300.不良で王子様?(黒獅子人:アルム)
不良王子(?)アルムが登場します。
よろしくお願いします。
第四章 氷雪の国と不良王子(300)
(アンソロ編・首都セリオン)
300.不良で王子様?(黒獅子人:アルム)
「おい、答えろ。ここに何の用だ?」
3人の獣人のうち、一歩前に出ている狼系の獣人がドスを効かせた声でそう言ってきた。
後ろの二人は馬獣人と牛獣人っぽい。
判断基準が耳と尻尾だけなので、もしかすると間違ってるかもしれないけど。
「え〜と・・・入国登録・・・かな?」
僕は素直にそう答えた。
なぜか疑問系になってしまったけど。
しかし狼獣人はその答えが気に入らなかったようだ。
「ふざけてんじゃねぇぞ。何しに来たか聞いてるんだ!」
んっ?
別にふざけてるつもりはないんだけど。
あっそうか。
何のためにこの国に来たのか、その目的を言えってことかな。
「え〜と・・・武具の生産・・・かな?」
なぜか口調が疑問系になってしまう。
たぶん自分自身、他にもやることがいろいろありそうって疑ってるせいかもしれない。
とりあえず当初の目的を告げると、狼獣人はさらにヒートアップした。
「武具生産ならここじゃなくて鍛治士ギルドだろうが! お前、俺のことを馬鹿にしてるのか?」
いや、けしてそのようなことは。
ちょっと要領と勘が悪いだけです。
ちょっと待ってください。
冒険者ギルドに相応しい答えを返しますので。
「それから・・・スタンピードの魔物討伐も・・・かな?」
僕がそう言うと、狼獣人はようやく期待した答えだったらしく、満足そうに頷くと、後ろの馬獣人と牛獣人に向かって声をかけた。
「おいおい聞いたか? 軟弱なヒト族の冒険者様がわざわざ魔物討伐の助っ人に来てくださったらしいぞ。ありがたい話だが、この辺りにヒト族が倒せるような魔物なんていたっけな?」
「兄貴、そんな弱い魔物はいないっすよ。」
「いないっすよ。」
狼獣人の問いかけに、馬獣人と牛獣人が答える。
「そうだよな。そんな弱い魔物はこのアンソロじゃ生きていけないわな。」
「はい兄貴、生きていけないっす。」
「いけないっす。」
何だろう、このコントみたいな絡み方は?
いやそもそもこれって絡まれてるんだろうか。
もしかして普通の会話なんだろうか。
会話といっても、馬獣人は狼獣人の言葉を肯定してるだけだし、牛獣人は馬獣人の語尾を繰り返してるだけだけど。
「ってことで、ここではお前は必要ない。どこから来たのか知らないが、とっとと荷物をまとめて帰ってくれ。」
「とっとと帰るっすよ。」
「帰るっすよ。」
やっぱり絡まれてるみたいだね。
でもなんだか楽しくなってきた。
獣人族の人たちって、今まで特殊なタイプ(ネロさんとかフェイスさんとか)しか知らなかったので、テンプレっぽいのが新鮮。
もうちょっと絡まれてみようかな。
そんなことを考えていると、
「こんにちは。」
「?・・・!」
「??・・・・!」
「???・・・・・!」
僕の腕の中からウサくんが、右前足を上げて3人の獣人に挨拶した。
獣人たちは、最初何が起こったのか理解できず、周囲をキョロキョロした後で視線をウサくんに戻し、順番に驚愕した。
「な、なんだ? ウサギか? そのウサギがしゃべったのか?」
「ウ、ウサギが、しゃべったっすか?」
「す、すか?」
獣人さんたち、驚き過ぎ。
牛獣人さん、もう言葉になってないし。
「ウサギじゃないよ。ウサくんだよ。」
さすがウサくん。
さらに被せてくるね。
獣人さんたちの目が、3人揃って真ん丸になってる。
「な、なぜウサギがしゃべる? お前、何者だ。そうか腹話術師だな。」
「腹話術っすね。」
「すね。」
おお、斬新な解釈だね。
腹話術かぁ。
今度、従魔たちがしゃべるのを誤魔化す時に使わせてもらおうかな。
まあ隠すつもりもないので、そんな機会はないだろうけど。
「主、こんな弱いのほっといて、早く手続き。」
あっ、ウサくん、煽っちゃダメだよ。
こういう人たち、すぐキレるんだからね。
「な、なんだと! オレたちを弱いだと! 優しくしてればつけ上がりやがって! オレたちの力を見せてやる。」
「力を見せてやるっす。」
「す。」
ほら、せっかく楽しんでたのに、怒らせちゃったよ。
余計な揉め事を起こさないでほしいんだけど。
ウサくん、後でディーくんに説教してもらうからね。
僕が非難の視線をウサくんに向けていると、ウサくんは突然僕の腕の中から消えた。
「痛ぇ!」
「ギャ!」
「ャ!」
目の前に立っていた3人の獣人たちが急に悲鳴をあげて、床の上にすっ転んだ。
もちろんウサくんの仕業だ。
【影潜り】で僕の腕の中から獣人たちの足元に移動し、体当たりで倒した模様。
あ〜あ、やっちゃったよ。
ウサくん、これ、どうしてくれるの?
