298.御礼の品が破格過ぎる件(世界樹クエストⅡ:スキルチケット)
第四章を開始します。
この章から獣人族の国の元王子アルムが加わります。
不定期な更新になりますが、よろしくお願いします。
第四章 氷雪の国と不良王子(298)
(アンソロ編・首都セリオン)
298.御礼の品が破格過ぎる件(世界樹クエストⅡ:スキルチケット)
「ウィン様、お待ちしておりました。」
石板の上、いや『古の転移陣』の上で立ち尽くしていると、どこからか女性の声が聞こえてきた。
薄暗闇の中で目を凝らすと、少し離れた所で巫女姿の女性が軽く頭を下げている。
よく見るとそれは、諜報ギルドのエース、九尾狐獣人のフェイスさん
だった。
まあ、声を聞いた瞬間に誰だか分かったんだけどね。
フェイスさんの声って、独特で不思議な響き方をするから。
でもなぜフェイスさんがここにいるんだろう。
ジャコモさんの事前説明通りなら、ここは商人ギルド・セリオン本部の地下のはず。
フェイスさんが出迎えるのは筋が違うような・・・・・
「ふふふ、ウィン様、私がここにいるのがそんなに不思議ですか?」
顔を上げたフェイスさんがイタズラっぽく笑いながら問いかけてくる。
「はい、フェイスさん。もしかしてここは諜報ギルドの秘密の拷問部屋とかですか?」
「ウィン様、諜報ギルドにそんな部屋は存在しません。ここは当初の予定通り、商人ギルドの地下にある転移部屋です。」
「じゃあどうしてフェイスさんがいるんですか?」
「自慢する訳ではありませんが、私はたいていの場所には入れますので。」
フェイスさん、それは「許可がなくても」って意味ですか?
諜報ギルドのエースとしての能力があれば、どこにでも侵入できるってことですよね。
例えば厳重に警護された王城の王族たちの寝所でも、脱出不可能なはずの孤島の牢獄でも、神秘に包まれた古代遺跡の最奥の宝物庫でも・・・・・
そして商人ギルドが秘匿しているこの転移部屋でも。
「ふふふ、冗談ですよウィン様。そんな顔をしないでください。今回はジャコモ様の指示で、ここでお待ちしておりました。」
そう言ってフェイスさんはあっさりと種明かしをした。
なんだ、ジャコモさんの許可を取ってるのか。
無断で勝手に侵入したわけじゃないんですね。
でもどうしてジャコモさんはフェイスさんにそんな指示を出したんだろう?
「ウィン様、ここアンソロは私の生まれた国ですので、私の方からウィン様に同行したいとお願いしました。」
アンソロって、フェイスさんの故郷なんですね。
まあ獣人族の国だし、九尾狐獣人のフェイスさんの出身地でもおかしくはないか。
でもコロンバールにもアマレパークスにも普通に獣人族はいたし、すべての獣人がアンソロ出身って訳でもないんだろうけど。
「土地に明るい人が同行してくれるのはありがたいですけど・・・フェイスさんの同行って・・・普通の同行ですか?」
「ウィン様、それはどういう意味でしょうか?」
「いえ、フェイスさんのことだからストーカ・・・いや隠密行動での同行なのかなと。」
「ふふふ、ご心配なく。今回は普通に『表』で同行させて頂きます。」
フェイスさんは、軽く微笑みながらそう言った。
薄暗闇で見るフェイスさんの笑顔は、美しさと妖しさが同居していて、思わずドキッとさせられる。
でも、フェイスさん、堂々と『表』で行動して大丈夫なのかな。
生まれた国なら友人知人も多そうだし、諜報ギルド的に不都合がある気がするんだけど。
「ウィン様、大丈夫ですよ。この国の人たちは私の性格をよく知っておりますので。たとえ気付かれても問題はありません。」
そういうことか。
フェイスさん、ここでは相当有名なんだろうな。
でもよく知られてるフェイスさんの性格ってどの部分だろう?
邪魔者は徹底的に排除するってところかな。
いや敵対者には想像を絶する地獄を見せるってところかもしれない。
もしかして権力者を巧妙な罠に嵌めてその地位から叩き落とすってところの可能性も・・・
そんなふうにフェイスさんがやりそうなことを想像していると、
「ウィン様、私はそこまで性悪ではありません。」
あっ、フェイスさん、ちょっとお怒りモード?
やっぱり完全に心の中を読まれてるよね。
ちょっとやり過ぎたかな。
フェイスさん、目が笑ってないんですけど。
そんな風に僕が恐れ慄いていると、フェイスさんが言葉を続けた。
「ただ、」
「ただ?」
「もしウィン様にとって障害となるモノが現れた場合は、きれいに無かったことにするかもしれませんが。」
うわぁ、今、背中に悪寒が走ったんですけど。
無かったことにするって、それが一番怖くないですか。
元々存在しなかったことにするってことですよね。
それが物であっても、人であっても、事案であっても。
別にそこまでして頂かなくてもいいんですけど。
障害があれば、普通に対処していきましょうよ。
フェイスさんの淡々とした存在抹消宣言に震え上がっていると、目の前にメッセージが表示された。
…旦那、クエストを確認してくれ…
旦那?
何その呼び方?
あっそうか。
国が変わったから中の人も交代なのか。
これで4人目だね。
中の・・・何て呼ぼう?
…旦那、確認…
あっ、催促された。
すみません。
呼び方は後で考えます。
とりあえずクエストの確認だね。
でもこのタイミングで何のクエストだろう?
【世界樹クエストⅡ】
クエスト : 世界樹からの御礼
報酬 : スキルチケット1枚
(任意のスキルを獲得できる。)
達成目標 : 世界樹にお礼を言われる
※達成済み
僕はクエスト達成の表示を見て、報酬の部分を二度見した。
スキルチケット?
これって、何でも欲しいスキルを選べるってことだよね。
ちょっと、いやかなり破格過ぎるんじゃないの?
でもそれだけ『世界樹様』は別格ってことか。
とってもラッキーだけど、逆に何を選ぶべきか悩むよな。
すぐ決めないといけないのかな?
…使用期限はない…
おお、それはいいね。
この世界にどんなスキルがあるのか調べて、よく吟味してから決めよう。
それにしても新しい中の人、言葉数が少ないね。
単語3つのフレアさんよりはマシだけど。
まあ無駄口が多いよりはいいか。
「ウィン様、内面との会話中に申し訳ありませんが、そろそろ出発いたしましょう。予定が立て込んでおりますので。」
うん、フェイスさんには中の人たちとの会話も筒抜けな感じ?
フェイスさん、他の人にペラペラ喋るタイプじゃないので、知られたからといって特に問題はないけど。
でも予定が立て込んでるってどういうことだろう?
もしかしてフェイスさん、スケジュール管理の秘書さんみたいな立ち位置?
今回の依頼って、鍛治士ギルドで武具作成するだけじゃないの?
他にも何かすることがあるのかな。
ジャコモさんのことだから、またいろいろ画策してる可能性があるよね。
ちょっと心配になってきたぞ。
流されないように気をつけないと。
まあ、ジャコモさんとフェイスさんに組まれたら、太刀打ちできる自信はまったくないけど。
そんなことを考えながら、僕はフェイスさんの背中を追って転移部屋を後にした。
お読み頂きありがとうございます。
年内は週2回程度を目指して更新していきたいと思います。




