294.あなたたちを弟子にするつもりはありません(白髭と黒髭)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週2回程度の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(294)
【アマレパークス編・地下都市ララピス】
294.あなたたちを弟子にするつもりはありません(白髭と黒髭)
話がいろいろな方向に逸れてしまったので、ちょっと思考を整えよう。
マーロンさんの質問、「鉱石から直接武具を作れるか」については、「作れる」という答えが出た。
自分でもビックリだけど、これはこれでとても便利な能力なので素直に嬉しい。
ただ、マーロンさんとジャコモさんは今回は飛び入りなので、この話はここまでにしておこう。
称号神様の「簡単に称号付け過ぎ問題」については、相手側に話し合いを受け入れる意思がないので無期限延期。
これも脇道なのでとりあえず放置でいいか。
本筋はフレアさんの『弟子問題』。
いや、僕の『師匠問題』と言った方がいいかもしれない。
フレアさんには弟子として何の問題もないけど、僕は師匠として問題ありありなので。
僕はドワーフ的『物理鍛治』もエルフ的『魔法鍛治』もできない。
できるのは『錬金』だけ。
便宜上これを『錬金鍛治』と呼ぶことにする。
僕は『錬金鍛治』の手本を見せようとして、ちょっと、いやかなりやり過ぎてしまった。
1回目は、ミスリルのインゴットから短剣(白)を作ってみた。
素材はミスリルでなくても良かったんだけど、アダマンタイトの次はミスリルかなと、軽いノリで選んでしまった。
そしてもちろんミスリルは希少で高価な金属。
おそらく鍛治における取り扱いも難易度が高いと思われる。
最初の手本にするにはちょっと相応しくないよね。
2回目は、5個のアダマンカイトのインゴットから5種類の剣ができてしまった。
アダマンカイトならフレアさんも使い慣れた金属だしなとか、どうせなら手本は何種類かあった方がいいよなとか考えていると・・・・・
1個ずつ作るつもりが、同時に5個作ってしまった。
さすがに1回のスキル発動で5種類の剣を作るのはダメだったようで、ディーくんに本気で呆れた顔をされた。
最後は、アダマンタイトの原石から短剣(黒)を作った。
これは論外だったね。
まあ、フレアさんのためではなくマーロンさんの疑問に答えるための『錬金』だったのでカウント外なんだけど。
目の前で直接見てしまえば、衝撃は同じだよな。
「おばば・・・錬金・・・意味不明・・・」
「フレア、ごめんなさい。私も混乱しております。」
マーロンさんとの会話が途切れたタイミングで、フレアさんとサイン様が言葉を発した。
フレアさんは涙目。
サイン様は可愛い顔を困惑に歪めている。
2人とも、初めて見た僕の『錬金』が理解不能なんだろう。
そりゃそうだよな。
鍛治士ギルドのギルド長であるマーロンさんでも驚愕するくらいだからね。
商人ギルドの重鎮であるジャコモさんは面白がってるけど。
もちろん『錬金』スキルのないフレアさんに同じことを求めようとは思ってない。
それはどう考えても無理な注文だ。
でもかと言って、僕は『錬金鍛治』しかできない。
そんな条件の下で師匠として何をすればいいのか。
僕はとりあえず、目指すべき目標を決めてみた。
それは、フレアさんが『錬金』スキルを獲得すること。
これがないと一歩も話が前に進まない。
でもじゃあそのために何をすればいいのか。
僕も僕なりに無い知恵を絞ってみた。
1番の近道は『受注者枠』にフレアさんを設定してクエストで『錬金』を習得させる方法。
『受注者枠』は現時点で4枠あり、1枠はルルさんで埋まっているけどあと3枠空いている。
ただ、一度『受注者』を設定すると変更不可なので、誰を設定してもいいってわけじゃない。
リベルさんもまだ設定してないし。
1枠をフレアさんに与えていいものか、悩みどころだ。
僕はそこまで考えて、実はもっと根本的な問題があることに気づいた。
そもそも『錬金クエスト』ってあったっけ?
