAランク冒険者としての待遇を受けることができます。」


あれっ、耳の調子がおかしくなったかな。

今、『Aランク』って聞こえたけど。

ランクアップするとしても『C』の次は『B』だよね。

いやその前に。


「Bランク以上って、セントラルの冒険者ギルド本部へ行って審査を受けないとダメなんじゃなかったっけ?」

「ウィン様、実績があればその限りではありません。」

「ギルド長単独ではできないって聞いたような。」

「ギルド長1人の判断ではできませんが、3人以上のギルド長が認めればランクアップは可能です。」


そうなのか。

そこまでの詳細は知らなかった。

でも3人以上って、いったい誰が?


「僕に対するランクアップ申請って誰が出したんですか?」

「冒険者ギルドではコロン本部ギルド長のネロ様とポルト支部ギルド長のメル様、商人ギルドではアマレ本部ギルド長のルカ様とララピス支部ギルド長のティティン様、テイマーギルドではアマレ本部ギルド長のシルフィ様、最後にウィンギルドのギルド長ジャコモ様。以上6人のギルド長の申請によりウィン様のAランクが認定されました。」


うん、知ってる人ばかりだけど、ツッコミどころが満載だな。

どこから聞けばいいのやら。

とりあえず一点目は、


「え〜と、冒険者のランクアップなのに冒険者ギルド以外のギルド長の申請でもいいんですか?」

「はい。他のギルドも冒険者に依頼を出す立場ですので、実績認定の資格を持っています。」


そういうことか。

まあこれは論理的に理解できる。

仕事を依頼する側であれば、冒険者を評価できるのも当然だろう。

じゃあ次は、


「ポルト支部のメルさんからも申請が出てるんですか?」

「はい、確認いたしました。ただメル様の申請書にだけ添付の指示書がございました。」

「指示書? 内容は?」

「ランクアップの処理をしたギルドは直ちにその旨をポルト支部に報告すること、と。」

「えっ、もう報告しちゃいました?」

「いえ、これからです。」

「ちょっと待ってください。それって本人の希望で止められます?」

「そうですね。冒険者の居場所は個人情報ですので秘匿事項に該当します。本人が望まないのであれば可能です。」

「では、報告しないでください。」

「かしこまりました。ただしランクアップした事実は全ギルドに伝わりますのでその点はご容赦ください。」

「分かりました。」


ふぅ〜。

ギリギリセーフ。

メルさん、僕たちの居場所を突き止めるためだけに申請書を出したんだろうな。

メルさん、単純そうに見えてなかなか策士だよね。


僕も彼女のことをそこまで嫌ってるわけじゃないんだけど、ルルさんへの執着の強さと機関銃トークが面倒なんだよね。

ギルド長の仕事を簡単には辞められないみたいなので、常時ストーカー化はしないと思うけど、そのうちにどこかで見つかっちゃうかもしれないな。


そうだ、それより最大の謎が残ってた。


「それで受付嬢さん。ウィンギルドが含まれているのはどうしてですか?」

「どうしてと言われましても、正規のギルドのギルド長からの申請ですので。」

「正規のギルド? 単なる個人的な同好会みたいなものだと思うんですが。」

「いえ、全ギルド連合会に正式に認定されております。現在各地域に支部設立の準備中と伺っておりますが。」


ジャコモさん・・・やり過ぎでしょ。

いつの間にかちゃっかり自分がギルド長になってるし。

ていうか全ギルド連合会の幹部の人たち、そんなもの認定するなよ。

しかも支部設立って・・・


そんなふうに僕が判明した事実に途方に暮れていると、しばらく忘れていた新たな火種が会話に参加してきた。


「ウィン、ようやく私と同じAランクだな。まあ事実上Sランク超えのウィンには不満だと思うが。」


ルルさん、ようやく登場ですか。

【小屋】を設置したらすぐに出て来るかと思ってたんですが、意外と遅かったですね。

【庭】での強化魔物との戦闘がよっぽど楽しかったんですね。

まあ僕も、わざわざ呼びには行かなかったんですけど。


「聖女ルル様、お久しぶりです。」

「おお黒獅子王子じゃないか。いつ以来かな。」

「王子ではありません。冒険者のアルムです。最後にお会いしたのは勇者パーティーとの合同討伐依頼だったと思います。」

「ああ、あのセントラルでの巨大ゴーレム討伐か。懐かしいな。」


どうやらルルさんもアルムさんとは旧知の仲のようだ。

2人とも有名人オーラ満載なので、接点があっても不思議じゃない。

互いに戦闘職なら尚更だ。

いや、正確に言えばルルさんは聖職者だったっけ。


「その後勇者パーティーを抜けられたとお聞きしましたが。」

「そうだな。つまらなかったのでな。」

「そして今はウィン殿と?」

「パーティーを組んでいる。」

「ウィン殿のパーティーには聖女様と勇者様がいるという噂は事実でしたか。しかしその聖女様がルル様とは。ということは勇者様というのは・・・」

「ダメ勇者だな。」

「やはり、リベル様でしたか。」


アルムさん、リベルさんのことも知ってるんですね。

しかも『ダメ勇者』で分かるくらいの親しさで。

勇者パーティーとの合同依頼を受けたと言ってたから当然か。


この際、リベルさんも呼んであげるかな。

同窓会的なノリで。

いや、後にしよう。

話がややこしくなりそうだし。


「ルル様、第三王子様、旧交を温めているところ申し訳ありませんが、日程が押しております。鍛治士ギルドへ移動してもよろしいでしょうか?」


フェイスさんが2人の会話の間にするりと言葉を挟んだ。

的確に日程を管理する優秀な秘書みたいな対応だ。

それにしても今度の呼び名は『第三王子様』ですか?

『不良王子様』ではなく。


「第三王子ではない。冒険者のアルムだ。」


フェイスさんの言葉を、条件反射のようにアルムさんが否定した。

これはどういうことなんだろう。

人によってアルムさんの呼称が違うし、その全てをアルムさんは否定してるし。


フェイスさん、説明プリーズ。


アルムが『不良王子』と呼ばれる理由は?

来週も2話投稿予定です。

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