239.すっかり忘れられてた人(『はらぺこ勇者』:リベル)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(239)
【格闘大会編】
239.すっかり忘れられてた人(『はらぺこ勇者』:リベル)
「さて、ディーくん。僕に何か言うことはないのかな?」
『小屋』の中のリビングでソファにゆったり座りながら、僕は冷たい視線をディーくんに向けた。
「あるじ〜、優勝おめでとう〜。それからルルちゃ〜ん、準優勝おめでとうね〜」
「ふん、2番などに意味はない。あるのは勝ち負けだけだ。ウィンを倒すためにさらに精進せねば。」
「ルルちゃん、そんなことないよ〜。十分あるじを追い詰めたと思うよ〜。あるじの場合、存在自体が反則だからね〜」
「戦いに反則も何もない。ただ強いか弱いかだ。弱いから負けたそれだけだ。」
「でもね〜、あるじ、これからどんどん反則のレベル上がるよ〜。相手するの大変だよ〜。まあルルちゃんも、もう反則の域に踏み込んでるけどね〜」
これこれディーくんや、あるじのことを無視してルルさんと話し込むのは従魔としてどうなのかな?
聞きたいのは「おめでとう〜」とかじゃなくて、ルルさんに買収されて僕を裏切ったことについてだけど。
「あるじ〜、小さいことには拘らない方がいいよ〜。」
従魔があるじを裏切るのって小さいことなのか?
しかも7人全員で。
そこのところをはっきりさせないと、今後の付き合い方に響くんだけど。
「あるじ〜、裏切ったわけじゃないよ〜。みんなで相談して、あるじとルルちゃんの痴話喧嘩には関わらないようにしようって決めただけだからね〜」
痴話喧嘩って・・・・・。
従魔たちにそんな相談されるあるじって・・・・・。
もうこの話をするのは止めよう。
なんかドッと疲れた。
「ウィン、そう言えば結局戦闘爺さんから『加護』はもらったのか?」
「はい、頂きました。めちゃくちゃ軽い感じで。」
結果的に僕は、武神様から『祝福』ではなく『加護』をもらうことになった。
武神様との最後のやりとりはこんな感じだった。
「ウィン、ほれ、これをやる。」
「何も見えませんが、何ですか?」
「わしの『加護』に決まっておる。」
「いや、別に・・・・・」
「ほい、これでおぬしの体にわしの『加護』が入った。」
「いや、だから別に・・・・・」
「ただし、2つ条件がある。」
「条件があるくらいなら返しますけど。」
「1つ目は、武を極めるために精進努力すること。」
「ちょっと、人の話を聞いてください。」
「そして2つ目は、こちらの方が重要じゃが・・・」
「だから人の話聞けって。」
「麗しい戦乙女に出会ったら、即座にわしを呼び出すこと。」
「『加護』に爆弾付けて投げ返していいかな。」
僕の経緯説明が終わると、ルルさんは真顔のままで僕に向かって口を開いた。
「ウィン、良かったな。」
「今の話のどこに良い部分があるんですか?」
「ウィンのパワーが底上げされた点に決まってるだろう。」
「いや、それ以外にいろいろ突っ込みどころがあるでしょう。」
「戦闘に関すること以外はどうでもいい。」
そうですよね。
ルルさん的にはそうなりますよね。
こういう所はブレないというか、真っ直ぐというか、清々しいというか。
そう思い直して僕は大きくひとつため息をついた。
「そう言えばルルさん、他に気になってたことがあるんですけど。」
「なんだ、ウィン?」
「あの後、格闘士ギルド長のコンゲムさん、まったく出てきませんでしたけど、どうなったんですか?」
「ああ、あの『腹黒狐ギルド長』か。」
コンゲムさんの呼び名が『狐ギルド長』から『腹黒狐ギルド長』に変化してる。
ルルさんの『名付け』って、そういう変更パターンもあるんですね。
「どうやら連合会からかなり締め上げられたみたいだぞ。」
「連合会?」
「ああ、格闘士ギルドの連合会だ。」
「まさか、ギルド長をクビになったとか?」
「いや、それは逃れたらしい。格闘大会自体は大成功だったからな。」