『はじまりの島』での初期の出来事を思い返してみる。
直接『錬金』が達成報酬になっているクエストは無かった気がする。
確か、『火魔法(FIRE)』を使ってるうちに派生したはずだ。
ということは『受注者枠』での『錬金』取得は無理なのかな。
でも一応確認しておこう。
「中の侍」さん、『錬金クエスト』ってある?
達成報酬が錬金スキルのやつ。
僕は心の中で「中の侍」さんに尋ねてみた。
しばらく間があって、「中の侍」さんからの返答が表示された。
…うぃん殿、しばしお待ちくだされ。・・・ぱらぱらぱら・・・申し訳ありませぬが、今の所そのような『くえすと』はないようでござる…
やっぱりないか。
「中の侍」さん、確認ありがとう。
でも「ぱらぱらぱら」って、擬音まで伝える必要はないよ。
『クエスト辞典』とかで調べたのかな。
…『辞典』ではなく『手引書』で・・・あっ、これは秘匿事項でござった・・・うぃん殿、今のは聞かなかったことでお願いするでござる…
うん、別にいいけど。
でも後で「中のヒト」か「中の女性」に締められるんじゃないかな。
あの2人、仕事に関しては厳しそうだからね。
さてと。
『受注者枠』が使えないとなると、正攻法で行くしかないか。
それが上手くいくかどうかは分からないけど、他にいい案が思い浮かばない。
僕はフレアさんの方を見て、今後の方針について正直に伝えることにした。
「フレアさん、とりあえず『錬金』スキルの取得を目指しましょう。」
「私・・・『錬金』・・・取得?・・・」
「はい。長い道のりになるかもしれませんが。」
「修行・・・何・・・必要?・・・」
うん、問題はそこだよな。
『錬金』は『火魔法』の派生系だから『火魔法』を使って鍛治を繰り返すのが基本だと思うけど、それはこれまでフレアさんがやってきたことだしなあ。
何か特殊な要素がないとダメだよな。
そんなことを考えながら視線を彷徨わせていると、床の上の短剣(黒)が視界に入った。
直前にアダマンタイトの鉱石から作ったものだ。
そしてその短剣(黒)が一瞬キラリと光った気がした。
「フレアさん、その短剣(黒)を手本として差し上げます。フレアさんの魔法鍛治で同じものを作ってみてください。素材はディーくんが出したアダマンタイトを使ってください。」
「なんじゃと!」
「なんと!」
僕の言葉に、フレアさんではなくジャコモさんとマーロンさんが反応した。
フレアさんは言葉をなくして、床の上の短剣(黒)を見つめている。
「ウィン殿、それならわしも弟子にしてくれんかのう。」
「ジャコモ、貴様は鍛治士ではなかろう。弟子になるならわしだ。」
白髭と黒髭のおじいさんたち、何を騒いでいるのかな。
あなたたちは部外者なので、勝手なことを言わないでもらえますか。
まずマーロンさん。
あなたは鍛治士ギルドのギルド長ですよね。
そんな偉い人を弟子にする気はまったくありません。
それからジャコモさん。
鍛治じゃなくて短剣(黒)が欲しいだけですよね。
アダマンタイトもね。
目が金貨マークになってますよ。
そんな欲望に塗れた目でお願いされても聞く耳は持ちません。
「わしが弟子じゃ」「いや弟子はわしだ」と年甲斐もなく言い争いをしている2人のドワーフを完全に無視して、僕はフレアさんに声をかけた。
「フレアさん、どうします?」
「無論・・・全力・・・挑戦・・・」
フレアさんは覚悟を決めた表情で、そう宣言した。
こうして僕に初めての弟子が誕生した。
師匠としての役割には、まったく自信はないけど。
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