284.ウィンギルド幹部会(最終兵器:ルル)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週2回(月・木)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(284)
【アマレパークス編・地下都市ララピス】
284.ウィンギルド幹部会(最終兵器:ルル)
「なるほど、そんなことになっておったんじゃのう。」
白い髭を撫でながらふむふむと頷いているのは、商人ギルドの重鎮、『コロンの白鯨』ジャコモさんだ。
縦にも横にも大きい体を、深々とソファに沈めて座っている。
この世界のドワーフ族って背の高い人も多くてちょっとイメージが狂う。
ジャコモさんは昨日ララピスからコロンに帰ったばかりだったけど、すぐに戻って来てもらった。
ウィンギルド幹部会の議長役なので。
まあ戻ると言っても、コロンの商人ギルドの裏庭にある『小屋』に入るだけなので、移動時間はほとんどないんだけどね。
「神様が居着くというのは、悪いことではない気がするのですが。」
これはテイマーギルド・アマレ本部のギルド長、『能面の青姫』シルフィさんだ。
普段はほとんど表情を変えない彼女だが、今回は議題が議題だけに少し困惑した表情をしている。
確かに通常なら縁起のいい話かもしれないけど、相手が武神様だからなぁ。
従魔ならこちらの言うことを聞いてくれるんだけど、武神様ってコントロール不能だしね。
神様って、テイムできないのかな。
「ウィン、てめぇ、常識から外れ過ぎだろうが。居候候補が神様ってぇのはどういう了見でぇ。」
相変わらずのべらんめぇ口調で、ポンポンと言いたいことを言ってくるのは、冒険者ギルド・コロン本部のギルド長、『漆黒の魔爪』ネロさん。
黒山猫獣人だけど、今回は完全に人化していて、山猫耳も見当たらない。
あと見当たらないと言えば、いつも一緒にいるグラナータさんの姿もない。
副ギルド長でありネロさんの妻でもある『赤いダイナマイト』は欠席のようだ。
ネロさんの代わりにギルドで仕事をしているのかもしれない。
「ウィン様、お心のままに。問題があれば私が速やかに対処いたします。」
諜報ギルドのエース、フェイスさんが九尾狐獣人の姿でにっこり微笑んだ。
怪しげなグリーンの瞳と長い銀髪と三角の狐耳が印象的だ。
他の皆さんには各ギルドを通じて招集をかけてもらったんだけど、この人だけは気がついたら『小屋』にいたんだよね。
さすが優秀なストーカー・・・・・じゃなくて諜報員ですね。
でもフェイスさん、神様案件でも普通に対処できるんですか?
フェイスさんなのでできるんでしょうね。
どんな対処をするのかはあえて聞きませんが。
ということでウィンギルドの緊急幹部会に以上の4名が集まった。
ティティンさんはまだ会員見習い中ということで外れてもらった。
図らずも各ギルド(商人ギルド・テイマーギルド・冒険者ギルド・諜報ギルド)から1名ずつという人選だ。
議題は「武神様の居候問題」について。
経緯を知らない人が見たら、冗談のようなタイトルだよね。
そして当の本人は会議には参加していない。
リビングのテーブルで青髪をツインテールにした幼女と串焼きを食している。
「お主、リーたんというのか。海竜の幼体で人化できるとは珍しいのう。」
「おじいちゃん、串焼き食べる時は私語は禁止。ちゃんと串焼きに集中するの。」
「おお、すまんのう。しかしこの串焼き、なかなかどうして美味じゃのう。」
「そうでしょ。ウィン特製だから。」
「ウィンは料理もできるのか?」
「ウィンは何でもできるよ。」
「そのようじゃな。お主もここに住んでおるのか?」
「普段は海底の洞窟。でもご飯はここ。」
「そうかそうか、それなら時々会えるのう。」
「あっ、おじいちゃんタレ味ばっかり食べちゃダメ。通は塩味を食べるのよ。」
「そうかそうか。」
う〜ん、ほのぼのしちゃってるな。
武神様の顔が久しぶりに孫に会ったおじいちゃんみたいになってるし。
これから武神様の処遇について議論するんだけど、どうしたもんかなぁ。
「ウィン殿、一つお聞きしたいのじゃが、そもそも武神様の申し出を我々が話し合いで却下したとして、武神様に退去して頂くことは可能なんじゃろうか?」
ジャコモさんが腕を組んだ状態で目を細めながら僕に尋ねてきた。
そうですよね。
そこなんですよね。
神様を無理やり追い出すとか、方法が分かりませんよね。
でも不可能ではないと思います。
こちらには最終兵器がありますので。
「ウィン様、武神様を無碍に扱うと罰が当たったりしませんか。あるいは他の神様の不興を買ったりとか。」
シルフィさん、ごもっともです。
そこは気になりますよね。
普通は神様って敬意をもって接するべき対象ですからね。
でも武神様本人が罰当たりな性格なので、たぶん大丈夫だと思われます。
あと、たぶん友人、いや友神はいないんじゃないかな。
ぼっち的な言動が散見されますし、ここに住みたがってるくらいだからね。
「ウィン、武神様を紹介しろ。加護とか祝福とか授けてもらえんだろ。高所恐怖症を克服する加護とかねぇかな。ついでにウィンを弱体化してくれるとありがてぇんだが。」
ネロさん、幹部会なんですから私利私欲の話はやめてください。
あと他人を貶める話もダメです。
真面目に議論に参加しないなら、この辺りで一番高い山の山頂に置き去りにしますよ。
「ウィン様、女神様なら何柱か伝手があります。いざとなれば最高神様のお耳に入れることも可能かと。」
最高神・・・・・やっぱりいらっしゃるんですね。
フェイスさんの裏人脈、凄そうですね。
たった今、敵に回しちゃいけない人ナンバーワンに決定しました。
でも今回はそこまでしなくてもいいです。
本当に困ったらまた相談します。
「ウィ〜ン、串焼き追加ちょうだい。」
「ウィンよ、リーたんに串焼きを持って参れ。」
「おじいちゃん、ダメだよ。命令じゃなくてお願いしなきゃ。」
「おお、リーたん、ごめんなさいじゃ。お願いされることはあっても、お願いすることには慣れておらんでのう。」
「これから気をつけてね。」
「了解じゃ。これからは気をつけるぞ。」
う〜ん、もうこれ、幹部会とか必要なくね。
武神様、どうせ居座るつもりだろうし。
飽きたらそのうち出ていくかもしれないし。
この『小屋』、部屋も共用部分もいくらでも増やしたり広げたりできるからどうにでもなるよね。
でも幹部会招集しちゃったから、一応みんなの了承を取っておくか。
そんなことを考えていると、
バーンと『庭』に続く扉が勢いよく開いた。
「おい、戦闘爺さん、そこで何をしている? 元気になったならさっさと帰れ。ここは私とウィンの愛の巣だぞ。」
ついに最終兵器が現れた。
串焼きを食べながらリーたんを愛でていた武神様の背筋が伸びる。
でもルルさん、ここは僕の『小屋』でありウィンギルドの本部であって、『愛の巣』ではありません。
変な呼び方するの、やめて下さい。
「ルルちゃん、わしもここに住むことにしたんじゃよ。ウィンの了解も取っておるぞ。」
おい戦闘ジジィ・・・いや武神様、流れるように嘘をつくんじゃない。
そもそも神様が嘘をついていいのか。
この世界ではありなのか。
ありなんだろうな。
僕は溜息をついて、『最終兵器』と『嘘つき神様(武神様)』のやりとりを見守ることにした。
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