279.あの食材が出現しました(ギザギザ:植物系ヨモギ型)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週2回(月・木)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(279)
【アマレパークス編・地下都市ララピス】
279.あの食材が出現しました(ギザギザ:植物系ヨモギ型)
…うぃん殿、くえすとが達成されたので表示するでござる…
○暗視クエスト
クエスト : 闇の中で抱きしめて
報酬 : 暗視
達成目標 : 暗闇の中で異性を抱き締める(10回)
カウント : 10/10
受注者 : ウィン・ルル
なんとか再起不能に陥ることなく『暗視クエスト』をクリアすることができた。
心身ともにボロボロになったけど、そこは『ヒール』で立て直した。
もちろんルルさんはまったくの無傷でピンピンしてるけどね。
途中で様々な映像が頭の中を流れたけど、あれは一体何だったんだろう。
教会の一室で、長机に並んで食事をする子供たち。
金属製の的に向けていくつもの魔法を打ち込む訓練。
僕の周りに集まった人々が膝を折って一心に祈る姿。
凶悪な魔物の群れの中で互いの背中を預けて戦う仲間たち。
うっすらと酷薄な微笑を浮かべながら宙に浮く魔族。
そしてその指先から放たれる世の理を捻じ曲げる魔法。
もしかすると未だ思い出せない昔の記憶が、無意識の内に走馬灯のように流れたのかもしれない。
うん、もしそうだとすると僕は死に直面してたってことだよね。
『ルルハグ』の威力、恐るべし。
一方、『暗視』の方は文字通り視界良好だ。
真っ暗闇のはずなのに、まるで昼間のようにすべてが見える。
僕はゆっくりと『闇ダンジョン』の中を見回してみた。
岩山をくり抜いたような大きな空洞。
壁面はゴツゴツした岩で覆われている。
足場も平坦ではなく、視界を奪われた状態ではまっすぐ進むことも困難だろう。
見える範囲に横穴はないが、岩の死角になっている部分もあるので、絶対にないとは言い切れない。
「ウィン、あの葉っぱたちは魔物か?」
ルルさんが前方に視線を固定したままでそう訊いてきた。
その方向を確認すると、確かに葉っぱの塊がのそりのそりと近付いて来ている。
僕は即座に魔物鑑定をかけることにした。
【鑑定結果】
○アルテ・ハーブ(arte herb) ☆
系統 : 植物系ヨモギ型
通称 : 『ギザギザ』
体型 : 小型
体色 : 緑色(死後→カラフル)
食性 : 草食・果実食
生息地: 森林・草原
特徴 : 夜行性
農作物(野菜・果物)を食い荒らす。
鋭い歯で噛みつく。
自分の存在を隠蔽する。
可食(栄養豊富)
特技 : 暗視・隠蔽・噛みつき
その魔物は魔物料理のサラダに出てきた『ギザギザ』だった。
食材として使われていたカラフルな葉で、すでに鑑定済みだ。
しかし、表示された項目をよく見てみると、前回の鑑定結果と異なる点が一つだけあった。
特技にあった『擬態』がなくなり、新たに『隠蔽』が追加されている。
このダンジョンでは討伐者の視界が奪われている前提なので『擬態』は必要ないのだろう。
代わりに『隠蔽』があるのは、感知系のスキルから逃れるためじゃないかな。
僕は試しに『魔力感知』を発動してみた。
魔物である以上、普通はなんらかの魔力を体から発している。
しかし予想通り、『闇ダンジョン』のギザギザからは、魔力を感じ取ることができなかった。
「ルルさん、ギザギザです。10体ほどいますね。」
「了解した。参る。」
僕が鑑定結果を伝えると、ルルさんは自分の言葉を言い終わらないうちに、一番手前のギザギザに向かって走り出した。
パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン。
うわぁ、さすが『瞬殺の天使』。
ギザギザ10体を倒すのに10秒かかってない。
ていうかギザギザ超弱過ぎ。
一瞬で光の粒になって消滅しちゃった。
ダンジョンの魔物だから多少強化されてるのかと思ったけど、ルルさんの速さと剛腕の前に為す術なしって感じだったな。
むしろいきなりルルさんが突っ込んで来たので、ビックリして動きが止まったように見えた。
まあ、進化種でも特異種でもないし、暗闇のアドバンテージが無ければこんなものなんだろう。
「手応え0だ。つまらん。」
ルルさんが憮然とした顔をして立っている。
いや「手応え0」は倒されたギザギザが可哀想だよ。
まあコロロックの琥珀種や水晶種との戦いの後だと、呆気なさ過ぎて物足りないだろうけど。
ご不満でしょうけど次の魔物に期待するしかありませんね。
あっ、その前にドロップ品の確認をしておかないと。
自動で空間収納に入ってるはずだからね。
【ドロップ品】
ギザギザ 10体 ギザギザの葉(10枚)
【討伐クエスト報酬】
ギザギザ 10体 暗視薬(10個)
うーん、贅沢は言えないけど、正直このドロップ品・・・微妙だな。
僕たちは『暗視』があるから楽勝だったけど、普通の冒険者だったらかなり苦労するはず。
その成果としてのドロップ品がギザギザの葉一枚って・・・・・
外でノーマルのギザギザを討伐した方が余程実入りがいいよね。
でも討伐クエストの報酬は当たりかも。
『暗視薬』が10個手に入った。
これが僕の想像通りのものならきっと重宝すると思う。
「中の侍」さん、『暗視薬』の詳細は教えてもらえるのかな?
…うぃん殿、しばしお待ちを・・・・・申し訳ございませぬ、拙者からの説明は不可でござる。ただ、暗視薬は植物由来の薬でございます故、植物鑑定にて対応可能かと・・・・・…
そうなの?
『植物鑑定』ってそんなこともできるの?
でもこれ、植物由来というか植物系魔物由来だよね。
そこは大雑把に植物という括りでいいのか。
まあとりあえず鑑定してみよう。
【鑑定結果】
○暗視薬 : 服用すると一定時間『暗視』を発動する。
『植物鑑定』をかけてみると、ちゃんと鑑定結果が表示された。
そして予想通りの効能だった。
これで今回のダンジョン攻略はさらに楽になる。
「リベルさん、これ飲んで。念の為スラちゃんもね。」
僕は空間収納から手に入れたばかりの『暗視薬』を2つ出して、それぞれリベルさんとスラちゃんに渡した。
「ウィンさん、凄いです! 真っ暗で何も見えなかったのに全部見えるようになりました。これ、何ですか?」
「暗視のスキルが発動する薬だそうです。でも時間制限があるみたいなので見えなくなったら言ってください。」
「リン(主人)、リン(見える)。リン(でも)、リン(感知不可)。」
スラちゃんも視界を確保できたようだ。
しかし、感知系は使えないらしい。
スラちゃんの『生命力感知』も通用しないなんて、けっこう強力な『隠蔽』だな。
おそらくこのダンジョンの魔物はすべてこの『隠蔽』を持ってると思った方が良さそうだ。
「ウィン、もっと強い魔物を出してくれ。こんなに弱くてはウォーミングアップにもならん。」
ルルさんが不満を僕にぶつけてくる。
いやいやルルさん、そんなことを言われても魔物は僕が出す訳じゃないので。
文句があるならこのダンジョンを紹介したティティンさんか、このダンジョン自体に言って下さい。
もしかするとダンジョンの神様がいて、願いを叶えてくれるかもしれませんよ。
あっ、余計なこと考えちゃったかな。
この世界、神様が実在するんだった。
ダンジョンの神様っているのかな。
妙なことにならなきゃいいんだけど。
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