281.武神様、再び(初対面:リベル)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週2回(月・木)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(281)
【アマレパークス編・地下都市ララピス】
281.武神様、再び(初対面:リベル)
「どうした? かかってこんのか?」
いつの間にか闇ダンジョンの空中に怪しい人物が浮かんでいた。
両腕を組んで僕たちを見下ろしている。
黒いボディスーツに黒いマントを羽織り、目だけを隠す黒い仮面を着けた姿。
これって、変装してるつもりだろうか?
「わしの登場に度肝を抜かれて声も出んのか?」
僕とルルさんが言葉もなく見上げていると、その黒尽くめの人物は何を勘違いしたのか、僕たちを煽る言葉を投げ掛けてきた。
ルルさんは呆れているのか、口を開こうともしない。
仕方がないので僕が対応することにした。
「あのぉ、一応質問してもいいですか?」
「もちろんじゃ。何でも聞くが良い。」
「貴方様はどちら様ですか?」
「見ての通りじゃ。この闇ダンジョンを統べる神じゃよ。」
そう答えながらその人物は空中から地面へとゆっくり降りて来た。
なるほど、『闇ダンジョンの神様』という設定なんですね。
だから黒尽くめの衣装を着てるんですね。
でも個々のダンジョンに、神様っているんですか。
神様が統べる範囲って、そんなに狭くてもいいんですか。
どうせならすべてのダンジョンを統括する『ダンジョン神』って設定の方が説得力があった気がします。
「それで、闇ダンジョンの神様が僕たちにどのような御用でしょうか?」
「いや、じゃからわしが相手をしてやろうと言うておる。」
「いえいえいえ、神様と戦うなんてとんでもありません。」
「遠慮することはない。ど〜んとかかってくれば良い。」
「いえいえ、もう少し強い魔物を出して頂ければ、それで十分ですので。」
神様と戦うなんて面倒過ぎる。
特にこの神様に絡むのは極力避けたい。
だってこの神様、ちょっとフェイスさん(諜報ギルドのエース)と同じ匂いがするんだよね。
下手に相手にすると付き纏いそうな気がする。
「ここの魔物はダメじゃ。闇で戦うことに特化しておるでのう。暗視持ち相手じゃ話にならんわい。先ほどもルルちゃ・・・・・そこの女性が瞬殺しておったじゃろう。」
自称『闇ダンジョンの神様』が、自ら闇ダンジョンの弱点を公言してしまった。
そんなに情報統制が緩くていいのか。
まあこの世界に『暗視』持ちがどれくらいいるのか知らないけど。
それにそこの神様、今『ルルちゃん』って言いかけましたよね。
せっかく気づかないふりしてあげてるのに、どうして自爆しそうになってるんですか。
調子を合わせるのもそろそろ潮時かな。
このジジィ・・・じゃなくて神様、諦めそうにないしね。
そんなことを考えていると、
「戦闘爺さん、いい加減にしろ。呼び出してもないのに勝手に出てくるな。」
ルルさんが冷たく言い放った。
右手でシッシッと、追い払う仕草までつけて。
「ルルちゃん・・・なぜ正体が・・・わしの完璧な偽装を見抜くとは・・・さすがじゃ。」
『闇ダンジョンの神様』に変装しているつもりの武神様が驚愕の表情でつぶやいた。
組んでいた両腕を解いて、かなりのオーバーリアクションだ。
いや最初っからバレてますけど。
逆になぜそれで隠せてると思ったの?
いくら黒尽くめの衣装を着て仮面を着けても、声もしゃべり方もそのまんまじゃバレバレでしょう。
「武神様、こんな所で何してるんですか?」
「ウィンよ、お主もわしに気付いておったのか?」
「いや、まあ、何となく。」
「なんと! わしの偽装のどこが悪かったと言うんじゃ?」
どこと言われても返答に困るよね。
それにそれ、偽装じゃなくて変装、いや仮装ですよね。
武神様、暇なの?
