291.世界が認めたそうです(ウィンの弟子:フレア)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週2回程度の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(291)
【アマレパークス編・地下都市ララピス】
291.世界が認めたそうです(ウィンの弟子:フレア)
「ウィン・・・短剣・・・評価・・・」
フレアさんがもう一度同じ言葉を繰り返した。
態度は、直前までのアウアウ状態から平常運転に戻っている。
言葉数は相変わらず3つだけだけど。
これはもしかすると・・・・・
メンタルの自己防衛機能が働いて、「短剣の恥ずかしい名前」問題を記憶から抹消したのかもしれない。
あるいは忘れたふりをしてるだけかもしれないけど、もうそこには触れないようにしよう。
また話が進まなくなるからね。
「フレアさん、この短剣、僕の短剣(黒)とそっくりですね。」
僕は、フレアさんが僕とサイン様のやり取りをまったく聞いていなかったという前提で会話することにした。
「全力・・・挑戦・・・未熟・・・」
ん?
全力で挑戦してみたけど自分はまだまだ未熟ってことかな?
「いえいえ、一度見ただけでここまで再現できるのは凄いと思います。形状も重心のバランスもほぼ同じだし。」
僕の言葉を聞いてフレアさんは少し考え込んだ。
そして再び口を開く。
「世辞・・・不必要・・・厳格・・・評価・・・」
あっ、単語が4つになった。
3つ限定じゃなかったんですね。
お世辞はいらないから厳しく評価して欲しいってことか。
正直に話してるつもりだけど、あえて指摘するなら、
「強度は僕の短剣(黒)の半分ですね。まあ素材が違うので仕方ないと思いますが。」
そう告げると、フレアさんのピンク色の瞳が一瞬見開かれて、すぐに伏目になった。
ちょっと気落ちした感じ?
そこまで差があるとは思ってなかったのかもしれない。
『強度』については、『武具鑑定』が極級じゃないと見えないからね。
「アダマンタイト・・・鍛治・・・悲願・・・」
視線を落としたフレアさんをしばらく見守っていると、彼女の小さく開いた口からこぼれるように、そんな言葉が聞こえてきた。
フレアさんの悲願かぁ。
そこまでなんですね。
アダマンタイトやミスリル、金剛石なんかは滅多に市場に出ないって
ジャコモさんも言ってたしな。
たとえ市場に出たとしてもかなり高価だろうし。
でもアダマンタイト、うちの素材庫には山積みされてるんだよね。
ダンジョン『七色ワームの洞窟』でドロップしたものもあるけど、それ以外にも従魔たちがどこからか集めて来ちゃうので。
フレアさんの姿を見てると、自分の恵まれ加減がなんか申し訳なく思えてくる。
「フレアちゃ〜ん。鍛治見せてくれてありがとね〜。これお礼だよ〜。」
ちょっとしんみりした雰囲気を破るように、ディーくんが元気な声でフレアさんに声をかけた。
そして肩から斜めに掛けた鞄の中をゴソゴソしてる。
ディーくん、お礼って・・・・・
まさか・・・・・
ゴトン、ゴトン、ゴトン・・・・・
ディーくんは鞄の中から金属のインゴットを次々に出して、床の上に積み上げていった。
ディーくんの鞄はマジックバッグで、僕の空間収納や素材庫に繋がっている。
そしてもちろんそのインゴットはアダマンタイトだった。
「・・・・・」
その様子を見ていたフレアさんは、驚きで声も出ないようだ。
まあ、元々言葉数の少ない女性ではあるけど。
でもサイン様は、このディーくんの行動にすぐに反応した。
「ディーくん様、いけません。そのような貴重なものを受け取るわけには参りません。」
「サインちゃん、ディーくん様じゃないよ〜。ディーくんだよ〜。」
ディーくん、こんな状況でも反応するのはまずそこなんだね。
しかもまさかの「サインちゃん」呼び。
ディーくん、もしかしてサイン様より年上なの?
