266.植物を食べる植物がいるそうです(魔物の葉のサラダ:ギザギザ)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週2回(月・木)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(266)
【アマレパークス編・地下都市ララピス】
266.植物を食べる植物がいるそうです(魔物の葉のサラダ:ギザギザ)
『土竜亭』のテーブルの上には様々な料理が並べられていた。
それぞれ大皿で供されているので基本的に取り分けるスタイルのようだ。
小皿や木製のトングのようなものも用意されている。
「面白い色のサラダですね。」
僕は色とりどりの葉物の上に細かく砕かれた木の実がかけられた料理を見てそう感想を述べた。
葉の形は同じに見えるけど、赤、黄、オレンジ、紫、ピンク、緑と様々な色をしている。
「これはララピス名物のサラダで、植物系の魔物『ギザギザ』の葉を使ったものだな。」
すぐにティティンさんが料理の説明をしてくれた。
「えっ、これって魔物の葉っぱなんですか?」
「そうだよ、ウィン君。」
「でもその魔物、葉っぱがこんな色だと目立つでしょうね。」
「それが不思議なことに、『ギザギザ』の葉は本体が生きているうちは緑色なんだ。死ぬとそれぞれの葉がいろんな色に変化する。そして色によって含まれる栄養が異なるんだ。変わってるだろう?」
それは凄い。
見た目がカラフルなだけじゃなく、栄養のバランスもいいなんて。
メチャクチャ重宝する野菜、いや植物系魔物じゃないですか。
「ティティンさん、『ギザギザ』って通称ですか?」
「その通りだよ。葉の形がギザギザだからね。正式名称は『アルテ・ハーブ』というんだが、ほとんどの者は通称で呼んでる。」
そりゃそうでしょうね。
『ギザギザ』の方が分かりやすいですから。
それにしてもティティンさん、さすがですね。
ちゃんと魔物の正式名称も覚えてるなんて。
うちの聖女様や勇者様だと、正式名称どころか通称も怪しいですから。
「『ギザギザ』は強いんですか?」
「いいや強くはない。星1つの魔物で割と簡単に倒せる。ただ放置しておくと農作物を食い荒らすので、討伐してサラダにするのが一番いいんだ。」
ティティンさんは少し笑いながらそう言った。
『ギザギザ』って、農作物を食い荒らすのか?
植物系魔物なのに植物を食べるってこと?
つまり草食植物?
それって共食いにならないのかな。
まあ同種を食べなきゃ関係ないか。
肉食動物は動物を食べる動物だし、植物を食べる植物がいてもおかしくないのかもしれない。
そんな植物、僕の知識の中にはないけどね。
コンちゃんみたいな食虫植物とか、他の植物に寄生する植物なら知ってるけど。
大皿に載せられたカラフルな葉っぱを見ながら、そんなことを考えていると、ふとある疑問が頭に浮かんだ。
『魔物鑑定』は、魔物の一部に対してでも有効なんだろうか?
それとも生きている個体じゃないとダメなんだろうか?
まあ試してみればいいよね。
鑑定。
僕は大皿の上の『ギザギザ』の葉に『魔物鑑定』をかけてみた。
【鑑定結果】
○アルテ・ハーブ(arte herb) ☆
系統 : 植物系ヨモギ型
通称 : 『ギザギザ』
体型 : 小型
体色 : 緑色(死後→カラフル)
食性 : 草食・果実食
生息地: 森林・草原
特徴 : 夜行性(昼間は植物に擬態)
農作物(野菜・果物)を食い荒らす。
鋭い歯で噛みつく。
可食(栄養豊富)
特技 : 暗視・擬態・噛みつき
できちゃったね。
自分でやったことだけど、なんかちょっとビックリ。
これって、角とか牙とか骨とか皮とか魔物の一部さえあれば、本体に遭遇しなくても魔物情報を得られるってことだよな。
冒険者ギルドや商人ギルド、武器屋や防具屋に行けば、きっといろんな魔物の一部があるだろうし、情報集め放題じゃん。
『魔物鑑定』、優秀過ぎる。
僕が『魔物鑑定』の新しい使い方について模索していると、ジャコモさんが僕の態度に敏感に反応してきた。
「ウィン殿、今、鑑定をかけたように見えたんじゃがのう。」
「えっ? はい、かけました。」
「なんと! ウィン殿、料理鑑定までお持ちなのか? それとも食材鑑定じゃろうか?」
『料理鑑定』?
『食材鑑定』?