「ウィンさん、もぐもぐ、この黒い人、もぐもぐ、誰ですか?」
リベルさんがいきなり話に割り込んできた。
僕が渡した5個目のパニーニを食べながら。
正直、リベルさんがいること、すっかり忘れてました。
そう言えばリベルさん、武神様とは初対面だったよね。
『格闘大会』の時は、1人だけ『小屋』に置き去りにされて寝てたからね。
「リベルさん、この方は武神様です。武の神様です。」
「ええっ、そうなんですか? もぐもぐ。ボク、神様って初めて見ました。もぐもぐ。」
リベルさん、神様の前でも通常運転なんですね。
まあ信仰心は人それぞれなので、必ず敬う必要もないですけど。
ただしつこいようですが、人と話す時は食べるの止めましょうね。
「武神様、こちらは『はらぺこ勇者』で『ダメダメ勇者』で『3歳児勇者』のリベルさんです。」
僕はリベルさんのことを改めて武神様に紹介した。
特別サービスで、称号(はらぺこ勇者以外は未承認)を3つ付けてあげた。
その方がリベルさんの本質を理解しやすいと思って。
武神様は僕の言葉を聞いて、解いていた両腕を組み直しリベルさんの方を見た。
「わしは武の神じゃ。よろしくな。ところで勇者リベルよ。お主にはわしの祝福も加護も付いとらんようじゃのう。」
「祝福? 加護? もぐもぐ。それ、何ですか?」
「勇者をやっておって、そんなことも知らんのか。」
「ボク、食べられるもの以外に興味がないので。もぐもぐ。」
リベルさん、自覚してたんですね。
だからどうだって話だけど、己のことを知るのは大事なことです。
でもそこから一歩進んで、自己改善にまで至ってくれるとありがたいんですが。
「わしの加護があれば、戦闘力が上がるぞ。」
「そうなんですか? もぐもぐ。でもボク、戦闘にはあんまり興味ないので。」
「妙なヤツじゃのう。勇者のくせに強さに興味がないとは。」
「戦うより、美味しいもの食べてるほうが幸せじゃないですか。もぐもぐ。」
「それはまあ、分からんでもないが。」
美味しいものより戦闘が好きな聖女様がここにいるけど、リベルさんの言ってることも理解できる。
人は美味しいものを食べてる時に一番素直な笑顔を見せる。
恋愛や仕事には打算や駆け引きが含まれるけど、美味しいという感情には裏がない。
まあ何事にも例外は存在するけど。
「しかしのう、お前たち、冒険者パーティーじゃろう? このままではリベルだけ仲間はずれじゃぞ。」
「えっ、どういうことですか?」
「ルルちゃんとウィンは持っとるぞ。わしの加護。」
「ええっ!」
リベルさんは驚きの声を上げると、手にしていた食べかけのパニーニをポトリと地面に落とした。
普段なら大騒ぎするところだけど、今はそれどころじゃないようだ。
「ウィンさん、どういうことですか? どうしてボクだけ仲間外れなんですか?」
「いや、別に、成り行きで。」
「成り行きで親友を仲間外れにするんですか? ウィンさんはそんな人だったんですか?」
いや、仲間外れとか、そんなことまるで考えてなかったんだけど。
あと、どさくさに紛れて『親友』とか言ってるけど、リベルさん、別に親友じゃないし。
それに、神様の加護はそんなに簡単にもらえるものじゃないよね。
「リベルさん、加護があるとかないとか、別にどうでもいいじゃないですか。」
「加護の問題じゃないです。仲間はずれが嫌なんです。」
まさかリベルさんが、『仲間』にこれほどこだわるとは・・・・・。
落としたパニーニに気付かないくらいだから、相当だよな。
これはどうしたもんかな。
そんなふうに解決策に頭を悩ませていると、
「勇者リベルよ、よくぞ申した。わしの加護を授けてやろう。」
いきなり武神様が大声でそう叫んだ。
『よくぞ申した』?・・・どの部分が?
『加護を授ける』?・・・簡単過ぎじゃない?
武神様の思考回路も、ほんと良く分からないな。
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