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246.普通の街ではないと思います(地下都市:ララピス))

見つけて頂いてありがとうございます。


第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)


主人公が世界樹のアマレパークスで様々な出来事に遭遇するお話です。

仲間として戦闘狂の聖女ルルに続いてエルフの元勇者リベルが加わります。


週3回(月・水・金)の投稿となります。

よろしくお願いします。


第三章 世界樹の国と元勇者(246)

【アマレパークス編・ララピス】



246.普通の街ではないと思います(地下都市:ララピス)



「ララピス、楽しみですね〜。ボク、初めてです。」


串焼きを10本ほど食べると、リベルさんはすぐに復活した。

調子に乗って新技を使い過ぎて、空腹メーターがマイナスに振り切れていたようだ。

リベルさん、スーパー・リベルに生まれ変わっても、燃費の悪さは克服できなかったんだね。


「リベル、戦闘の度に空腹で倒れるようじゃ、一緒には戦えんぞ。」

「ルル、うるさい。無限食料庫のウィンさんがいれば問題ない。」


無限食料庫?

リベルさん、その言い方は、ちょっと失礼じゃないかな。

そんなこと言うなら、これからは串焼きを詰め込んだリュックを自分で背負って運んでもらうよ。

あっ、ダメだ。

それだとリベルさん、逆に喜んじゃうな。

いつでも串焼き食べ放題って。


「失礼なことを言うな。ウィンはダメ勇者のための食料庫ではない。」


そうだよ。

ルルさん、もっとビシッと言ってやって。

リベルさん、ちょっと強くなったからって調子に乗ってるみたいだから。


「ウィンは、私の武器庫であり、私の資材庫であり、私の兵站庫であり、ついでに魔法の宝庫だ。」


・・・・・ルルさん、あなたも何気にリベルさんに輪をかけて失礼な思考をしてますね。

もうグレてもいいですか。


そんな風にやさぐれている間に、僕たちは大きな石の門の前に到着した。

ただ、門と言ってもその後ろに建物や道が見えているわけではなく、山肌にペタリと張り付いている感じだ。

おそらくこの扉の向こうに、ララピスの街、あるいはそこに続く通路があるのだろう。


「ルルさん、これ、どうやって開くんですか?」

「押せば開く。重そうに見えるが軽い。」


ルルさんにそう言われて僕は石造りの扉を軽く押してみた。

頑丈で重厚に見えた巨大な扉がいとも簡単に内側に開いていく。

材質のせいなのか、機械的な仕掛けがあるのか、あるいは魔法的な何かなのか。

理由は分からないけど、すんなりララピスの中に進めるのはありがたい。

しかし・・・


「ウィンさん、真っ暗で何も見えませんね。」


リベルさんが前を向いたままでポツリとそう言った。

僕とルルさんとリベルさんは横一列に並んで扉の中を覗き込んでいる。


確かに扉の向こうは真っ暗で何も見えない。

灯りのない洞窟なら暗くて当たり前だけど、扉のこちら側には太陽の光がある。

それなのにその光が差し込むこともなく、扉の向こう側は闇で切り取られた別の空間のように黒一色だ。


「ルルさん、これ、入っても大丈夫なんですか? いきなり下に落ちたりしません?」

「前回は大丈夫だった。」

「でも真っ暗ですよね。」

「中に入って手を叩けばいい。」


手を叩く?

どこかで聞いたことのあるフレーズだな。

何だっけ?

ああそうか、『小屋』の地下貯蔵庫の壁だ。

かん・・・・・かんおん・・・・・感音照石!


