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297.お礼を言われました(ユグドラシル:第三章最終話)

見つけて頂いてありがとうございます。


第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)


主人公が世界樹のアマレパークスで様々な出来事に遭遇するお話です。

仲間として戦闘狂の聖女ルルに続いてエルフの元勇者リベルが加わります。


第三章の最終話です。

よろしくお願いします。


第三章 世界樹の国と元勇者(297)

【アマレパークス編・地下都市ララピス】



297.お礼を言われました(ユグドラシル:第三章最終話)



コツン、コツン、コツン。


地下へと続く石の階段を降りて行くと、そこには頑丈そうな金属製の扉が設置されていた。


「『転移陣』はこの中じゃよ。」


ジャコモさんはそう言いながら扉のあちこちに触れている。

解錠するには複雑な手順があるようだ。

しばらくするとカチャリと音がして、扉の中央に四角い空間が現れた。

ジャコモさんはその空間に、懐から取り出した黒い石(魔石?)をそっと置いた。

すると金属の扉が一瞬光り、ゆっくりと内側に開いた。



ここは商人ギルド・ララピス支部の地下。

いるのはジャコモさんと僕の2人だけだ。

ララピス支部のギルド長のティティンさんも同行していない。

『転移陣』の使用権限はごく限られた人物にだけ与えられているらしい。

もちろんジャコモさんは使用権限を持っている。


「ウィン殿、どうぞ中へ。」


ジャコモさんに促されて僕は部屋の中に入った。

灯はどこにもないけど、周囲の壁がうっすらと光っている。

『感音照石』か『感温照石』でできているのだろう


薄暗い部屋の中を見渡すと、床の中央に正方形の大きな石板が置かれているのが見えた。

石板の表面には円形の複雑な模様が刻まれている。

おそらくあれが『転移陣』なのだろう。


「ジャコモさん、あれですか?」

「そうじゃよ、ウィン殿。古の魔道具『転移陣』じゃよ。」

「なぜ『古の』なんですか? 新しいものは作れないんですか?」

「研究はしておるんじゃが、未だに再現できておらんでのう。」


やっぱり『転移陣』はロスト・テクノロジーのようだ。

同じ模様を石板に刻むだけでは発動しないのだろうか。

何か特殊な作り方があるのかもしれない。


「どこで手に入れたんですか?」

「古い遺跡からたまに発見されるんじゃ。それを商人ギルドで買い上げておる。一部は王族にも献上しておるがのう。」

「発見者が個人で所有したりは?」

「個人所有は一応禁止されておる。そもそも発動させるには大量の魔力と複雑な手順が必要なんじゃ。個人の手には余る魔道具でのう。」


つまり、個人で持っていても宝の持ち腐れってことか。

それなら商人ギルドに売ってお金にしたほうがいいと。

おそらく使用方法も厳重に秘匿されてるんだろう。


「そんな貴重な魔道具を僕が使っても構わないんですか?」

「わしの権限で可能じゃよ。まあ今回の依頼報酬の一部とでも思ってもらえばいいかのう。」

「でもこれがあれば、僕の『小屋』がなくても移動できるんじゃないですか?」

「移動はできる。しかしのう、あれじゃ、ディーくんに教わった言葉で言えば、『コスパ』が悪いんじゃよ。人ひとり転移させるのに黒魔石4個分の魔力が必要なんじゃ。」


ディーくん、いつの間にそんな言葉をジャコモさんに教えたのかな。

相変わらず言葉の入手先も謎だ。

でも黒魔石4個分の魔力かぁ。

全然意味が分からないけど、かなりの量の魔力なんだろうな。


「この石板の上に乗ればアンソロに転移できるんですね?」

「その通りじゃ。行き先は商人ギルド・セリオン本部の地下室じゃな。そこにこれと同じ『転移陣』が置かれておるでのう。」


どうやら『転移陣』はどこにでも転移できるわけではなく、別の『転移陣』の上限定のようだ。


僕は石板の上に乗り『転移陣』の中央に立った。

今回転移するのは僕一人だけ。

アンソロの首都セリオンに移動し、商人ギルドの周囲の安全を確認した上で、裏庭に『小屋』を設置する手筈になっている。

ルルさんは『小屋』で待機中だ。


「それではウィン殿、『転移陣』を発動してもよろしいかのう。」


僕は承諾の意味で首を縦に振った。

ジャコモさんはそれを見て、石板の4隅に黒魔石を置き、石板から少し距離を取った。

『転移陣』に刻まれた模様が光り始める。


次の瞬間・・・目の前が真っ白になり体全体が浮遊感に包まれる。

体感で5秒後くらいだろうか。

しばらくすると両足に地面を踏み締める感覚が戻って来る。

そして僕は、世界樹の前に立っていた。


あれっ?

ジャコモさん、転移先の設定間違えたんじゃないのかな。

ここ、どう見てもシルワの街の世界樹がある広場なんだけど。

あっ、でも『転移陣』は別の『転移陣』の上にしか転移できないんだっけ。

何が起こってるんだろう?


(ウィン様、転移の途中に割り込んで申し訳ありません。)


状況が飲み込めずにいると、頭の中に女性の声が響いた。

誰かが念話で語りかけている。

僕はとりあえず念話で問い返してみた。


どちら様ですか?


(世界樹のユグドラシルと申します。)


世界樹!?

世界樹ってしゃべるの?

いや、世界樹様ってお言葉をご使用されるんですか?


(もちろんです。神々が自由にしゃべる世界ですから、世界樹の私も気が向けばしゃべります。)


それは失礼致しました。

ちょっと驚き過ぎて言葉遣いが適当じゃないかもしれませんがお許しください。


(気にしないでください。普通にしゃべって頂いて構いませんよ。)


はい、努力してみます。

でも世界樹様、僕に何かご用でしょうか?


(一言、お礼が言いたくてお邪魔させて頂きました。)


お礼?

何かお礼を言われるようなこと、ありましたでしょうか?


(この国の歪みを取り除いて下さり、ありがとうございました。)


歪み・・・・・ですか?


(はい。ウィン様が対応された出来事はすべてこの国、いえこの世界にとっての歪みでしたので。)


そうなんですね。

まったく意識してませんでした。


(意識しているかどうかは問題ではありません。大切なのは世界を修復して頂いたという事実だけです。ウィン様、これからも様々な歪みに遭遇すると思いますが、よろしくお願い致します。)


いや別に遭遇したくはないんですけど。

どちらかというと呑気な物見遊山がいいんですけど。


(ふふふ、ウィン様、無理に世直しを押し付けるつもりはありません。どうかご自分の思うがままに旅を続けて下さい。それではこれで失礼致します。良き旅を。)


その言葉を最後に、世界樹様の気配が消えた。

僕の視界は再び真っ白になり、すぐに真っ黒になった。

気がつくと、僕は薄暗い部屋の中で石板の上に佇んでいた。



(第三章 『世界樹の国と元勇者』 終わり)

(第四章 『氷雪の国と不良王子』 に続く)


これにて第三章完結です。

予定よりかなり長くなってしまいました。

お付き合い頂き感謝申し上げます。


第四章開始までしばらくお時間を頂きます。

1ヶ月程度で再開する予定です。

今後ともよろしくお願いします。


ティーティー

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