「じゃあなぜ締め上げられたんですか?」
「シルフィの件だな。」
「ああ、テイマーギルドを敵に回しちゃったんですね。」
コンゲムさん、僕に嫌がらせしようとして「従魔章による従魔証明は無効」って対応をしちゃったからね。
従魔章を出してるテイマーギルドにとっては権威を傷つけられたことになるよな。
「格闘士ギルドの連合会がテイマーギルドの連合会に平謝りする事態になったそうだ。」
「それは、まずいですよね。」
「まあ、腹黒狐ギルド長は、そのことはあんまり気にしてなかったみたいだけどな。」
「そのことは?」
「それよりも恐れるべきことがあったということだ。」
「何があったんですか?」
「もちろん、フェイスだ。」
ああ、そういうことか。
コンゲムさん、大会前もフェイスさんに針を首筋に突きつけられて脅されてたよね。
お互い昔からの知り合いみたいだし、コンゲムさん、フェイスさんに頭が上がらない感じだった。
フェイスさんのこと、『九尾様』って呼んでたし。
「フェイスが最後に通告したらしい。」
「何て言ったんですか?」
「今後ウィンに対して妙なことをしたら、」
「妙なことをしたら?」
「諜報ギルドの総力をもって、」
「総力をもって?」
「残りの人生をすべて地獄にしてやる。」
「うわぁ、こわっ。フェイスさん、こわっ。」
僕は話を聞いて鳥肌が立った。
これが諜報ギルドの脅迫の仕方なのか。
暗殺者ギルドだったら暗殺して終わりなんだろう。
もちろんそれも嫌だけど、生かされながら地獄を味わい続けるってのはもっと怖い気がする。
「フェイスさんって、怖い人なんですね。」
「何を当たり前のことを。諜報ギルドのエースだぞ。」
「でも暗殺者ギルドのエースの方が怖くないですか?」
「フェイスの腕は、暗殺者ギルドのエースよりも上だ。」
「そうなんですか?」
「仕事として暗殺を受けないだけだ。その気になれば、全く気付かれないうちに針の一刺しで終わりだ。」
あれだけの能力があればその通りだよな。
なんとなく『アクティヴ・ストーカー』のイメージが強いので、普段はすっかり忘れてるけど。
フェイスさんだけは、敵にまわしちゃいけない・・・
そんな背筋が寒くなるようなことを考えていると、『庭』に通じる扉がいきなり開いた。
「おはようございま〜す。なんかすっかりよく寝ちゃいました。珍しく従魔の皆さんがちょっかい出してこなかったので。」
薄青色の髪の毛に寝癖をつけたままの長身ダークエルフが、そんなことを言いながらリビングに入って来た。
ちなみに今は夕暮れ時である。
「え〜と、どちらさまでしたっけ?」
「えっ? ウィンさん、何言ってるんですか? 僕のこと忘れたんですか?」
「いや〜、そこはかとなく知ってる気はするんですが・・・どちらさまでしたっけ?」
「ウィンさん、ひどい。リベルですよ。元勇者でダークエルフの英雄、超絶イケメンで街中を歩けば女性たちが群がる、あのリベルです。」
どこのスーパーアイドルだ、それ。
リベルさん、自己肯定感、強すぎ。
リベルさんに対する受け答えは半分冗談だけど、実際今の今までリベルさんの存在を忘れてた。
だってこの人、丸二日間くらい寝てたんじゃないの。
格闘大会の間中、ずっといなかったからね。
従魔たちにしごかれ過ぎたのかもしれないけど。
「ああ、思い出しました。『はらぺこ勇者』の人ですね。」
「ウィンさん、そんな恥ずかしい呼び方はやめて下さい。でもお腹はペコペコです。串焼きください。」
まあ、二日間も寝てたらお腹空きますよね。
仕方がないので、串焼き、出してあげますか。
ルルさんも何か食べます。
えっ、魚貝定食がいい?
了解しました。
リベルさん、串焼き全部抱え込まないで下さい。
たぶん匂いを嗅ぎつけて海竜のリーたんもやって来ると思いますので。
ダイニングテーブルの上に従魔たちの食事もセットすると、賑やかな食事会が始まった。
こうして『小屋』の中に、日常が戻ってきた。
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