この3人だけなら別にいいけど、ギルド中の獣人の皆さんを敵に回したら、大事になっちゃうよ。
そうなったらさすがに【転移陣】で逃げるしかなくなるでしょ。
そんなことを考えていると狼獣人が立ち上がり僕を威嚇してきた。
馬と牛の2人はひっくり返ったままだけど。
「おい! ここまでするからには覚悟はできてるんだろうな。」
「いえ、これは不慮の事故です。」
「ふざけてんのか。タダで済むと思うなよ。」
「従魔の監督不行き届きということで口頭注意くらいで済みませんか?」
「舐めてんのか!」
狼獣人はそう叫ぶと、両手を上げて戦闘態勢をとった。
両手の指先からは、黒く鋭利な爪が長く伸びている。
斬撃系のスキル持ちなのかもしれない。
まあ、ネロさんほどの迫力はないけどね。
「そこまでだ、新人ども。」
どう対処したもんかなと思案していると、男性の声が冒険者ギルドの受付フロアに響いた。
大きくはないがよく通る低音ヴォイス。
その声を聞いた途端に狼獣人は構えを解き、直立不動の姿勢になった。
馬獣人と牛獣人も慌てて立ち上がり、狼獣人の隣に並んで同じように姿勢を正した。
「ヒト族の冒険者、申し訳ない。そいつら、まだ見る目がなくてな。」
声がした方を見ると、ギルド内にいる冒険者たちの中でも一際背の高い獣人がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
全身黒一色の武具を身に着けた偉丈夫。
黒い瞳に黒い髪。
人型をとっている獣人には珍しく、露出している腕も漆黒の獣毛で覆われている。
そしてさらに特徴的なのはその髪型。
どう見ても鬣にしか見えない。
おそらく獅子獣人だろう。
「お久しぶりです。不良王子様。」
この人いったい誰なんだろうかと思っていると、それまで黙っていたフェイスさんがいきなり口を開いた。
フェイスさんの知り合いのようだ。
でも今『不良王子様』って呼んだよね。
不良で王子様?
初見だと不良にも王子様にも見えないんだけど。
「不良でも王子でもない。冒険者だ。」
黒い獅子獣人はフェイスさんの言葉を淡々と否定した。
そしてフェイスさんの顔を一瞥した後、僕の方を向いた。
「自己紹介させて頂こう。アンソロの冒険者、アルムだ。」
「ご丁寧にありがとうございます。ウィンと申します。冒険者・・・もしております。」
「やはり貴殿がウィン殿か。フェイスが従っているのも頷ける。」
「いや、従えてるわけでは・・・でもなぜ僕のことを?」
「強者の噂は風のように疾きもの。武神を倒した者とあれば尚のこと。」
アルムさん、情報に何か大きな誤解が混入してませんか。
僕はあのセクハラ爺さん・・・武神様を倒してないですよ。
あれは正座していて勝手にひっくり返っただけです。
なぜか僕の【小屋】に住んではいますけど。
実際に武神様を倒したのはタダ飯喰らいの3歳児勇者・・・リベルさんです。
横薙ぎの一撃が見事に決まってましたね。
今は訳あって、僕の従魔が彼のことを【庭】で再教育中ですけど。
あと武神様は現在、三度の飯より戦闘が好きな瞬殺の聖女・・・ルルさんと魔物を強化して遊んで・・・いや討伐訓練中です。
うん、改めて言葉にすると、僕の周りの人たちってとんでもないのばかりだな。
ちょっと人間関係を見直した方がいいかもしれない。
「アルム様、ウィン様に関する噂はそのまま信じない方がよろしいかと。」
「そうなのか。やはり過大なものになっているか。信じられない話が多いとは思ったが。」
「アルム様、逆でございます。噂は過小でございます。ウィン様は既に、人智を超えておられます。」
フェイスさん、初対面の人に対して僕を人外のように紹介するのはやめてもらえますか。
ほら、アルムさん、黙っちゃったじゃないですか。
ようやくまともなキャラに出会えたと思ってたのに。
これじゃあドン引き確定じゃないですか。
正統派登場人物を速攻で失う予感に落胆していると、予想外の方向から声が聞こえてきた。
「叔父貴、もう許してもらえないでしょうか?」
「許してもらえないっすか?」
「ないっすか?」
そこには、直立不動のままでアルムさんに許しを請う3人の獣人たちの姿があった。
そういえばすっかり忘れてました。
せっかく「冒険者ギルドで弱そうな新人に絡むタチの悪そうな冒険者」を実演してもらったのに、放置はかわいそうだよね。
でもアルムさんに対するその呼び方はどうなのかな。
『叔父貴』って・・・・・どこの黒社会の人ですか。
「叔父貴じゃない。冒険者アルムだ。そのまま立ってろ。」
アルムさんは3人の方を見もせずに、淡々と反省継続を言い渡した。
まあ、『叔父貴』なんて呼ばれて喜ぶ人はいないよね。
アルムさんが纏う雰囲気的には、そう呼びたくなる気持ちも分からなくはないけど。
少なくとも『不良王子様』よりは似合ってるかもしれない。
今週もう1話投稿予定です。