「すみません、ディーくんさ・・・ディーくん、そのアダマンタイトをどうか鞄の中にお仕舞いください。」
「サインちゃん、出したものは仕舞えないよ〜。それが江戸っ子の心意気だよ〜。」
ディーくん・・・・・いつの間に江戸っ子になったのかな?
ていうか、どこからその言葉を仕入れてきた?
「ディーくん、そのような高価なものを理由もなく受け取るわけにはいきません。『えどっこ』が何かは存じ上げませんが、エルフにもエルフの矜持があるのです。」
サイン様は彼女らしからぬ強い口調でディーくんのお礼の品を拒否した。
まあサイン様の気持ちもよく分かる。
いきなり高価なものを目の前に積まれても、まともな人はホイホイとは受け取らない。
でもディーくんも引き下がらなかった。
「サインちゃん、理由ならあるよ〜。」
「ディーくん、フレアが鍛治を見せたお礼と言うなら、それは対価として相応しくありません。」
「違うよ〜。お礼の意味もあるけど〜、もっと大事な理由があるよ〜。」
もっと大事な理由?
いったい何のことだろう?
ディーくんは自信満々みたいだけど、本当にサイン様を納得させるだけの理由があるんだろうか?
「ではディーくん、私にその理由を説明して頂けますか。」
サイン様の言葉を聞いて、ディーくんは僕の方を見た。
えっ?
まさかここで僕に丸投げするつもり?
それは無茶振りにも程があると思うよ。
自分で蒔いた種は自分で回収してね。
僕はノーアイデアだよ。
ディーくんは僕の態度を見て諦めたのか、視線をサイン様の方に戻した。
そしてその理由をサイン様に告げた。
「サインちゃん、理由はねぇ〜、フレアちゃんがあるじの弟子だからだよ〜。」
「フレアが・・・ウィン様の弟子?」
「そうだよ〜。」
「なぜ、フレアがウィン様の弟子なのでしょうか?」
「フレアちゃんが打ったその短剣が証拠だよ〜。」
「この短剣が? ・・・申し訳ありません、ディーくん。理解が追いつきません。」
サイン様が当惑した表情になっている。
まあ当然だよね。
僕も理解が追いついてないからね。
ディーくん、もう少し分かりやすくお願いします。
「その短剣の銘だよ〜。」
「この短剣の名前ですか?」
「そうだよ〜。『ウィン師匠に捧げる短剣』だよ〜。」
そこまで聞いてディーくんの言いたいことが理解できた。
フレアさんが僕のことを「ウィン師匠」と呼ぶってことは、フレアさんは僕の弟子ってことになると。
そして弟子になら素材を提供することに問題はないと。
でもディーくん、それって、ちょっとこじつけが過ぎるんじゃないかな。
「でもディーくん、それはフレアが勝手に付けた名前。正式な師匠と弟子ということにはならないのではありませんか。」
「違うよ〜。正式だよ〜。」
「なぜでしょう?」
「鑑定で銘が出たってことは、世界が正式に認めたってことだよ〜。だからフレアちゃんはあるじの正式な弟子なんだよ〜。」
ディーくんの言葉を聞いてサイン様が黙り込んだ。
何かを深く考えている様子。
そして独り言がこぼれ落ちる。
「まさか・・・私に降りてきた『預言』は・・・この場面に立ち会うため・・・」
そんなサイン様を前にディーくんが話を締め括った。
「師匠は弟子の成長のために、持てるもの全てを提供していいんだよ〜。それがこの世界の理だよ〜。」
僕はディーくんの話が終わると同時に当事者であるフレアさんの方を見た。
フレアさんは・・・・・真っ赤になってアウアウしていた。
あっ、また向こうの世界に行っちゃったかな。
ディーくんの「ウィン師匠に捧げる短剣」って言葉に反応しちゃったんだろうな。
せっかく無かったことにしてたのにね。
でも弟子かぁ。
いいのかなぁ。
教えられること、何もない気がするんだけど。
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