ジャコモさん、そういうのはまだ持ってませんけど。
そう言えば『食材鑑定』はアリーチェさんが持ってたっけ。
まあ、料理に向かって鑑定をかけてたら、そういうふうに誤解されても仕方ないんだろうな。
「ジャコモさん、かけたのは魔物鑑定です。」
「魔物鑑定じゃと? ウィン殿、どいうことかのう?」
「『ギザギザ』の葉に魔物鑑定をかけてみただけですけど・・・・・」
そう答えると、珍しくジャコモさんが固まった。
「ウィン君、ちょっと待ってくれるかな。魔物鑑定は生きている魔物にしか効果がないはずだけど・・・。その葉っぱに鑑定をかけても意味がないんじゃないのか。」
固まったジャコモさんに代わって、ティティンさんがそう確認してきた。
やっぱり、そういう展開か。
普通の『魔物鑑定』は、魔物の一部には反応しないんだね。
生きている魔物だけ鑑定できると。
さてどうしようかな。
でもここは正直にカミングアウトするところだよな。
「ええっと、『ギザギザ』の鑑定結果出ましたけど。説明します?」
鑑定できたことを正直に告げると、今度はティティンさんが目を見開いたまま固まった。
6人中2人が動きを止めた中で、ルルさんとリベルさんは我関せずで『ギザギザ』の葉っぱサラダをもぐもぐしている。
2人はもうこういう展開に慣れちゃってるからね。
残りのルカさんは、しばらく目を閉じて指で額を揉んでいたけど、ひとつため息をついた後に口を開いた。
「おいジジィ、驚き過ぎだ。このちんまりの非常識にはもう慣れてるだろうが。それにティティン、これくらいで驚いてたらウィンギルドの会員なんて務まらないぞ。このちんまりは超異常なちんまりなんだからな。」
ルカさん、ちんまり、ちんまり言い過ぎです。
最近、「ウィン」って呼ぶことが多かったので安心してたのに、いざという時にはそれが出るんですね。
そりゃ『筋肉執事』のルカさん程逞しくはないですけど、これでも脱いだら凄いんですよ。
細マッチョくらいにはなってるはずです(希望的観測)。
「ルカ殿、仰る通りじゃ。ワシとしたことが失態じゃった。じゃがのう、ウィン殿は予想もせん方向から新たな情報をぶつけてくるんでのう。年寄りには堪えるんじゃよ。」
「ルカ君、申し訳ないが君の事前説明が足りてないんだ。君のウィン君に関する話を100%信じても、ここまでは想像できない。」
ルカさんの言葉でジャコモさんとティティンさんが再起動した。
でも2人ともそこまで驚くことだろうか。
特にジャコモさんは今まで散々僕に関する情報を集めている。
『魔物鑑定』がちょっと普通と違うくらいで言葉を失うというのは、何だか違和感がある。
「ウィン殿、ワシの驚き方が解せぬようじゃが、それには理由があるんじゃよ。おそらくティティン殿も同じじゃと思うが。」
「どんな理由でしょうか?」
「それはのう、我々が商人だからじゃ。商人としてウィン殿の鑑定能力に衝撃を受けたんじゃ。」
商人として衝撃?
鑑定と言っても魔物の鑑定なのになぜ?
これが『人物鑑定』とか『武具鑑定』とか『宝石鑑定』とかならまだ理解できる。
でも『魔物鑑定』と商人に、いったい何の関係があるんだろう?
「ウィン殿、我々にとって魔物とは何じゃと思う?」
「さあ何でしょう? この世界の生態系の一部で・・・我々にとっては敵になるんでしょうか。」
「そうじゃな、ほとんどの魔物は我々にとって敵と言えるじゃろうのう。じゃがな、それと同時に魔物は資源でもあるんじゃよ。」
ジャコモさんは落ち着きを取り戻してそう言った。
なるほど、魔物は資源か。
それは理解できる。
ダンジョンではドロップ品もあるし、ダンジョン外で討伐された魔物の素材も色々と利用されてるだろうし。
でもそのことと『魔物鑑定』とどう繋がるんだろう。
「ウィン君、この世界のほとんどの商品には魔物の素材が使用されてるんだよ。食品から武器、防具、日用品、装飾品に至るまで。それらを目利きして価値を決め、取引するのが商人の仕事なんだ。」
今度はティティンさんがジャコモさんの説明を引き継いだ。
商人にとって魔物素材に関する目利きは、最重要能力ということだろう。
そこまで聞いて僕にもこの話の行き着く先が見えてきた。
「つまり、こういう事ですか? 僕が商品に魔物鑑定をかけると、そこに使われている魔物素材が何なのか、正確に分かると。」
「そうだね。本当に魔物素材が使われているかどうか。その魔物が何であるか。その魔物の星の数、普通個体なのか特異個体なのか。そういった詳細情報が正確に分かるだろうね。」
ティティンさんはそう言って、僕の目を強く見つめた。
それは確かに商人の皆さんにとっては無視できない能力ですよね。
地域によっては未知の魔物もたくさんいるだろうし、商品の一部となっている魔物素材を正しく評価する難しさは十分理解できます。
でもこれ、多分僕だけの特殊な事例なんで、気にする必要はないと思うんですけど。
「つまりじゃ、ウィン殿。結論を言わせてもらうと、」
そこでジャコモさんは一度言葉を切った。
そして一拍置いた後で、力強く宣言した。
「ウィン殿は、伝説の商人になる運命を背負っておるということじゃ。」
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