275.先祖返り系エルフの占術士(SIDE:サイン)
見つけて頂いてありがとうございます。
第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週2回(月・木)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(275)
【アマレパークス編・地下都市ララピス】
275.先祖返り系エルフの占術士(SIDE : サイン)
『森羅万象』がやって来る。
『常在戦場』と『天衣無縫』を従えて。
そして私の元へ、大きな水晶玉を運んでくれる。
皆様こんにちは。
先祖返り系エルフの占術士、サインです。
年齢は10歳。
でも本当は1010歳です。
500年の生を2度過ごして、現在は3度目の生なので。
あっ、勘違いしないで下さいね。
先祖返り系エルフがみんな生まれ変わる訳ではありません。
私がエルフの生を繰り返すのは、スキル『輪廻』を持っているからです。
私の職業は占術士です。
ですから当然『占術』を生業にしております。
様々な方々が私のもとを訪れ、ご自分の未来について質問してきます。
私はその方々にその時見えたものをお伝えします。
私のその行為を、『占い』と呼ぶ人もいれば『予言』と呼ぶ人もいます。
でも本来のスキル名は『預言』です。
おそらく私の役割は、世界から言葉を預かることなのでしょう。
私の『預言』には特定の型はありません。
不意に映像が流れることもあれば、言葉だけが頭の中に思い浮かぶこともあります。
音だけが聞こえることもあれば、匂いだけを感じることもあります。
見ようとして見える時もあれば、どんなに頑張っても何も見えないこともあります。
いつ何を見せるかは、すべてこの世界の判断なのでしょう。
その判断基準は、私にはまったく分かりませんが。
その日は朝から好物のアップルパイを作っていました。
まず鍋に砂糖を入れて飴色になるまで火を通します。
次に心もち厚めにスライスしたリンゴを入れて絡めます。
私は、アップルパイに使うリンゴは厚めのほうが好きなんです。
さらにバターとバニラビーンズを加えて煮込んでいくと、とてもいい香りが漂い始めます。
シナモンは苦手なので使いません。
程よく水気が飛んだところで鍋を火から降ろし、私はパイ生地の準備に取り掛かりました。
そしてパイ用の丸い器に生地を薄く均等に敷き詰め、余計な部分を切り落とそうとしている時に、その『預言』が降りて参りました。
何の前触れもなく、唐突に。
* * * * *
私の家の真っ白な扉の前に1人の男性が立っています。
職業は『放浪者』。
今世の名前は『ウィン』。
天名は『森羅万象』。
私は3度目の生を生きていますが、この男性は3つ目の異なる世界を生きているようです。
『放浪者』とは、世界を超えて彷徨う魂に付けられる職業名なのかもしれません。
この男性、ウィン様は私に水晶玉を届けてくれるようです。
しかも最近では滅多に手に入らない大玉。
私も今世ではまだお目にかかったことがありません。
これはつまり、ウィン様がコロロックの水晶種の変異体を討伐することを意味します。
そしてさらに、特殊なドロップ品を引き当てる能力も併せ持つ方だということです。
私はウィン様にとても強い興味を覚えました。
『預言』の中に見えたのはウィン様だけではありませんでした。
あとお二方、登場人物がいらっしゃいました。
ウィン様の後ろに見える女性は、『孤高の聖女』『鋼の拳闘士』と称されるルル様。
引きこもりがちな私でも、さすがにこの聖女様のことは存じ上げております。
この大陸では超の付く有名人ですから。
なぜルル様がウィン様と行動を共にしておられるのかは、私には分かりません。
『孤高の聖女』の称号は、ルル様が他の誰とも組もうとしないからだと伺っておりましたが。
まあこの世のすべては時と共に移ろいます。
聖女様にも何らかの心境の変化があったのでしょう。
ルル様の天名は『常在戦場』。
ある意味これほど聖女に似合わない天名もありません。
しかし白龍革の装備に身を包み、ミスリルのガントレットを携えたルル様の姿を一目見れば、誰もが納得することでしょう。
ルル様の隣に見える男性は『光の勇者』リベル様。
この方も有名な方ですね。
ルル様とは有名の方向性がちょっと違いますが(笑)。
どうやら私のアップルパイの香りに興味津々のご様子。
当日は是非とも振る舞わせて頂きたいと思います。
リベル様の天名は『天衣無縫』。
邪心なく、思うがままに行動される自由人。
振り回される周囲は大変でしょうが、それを受け止める器が見つかれば、遺憾無く力を発揮されることでしょう。
でも天名の後ろに浮かんでいる(サンサイジ)という文字はどういう意味なんでしょうか。
天名に別の名が付随するのは初めて見ました。
相変わらず私の『預言』は、曖昧な部分が多いですね。
* * * * *
商人ギルドのギルド長、ティティン様から連絡があり、いよいよ3人の天名持ちが訪れる日になりました。
私は朝からアップルパイを焼き、紅茶を準備してその時を待ちます。
『預言』で見えたのは、扉の前に立つ場面まで。
その後の展開は私にも予想がつきません。
「ようこそ、お待ちしておりました。」
私が扉を開けると、そこには優しげな男性が私を見下ろすように立っていました。
今世ではまだ10歳の私はとても背が低いのです。
ウィン様は少し驚かれたような表情をされていました。
どうやら私は、ウィン様がノックする前に扉を開いてしまったようです。
ウィン様の背後には凛とした佇まいの聖女様。
そしてその隣で鼻をヒクヒクさせている勇者様。
私は早速皆さんを家の中へと招き入れました。
勇者様はアップルパイの香りがする方へ、ひとりで走って行かれましたが。
席に着いてお話をしてみると、ウィン様はとても穏やかな方でした。
そして天名持ちお三方のやり取りは・・・・・失礼かもしれませんがとても緩いものでした。
これは私にとってかなり予想外の展開です。
天名とはこの世界が個人に付けた隠された名前。
人物鑑定でも表示されることはありません。
そして天名を持つ者は、例外なく波乱万丈の運命の下にあります。
ですからこのお三方が集まれば、そこには何か激しいもの、強烈なもの、圧倒されるようなものが存在すると思っていたのです。
でも実際には・・・・・
お三方を包む空気は、緩やかでふんわりとして、とても柔らかな感触がいたしました。
天名の下、たとえ様々な困難が降り掛かろうとも、軽やかに楽しげにあっさりと越えて行かれるような、そんな未来の光景が見えた気がしたのです。
もちろんこれは『預言』ではありません。
私の直感のようなものでしょうか。
アップルパイを巡るウィン様とリベル様のやり取りには思わず笑ってしまいましたし、ルル様の結婚式のような『預言』をそのまま告げてしまった時には焦りもしました。
さらに最後に私の家の前で行われたウィン様とルル様の殴り合いには・・・度肝を抜かれました。
こんなに感情が揺れ動いたのは久しぶりです。
正直な心情を吐露させて頂きますと、お三方の在り方がとても羨ましくなりました。
何かを羨ましく思うのは、私にとって、1000と10年の月日の中で初めての経験です。
いつの日か、彼らと私が共に冒険に挑む、そんな『預言』が降りて来ないものでしょうか。
そんなことを夢見ながら、これからも占術士としての役割に励みたいと思います。
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