272.「かわいい」の定義とはとは?(ケラケラ:昆虫系オケラ型)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週2回(月・木)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(272)
【アマレパークス編・地下都市ララピス】
272.「かわいい」の定義とは?(ケラケラ:昆虫系オケラ型)
「・・・・・というようなことがありました。」
「それはまあ・・・なんとも・・・」
午前中の『占いの館』での出来事を報告すると、ティティンさんが何とも言えない困惑の表情を浮かべた。
僕たちのパーティーは今、商人ギルド・ララピス支部のギルド長室にいる。
サイン様への直接納品の事後処理のためだ。
納品依頼を商人ギルドから受けた形だったので、依頼達成の手続きが必要だった。
「しかしウィン君、聖女様に殴られた割には痣も傷も見当たらないな。聖女様の拳をまともに受けたら五体満足ではいられないと思うが。もしかして逃げ回ったのか。」
ティティンさん、「そこは素直に殴られておくところだろう」的な視線で僕を見るのはやめてもらえませんか。
そりゃあ多少は避けますよ。
まともに食らったら即死案件ですから。
でも少しはいいのもらっちゃいましたけどね。
こうして無事でいられるのは『ヒール』のおかげです。
「それにしても聖女様がそんな反応を・・・・・。聖女様はその辺はとてもクールだと伺っていたんだがな。」
いや、そこなんですけどね。
ルルさんの場合、何がどこまで本気なのかよく分からないんですよ。
婚約とか結婚とか言ってますけど、本来の意味で言ってるのか、ただ一緒にいればいっぱい戦えるからってだけなのか。
今朝のことも、僕と殴り合いがしたかっただけって感じもするし。
でもそんなこと誰にも言えませんよね。
また「悪い男」、いや「ひどい男」判定されちゃいますので。
「ウィンさん、ここにも『ご馳走』がありません。早く次の場所に行きましょう。」
ティティンさんと会話をしていると、リベルさんが横から割り込んできた。
そうだ、頭の痛い問題がもう一つあった。
リベルさん、『占術』の結果を聞いて以来、ずっとこの調子なんだよな。
いくら説明しても、「まだかな、まだかな」って感じで挙動不審状態が続いている。
「勇者様、サイン様の『占術』はいつ起きる出来事か判断できません。ですからその言葉にとらわれ過ぎてはいけないのです。サイン様からお話があったと思いますが。」
ティティンさんが落ち着きのないリベルさんに丁寧に説明してくれた。
そういえばティティンさん、僕とルカさん以外には口調がフォーマルなんだよな。
僕とルカさんに対してはカジュアルなのに。
「でも、うかうかしてたら『ご馳走』、逃しちゃうかもしれないじゃないですか。」
「勇者様、未来の『ご馳走』に気を取られていたら、目の前の『ご馳走』を逃すかもしれませんよ。」
「えっ!?」
ティティンさんの言葉を聞いてリベルさんの動きが止まった。
今までどんな説明をしても聞く耳を持たなかったリベルさんが目を見開いて固まっている。
なるほど。
そういう言い方もあるんですね。
さすが凄腕商人のティティンさん。
大事なのは相手の心に響くように説得の仕方を工夫すること。
とても勉強になります。
「ですから勇者様、慌てず騒がず、目の前に現れる食事をひとつひとつ楽しむことが大事なのです。人との出会いと同じで、食事も毎日が一期一会なのですから。」
「ティティンさん、いやティティン様。ボク、目から鱗が落ちました。これから師匠と呼んでいいですか?」
「いえいえ、私はしがない商人ですから、勇者様から師匠などと呼ばれると恐縮してしまいます。ティティンと気軽に呼んで下さい。」
「ティティン師匠、これからもよろしくお願いします。」
あっ、リベルさん涙流しちゃってるよ。
ここってそこまで感動するところ?
まあ、静かになってくれるならそれでいいけど。
それにしても、これって慈愛に満ちた母親が3歳児をあやしてる絵にしか見えないな
ティティンさんって、フォーマルな話し方になると途端に女性っぽくなるしね。
でもひとつ気になることが・・・・・
ディー君が『師匠』でティティンさんも『師匠』。
なのになぜ僕だけ『食料庫』なんだ。
解せぬ。
「ということで、ウィンさん、串焼き下さい。未来の『ご馳走』より目の前の串焼きです。食べたことがない串焼きがいいなぁ。一期一会的な感じで。」
僕はリベルさんの言葉を完全に無視して、話を次に進めることにした。
というか、リベルさん、しばらく食事抜きでいいと思う。
「ティティンさん、昨日の夕食の時に話に出たケラケラとモルモルを見てみたいんですけど、どこに行けばいいですか?」
「そうだな、採掘場に行けば両方見れると思うが、とりあえずケラケラだけ見てみるか? ちょうど建築中の建物が近くにある。ウィン君、建物の素材にも興味があるみたいだしな。」
「是非お願いします。」
あっという間に話がまとまり僕とティティンさんは席を立った。
ルルさんも何も言わずに立ち上がる。
リベルさんだけ座ったままで、「ウィンさ〜ん、串焼き〜。」と駄々を捏ねてるけど、完全無視。
『食料庫ウィン』は現在休業中です。
商人ギルドを出て数分歩くと、建築現場が見えてきた。
小さい家でも建ててるのかなと勝手に思ってたけど、現場の敷地はかなり広く、たくさんの人が動き回っている。
そして所々に石の山があり、その脇に巨大な生物たちが・・・・・
ティティンさん、確かケラケラの大きい個体は『人より大きい』って言ってましたよね。
その表現はけして間違ってはいませんけど・・・・・
でもこれ、『人より』って言うより、『熊より』大きいんじゃないですか。
それもツキノワグマとかじゃなく、ヒグマやホッキョクグマより大きいと思います。
「ウィン君、どうだい? ケラケラ、かわいいだろう?」
「えっ?」
僕はティティンさんの言葉を聞いて、一瞬思考が停止した。
かわいい?
ティティンさん、今『かわいい』って言いました?
もしかして山エルフが使う『かわいい』は、僕が使う『かわいい』と意味が違うんですか。
100歩譲って、小さい昆虫のオケラなら人によっては『かわいい』と思う人がいるかもしれません。
でも見た目はオケラそのもので、こんなに巨大化してる生物に、『かわいい』という形容詞はちょっと無理があるんじゃないですか。
そんなふうに心の中で、『かわいい』の不適切な使用について抗議していると、
「本当にかわいいな。」
えっ?
ルルさん?
ルルさんまで?
やっぱり僕が思っている『かわいい』と違う言葉なんだろうか。
それともこの世界の人たちの感覚と僕の感覚が大きくずれているんだろうか。
「全然かわいくないです。ボクはこのタイプ、全然ダメです。」
後ろで興味なさそうに立っていたリベルさんが会話に参加してきた。
リベルさん、たまにはいい事言うじゃないですか。
リベルさんと感性が同じなのはかなり不本意だけど、「ケラケラはかわいくない」と感じているのが僕だけじゃなくてちょっとホッとしました。
「だって、ケラケラ、美味しくないから。」
えっ?
美味しくないから?
リベルさん、それが理由なの?
ていうか、これ食べるの?
リベルさん、食べたことあるの?
僕はリベルさんが付け足した理由に衝撃を受けた。
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