267.すべて魔物料理のようです(郷土料理:ララピス)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週2回(月・木)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(267)
【アマレパークス編・地下都市ララピス】
267.すべて魔物料理のようです(郷土料理:ララピス)
「ウィン殿は、伝説の商人になる運命を背負っておるということじゃ。」
ジャコモさんは拳を握り締めて力強くそう発言した。
「・・・・・。さあ皆さん、せっかくのご馳走、どんどん食べちゃいましょう。」
僕はジャコモさんの発言を完全に無視して、『ギザギザの葉っぱサラダ』を口に運んだ。
あっ、この葉っぱ、甘みがあって美味しい。
これ、ドレッシングの味じゃなくて、素材自体の味だよね。
鑑定結果に『ヨモギ型』って表示されてたから、もっとクセのある味を想像してた。
「ウィンさん、この煮込みのお肉も美味しいですよ。ホロホロでトロトロでジュワってなります。」
リベルさんが擬音だらけの説明でビーフシチューに似た料理をお勧めしてくる。
僕はその料理を小皿に取り、木の匙を使って一口食べてみた。
「リベルさん、これ、本当に美味しいですね。濃いソースに負けないくらいお肉自体にも深い味わいがあります。」
「そうでしょう。ボク、これ一皿でパンを10個くらい食べられます。」
うんうんリベルさん、言いたいことはよく分かりますよ。
でも本当にパン10個はやめておきましょうね。
他の料理もたくさんあるんで、配分を考えましょうね。
「ティティンさん、これ、何のお肉ですか?」
「・・・・・それは、『ボアボア』の煮込みだね。イノシシ型の魔物だよ。焼くだけでは少し臭みが出るので煮込み料理に使われることが多い・・・・・って、ウィン君、君たち、スルー能力が半端ないね。ジャコモ殿、拳を握り締めたまま固まってるんだけど。」
「ああ、大丈夫だと思います。ジャコモさんも慣れてるんで。それよりどんどん食べましょう。」
そう言いながらルルさんを見ると、大皿から順番に料理を取り分け、黙々と食べている。
もちろんルルさんも、ジャコモさんの『伝説の商人』発言に関しては完全スルーだ。
戦闘以外の話題にはまったく関心がないからね。
でもルルさん、体形の割によく食べるんだよね。
戦闘メインだから体力維持に必要なんだろうけど。
あと、食べ方が几帳面で綺麗。
ルルさん、貴族じゃなくて平民出身らしいけど、食事作法がきちんとしてるのって、聖女教育とかで習ったのかな?
「ウィン、私は効率的に食べてるだけだ。ダメ勇者のように無駄な食べ方はしない。」
うん、ルルさん、安定の読心術。
僕限定だけど。
これはもう『念話』だと思っておこう。
「ルル、うるさい。ボクは食事を楽しんでるだけだ。戦闘バカには料理の奥深さなんて分からないだろうけどね。」
ルルさんの言葉にリベルさんが反撃する。
「なるほどな。ではリベルは自分が何を食べているか理解しているのだな?」
「当然だよ。これは・・・『ボアボア』の煮込みだ。」
ルルさんの挑発に対して、リベルさんはティティンさんから聞いたばかりの答えを、さも以前から知っていたかのように返した。
「正確には、『ボアボア』の背骨横の肉を半日以上煮込んだものだ。ソースには『ボアボア』の背骨から抽出したスープに各種の野菜を溶かし込み、ワインと香辛料で整えてある。隠し味の甘みはおそらくギザギザの葉だろう。」
「・・・・・」
さすがのリベルさんも、ルルさんの流れるような料理の説明に言葉を失った。
そしてそれは僕も同じ。
ルルさんが料理についてこんなふうに語れるなんて。
戦闘系聖女にこんな一面があったなんて。
「ふん、たまたまこの料理を知ってただけじゃないか。じゃああの料理は?」
リベルさんが気を持ち直して別の大皿を指差しながらそう言った。
そこには骨付きの鶏もも肉を焼いたような料理が盛られている。
「それは、鳥系の魔物『キジキジ』のコンフィだな。『キジキジ』の肉は火が通りにくいので、低温の油でじっくり煮たものだ。仕上げに蜂蜜を薄めたものを表面に塗って、甘さと照りを出している。」
「じゃ、じゃああれは?」
「陸亀系魔物の『ガラガラ』のスープだ。海亀系魔物のスープが有名だが、陸亀系は珍しい。肉を一度炒めた後、水と火酒で煮込んで塩と柑橘系の果物で飲みやすくしてある。」
ルルさんの説明が続く。
「ついでにあのステーキは、鹿系魔物『ディアディア』のモモ肉だな。あの部分が一番味が濃くて柔らかい。ソースは香りからしてベリー系か。」
「この流れから判断すると、そのパイ包みはウサギ系魔物の『ラビラビ』だな。野菜や果物と一緒にソテーしたものが中に入ってるはずだ。」
ルルさん凄すぎる。
リベルさんなんて、顔を青くして黙っちゃったし。
でも僕は気付いてしまった。
この驚愕の展開のカラクリに。
「ルルさん、ビーフシチューの作り方って知ってます?」
「知らん。」
「七面鳥の丸焼きは?」
「知らん。」
「ポタージュスープは?」
「何だそれは?」
やっぱり。
ルルさんが詳しいのは魔物料理だけだ。
普通の料理のことはまるっきり関心がないんですね。
それでも凄いことには変わりはないですけど。
「ウィン君、聖女様はなぜこんなにララピスの郷土料理に詳しいんだ? 私の出る幕がないな。」
ティティンさんが呆気に取られた顔でそう呟いた。
そうですよね。
料理の説明は、普通ならホストであるティティンさんの役割ですもんね。
でもこれ、全部ララピスの郷土料理なんですね。
全部魔物料理ですけど。
「ティティンさん、ララピスの人たちって、魔物料理ばかり食べるんですか?」
「いやそんなことはない。普通に何でも食べるよ。」
「でもこの郷土料理、全部魔物ですよね。」
「ああそれはね、元々この辺りは魔物が多くてね。その分普通の動物が少なかったんだ。だから街ができた当初、仕方なく魔物を狩って食べてたんだよ。」
「ああそれで魔物料理が郷土料理になったんですね。」
そんなふうに僕とティティンさんがララピスの郷土料理について話をしていると、
「このスープは滋養が溢れておりますのう。寿命が万年単位で伸びそうじゃ。」
いつの間にかジャコモさんが復活して陸亀系魔物『ガラガラ』のスープを飲んでいた。
この世界にも「鶴は千年、亀は万年」って言い回しがあるのかな。
確か長寿を祝う言葉だよね。
それにしてもジャコモさん、「万年単位」はないでしょう。
いったい何歳まで生きるつもりなんですか。
やっぱりジャコモさん、妖怪か何かですか。
その後、僕たちは何事もなかったかのようにララピスの郷土料理を堪能した。
もちろん、「メニューの料理、全部ください。」というリベルさんの発言は、全員で黙殺した。
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