「ルルさん、もしかしてこの中に『感音照石』があるんですか?」

「カンオンショウセキ? 何だそれは?」

「えっ違うの?」

「あるのは『手を叩くと光る石』だが。」


うん、それはたぶん『感音照石』ですね。

ルルさん、その呼び方だともはや名前ではなく説明文ですよ。

いくら興味がないといっても、もうちょっと固有名詞、覚えましょうよ。


「じゃあ、行くぞ。」


ルルさんはそう言うと、いきなり暗闇の中へ足を踏み出した。

僕とリベルさんもそれに続く。

闇の中に入ると、不思議なことに入口の光は見えなくなり、まったく何も見えない状態になった。


パン。


すぐ近くで手の平を打ち合わせる音が大きく響いた。

おそらくルルさんだろう。

その音に反応して徐々に周囲が明るくなり始める。


光源は床も含め全体にあるようで、しばらくするとこの空間の全体像が見えるようになった。

それは、かなり大きな洞窟型の通路で、突き当たりには入口と同じような石の門が設置されている。


「凄いですね。洞窟全体が『感音照石』でできてるんですね。」

「ウィン、難しい言葉を使うのが好きなのか。」

「いや、そういうわけじゃ・・・・じゃあ間を取って『音で光る石』と呼ぶことにします。」

「まあ、呼び方は何でもいいがな。」


「ウィンさん、ルルは昔からものの呼び方が変なんですよ。」

「リベル、うるさい。変じゃなくて分かりやすく呼んでるだけだ。」

「ウィンさん、ボクが『光衣』を発動すれば体が光るので暗闇でも大丈夫ですよ。」

「ダメ勇者、それじゃあ燃費が悪すぎるだろう。」

「串焼きを食べ続ければ大丈夫。」

「だから燃費が悪いと言ってるんだ。」


そんなどうでもいい会話をしながら3人で突き当たりの門まで歩いて行く。

あの扉の向こうにはララピスの街があるんだろうか。

それともまだ洞窟の通路が続くんだろうか。


「ウィン、前回と同じならあの向こうに街がある。」

「そうなんですね。地下都市かぁ。楽しみだな。」

「まあ、普通の街だぞ。」

「いやいや、地下にあるだけで普通じゃないでしょう。」

「そういうものか。建物があり、人がいて、生活している。私にとっては普通だ。」


なるほど、そういう見方もあるのか。

ルルさんの物事の捉え方って、変わってるようで、でも実は本質を突いているようで、時々ドキッとする。

誰もが環境に適応しながら生きてるんだから、形は様々でも特別じゃないってことだろうな。


でも地下都市だからね。

なんて言うか、浪漫を掻き立てられるよね。



第二の石の門は、ルルさんが開いた。

両開きの扉を両手で押すと、入口の扉と同じようにすんなりと開く。

その隙間から見える光景が徐々に大きくなり、やがて地下都市ララピスの全貌が姿を現した。


「・・・・・ルルさん、これ、普通じゃないですよ。」


僕の目の前には想像をはるかに超えた巨大な空間が広がっていた。


左右の壁ははるかに遠く、天井は高層ビルでも入りそうなくらい高く、対面は肉眼ではよく見えない。

天井と壁の上部が強い光を発していて、太陽の下と同じくらいの明るさがある。

でも不思議と眩しくはない。


地上(地下空間の中の地上?)には石造りらしき建物が無数に並び、碁盤の目のように道が通っている。

そして、その道をたくさんの人々が行き交っていて、活気に溢れているのがここからでも分かる。


「普通の街だろう。」


僕の言葉にルルさんが素っ気なく返す。


「いや、確かに普通の街ですけど・・・地下にこれだけ大きな空間があって、そこに普通の街があること自体、普通じゃないじゃないですか。」


自分でしゃべってて、何を言ってるか分からなくなってきた。

ちょっと興奮してるかもしれない。


僕たちが入ってきた扉は少し高い位置に設置されているようで、丘の上から街並みを見下ろす感じになっていた。

そこから街並みに向かって、下りの坂道が伸びている。


初めてララピスを訪れた人は、ここからの光景に度肝を抜かれるだろうな。

まあその効果を狙って、わざとこういう造りにしてるんだろう。

ここを造ったのが『山エルフ』だとすれば、なかなか侮れない人たちに違いない。


「ルルさん、あの光ってるのは『音で光る石』ですか。」

「違うな。」

「違いますよね。音が無いのに光ってますもんね。」

「そうだな。あれは『温めると光る石』だ。」


温めると光る石?

そんなものもあるのか。

熱に反応するってことだよね。

おそらく正式名称は『感温照石』とかかな。

でもそれだと、『感音照石』と発音が一緒で紛らわしいか。

そう考えると、ルルさんの名前の付け方って、実は理にかなってたりするかも。


「ウィン、とりあえず街に入るぞ。」

「はい、行きましょう。」


ルルさんが歩き出したので、僕も一緒に坂道を下っていく。

しばらく歩いていると、リベルさんがいないことに気付いた。

後ろを振り返ると、リベルさんは街の方を見たまま立ち尽くしていた。

初めての地下都市の光景に圧倒されているのかもしれない。


ルルさんはリベルさんのことなど気にする様子もなくスタスタと歩いていく。

まあリベルさんもそのうち我に返って追いかけて来るだろう。

僕は、そう考えてそのままルルさんの後を追うことにした。


「ウィンさ〜ん、待ってくださ〜い。」


ようやく置いて行かれたことに気づいたのか、リベルさんが叫びながら坂道を走り降りて来た。

その必死な顔がちょっと面白くて、僕は冗談混じりで軽口を返した。


「早く来ないと、転移しちゃいますよ。」

「ダメです〜。一緒に行きます〜。ボクの大事な食料庫〜」


一度本気でリベルさんのこと、ぶっ飛ばしてもいいですか。

もちろん固く握りしめたグーパンで。




読んで頂いてありがとうございます。

徐々に読んで頂ける方が増え、励みになります。


誤字・脱字のご指摘、ありがとうございます。

ご感想を頂いた皆様、感謝いたします。

ブックマーク・評価を頂いた皆様、とても励みになります。

ありがとうございます。


次回投稿は4月1日(月)です。

よろしくお願いします。

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