263.偽装や隠蔽も見破れるかもしれません(深化:人物鑑定)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週2回(月・木)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(263)
【アマレパークス編・地下都市ララピス】
263.偽装や隠蔽も見破れるかもしれません(深化:人物鑑定)
「試してみたいことがあるので、もう一度鑑定をかけてもいいですか?」
僕が正直にそう話すと、ティティンさんは快く引き受けてくれた。
軽く浮かべた笑顔も、少し斜めに頷く仕草も、とても優雅だ。
一瞬だけジャコモさんとルカさんに対してキレてたけど、もうすっかり元に戻っている。
「では行きます。鑑定。」
僕はわざと声に出してティティンさんに『人物鑑定』をかけた。
声に出さなくて『人物鑑定』は発動する。
でもそれだと周囲の人たちにはいつ何が起きたのか分からない。
戦闘中とか、敵対勢力が相手の時はそれでもいいけど、仲間内の場合は礼儀として声に出すようにしている。
「ウィン、どうだ?」
「ウィン殿、何か見えましたかのう?」
ルカさんとジャコモさんの『邪道』コンビがすぐに質問してきた。
個人的興味丸出しで、遣り手の商人らしさが少しも感じられない2人の態度を見て、ティティンさんが目を細めて呆れている。
ちなみに『商人としての心の持ち方』を守らなかったことについて、ジャコモさんとルカさんの言い訳はまったく同じものだった。
「ウィン殿は別枠なんじゃよ。人類の、いやこの世界の別枠じゃな。」
「ウィンは異次元だからな。この世界のルールは適用されない。」
まったく・・・全部僕のせいにするなら初めからティティンさんにそう説明すればいいのに。
でも精神力で自分の心の状態を一定に保てるなんて、凄い能力だけどね。
【鑑定結果】
☆ティティン
友好度 : 50
信頼度 : 50
「数値は、まだ最初と同じです。」
僕は鑑定結果を見ながら2人にそう答えた。
現時点ではティティンさんの『友好度』と『信頼度』は50&50のままだ。
商人として長年身についた習慣だけに、いきなり心を解放しろと言っても難しいのだろう。
そういう意味では、あっさりその枠を外せるジャコモさんとルカさんって・・・・・。
凄いのかダメダメなのか判断に迷う。
さて問題はここからだな。
さらに先に進めるかどうか。
僕はティティンさんの姿を視界に捉えながら、さらにその奥に入り込むイメージを強くしてみた。
最初は何か弾力性のある膜のようなものに押し返される感じがした。
でもさらに集中力を高めると、ある時点でフッと抵抗が消え徐々に奥へと進み始める。
そして僕の魔力が何かに触れたと感じた瞬間、視界に映った鑑定結果の表示が一旦消えて、新しい数字が浮かび上がった。
【鑑定結果(深化)】
☆ティティン
友好度 : 80
信頼度 : 80
「ジャコモさん、できました。数値が変わりました。」
「ウィン殿、流石じゃのう。どんな数値が出ましたかのう?」
「両方とも80です。」
「なるほどのう。なかなか高い数字じゃ。ティティンも本心ではウィン殿に興味津々ということじゃな。ウィン殿、これでティティン殿も入会ということで構わんかのう?」
僕がティティンさんの新しい数値を伝えると、すぐにジャコモさんがティティンさんの入会を確認してきた。
僕の懸念が消えた以上、そういうことになるんだろう。
まあ元々、ギルド入会に関して僕に拒否権があったのかどうかも不明なんだけどね。
それにしてもジャコモさん、ティティンさん入会までの流れ、なんとなく手際が良過ぎる気がするんですけど。
もしかして全部ジャコモさんの想定内?
どう見てもその笑顔はいつもの『ジャコモ・スマイル』だよね。
あの、裏がありそうなちょっと怪しいやつ。
「これで私もウィンギルドの一員ということだね。」
ジャコモさんの言葉に呼応するようにティティンさんがそう言った。
僕は反対する理由もないので頷きを返す。
すると、ティティンさんはさらに一言付け足してきた。
「これで、ウィンギルドのメンバーの中で最下位はルカということだ。」
「ティティン、それはどういう意味だ!」
「だって、私は80&80。君は両方75だろう。友好度も信頼度も最下位じゃないか。」
ふむ。
確かにその通りだ。
75は『友好度』でも『信頼度』でも単独最下位の数字だ。
つまり合計点でも最下位。
でも、別に比べるものじゃないと思うけど。
75だって十分高い数値だし。
「ウィン! 俺の鑑定、やり直してくれ!」
ルカさんがなぜか必死な形相でそう言ってきた。
ええ〜面倒だから嫌です。
だいたい、やり直したからって数値は変わらないでしょう。
あっ、もしかして自由に変更可能なの?
50&50に揃えられる商人なら、他の数値にもコントロールできるとか。
ティティンさんも、ルカさんより上に行くために80で揃えたの?
だとしたらこの鑑定、意味ないじゃん。
この世界の商人って、本当に怖い。
「ウィン殿、心配は無用じゃ。心の中はそれほど器用にはコントロールできん。せいぜい建前と本音くらいじゃよ。」
ジャコモさんが僕の気持ちを見透かしたようにフォローを入れてきた。
でもねジャコモさん。
その言葉をそのまま信用する程、僕はもう初心者じゃないんですよ。
特にジャコモさん、あなたレベルの商人に対してはね。
「フォッフォッフォッ、ウィン殿、いい目をするようになりましたのう。それこそまさに商人の目じゃ。半分信じ半分疑う。大商人への道を順調に歩まれておりますのう。」
ジャコモさんはそう言うと、至極満足げにニンマリと笑った。
ダメだ。
相手にすればするほど、ジャコモさんのペースに乗せられてる気がする。
他のことを考えよう。
そうだ、『人物鑑定(深化)』のことを検証しないと。
普通に鑑定をかけると、心の表面上の情報が表示される。
でもさらに『深化』を使うと、心の奥の情報まで読むことができる。
ということはもしかすると、これを使いこなせば強力な隠蔽や偽装も見破れるんじゃないだろうか。
今度フェイスさん(九尾狐族・諜報ギルドのエース)で試させてもらおう。
あっ、パサートさん(魔族・吟遊詩人)の隠蔽も破れるかな。
彼の隠蔽はかなり手強そうだけどね。
次に会うまでにパサートさんの『再生率』が上がってれば尚更ね。
「それではティティンさん、正式にウィンギルドのメンバーということで。ようこそ、悪魔と閻魔と鬼の巣窟へ。一部、まともな人も混じってますけど。」
「ありがとう、ウィン君。なかなか楽しめそうなギルドだね。」
「後悔しても知りませんよ。」
「後悔はしないよ。商人は自分の判断と手持ちの札で、どんな状況でも勝負するものさ。悪魔や閻魔や鬼とも駆け引きを楽しむのが本分だからね。」
左様でございますか。
『戦闘の鬼』とか『食欲の鬼』とか『ストーカーの鬼』とか『従魔の鬼』とかもいますけど、大丈夫ですか。
まあジャコモさんが『大鬼』ですけどね。
あっ『鬼』と言えば、アレの読み方をまだ教えてもらってなかった。
ティティンさんの称号、『旋風の槌鬼』の読み方。
ツチオニ?
ツチキ?
ツイオニ?
ツイキ?
そんなことを考えていると、なぜバレたのか、ティティンさんが怖い目で僕を睨んできた。
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