238.武神様は戦乙女がお好き??(格闘大会:閉幕)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(238)
【格闘大会編】
238.武神様は戦乙女がお好き?(格闘大会:閉幕)
「ルルさん、そこに正座。」
僕は厳しい口調でルルさんにそう命令した。
ルルさんは音が出ない口笛をフーフーしながら誤魔化そうとしてたけど、僕が引かないと分かってばつが悪そうな顔で渋々僕の前に正座した。
いや武神様、あなたは正座しなくていいんですよ。
なぜルルさんの隣に仲良く並んで正座してるんですか。
えっ、僕が怖い?
『威圧』が阿修羅神級?
阿修羅神って?
ああ、怒りを司る神様ですか。
まあ武神様も、若干反省ポイントがあるのでそのまま正座しててもらっても構いませんけど。
「で、ルルさん。確認しますが武神様には会おうと思えばいつでも会えるということで間違いありませんか?」
「ウィン、とりあえずその『威圧』を止めて欲しいのだが。」
「止め方が分かりません。無意識なので。」
「戦闘爺さんが気絶してしまう。」
「それなら早く質問に答えて下さい。」
「分かった。ウィンの言う通りだ。戦闘爺さんにはいつでも会える。『加護』持ちの特権だ。」
「ではなぜ武神様に会うためには格闘大会で優勝する必要があると言ったんですか?」
「ウィンが戦闘爺さんに会うにはその必要があると思った。」
ルルさんの説明は、言葉通りに理解すると一見筋が通っているように見える。
でも僕はそれで誤魔化される程甘くはない。
「では質問を変えます。ルルさんが武神様に会う時に他の人は同席できますか?」
「私の許可があれば同席できる。」
「同席する人は誰でもいいんですか?」
「誰でも構わない。」
「僕でも?」
「あっ・・・・・」
ルルさん、そんな会話力だとベテラン刑事に尋問されたら3分以内に完落ちですよ。
いや1分持たないかもしれませんね。
「今の『あっ・・・・・』は、どういう意味ですか?」
「えっ・・・・・別に・・・・・その・・・・・そういう方法もあるのかなの『あっ』だな。」
ルルさん目が泳ぎまくってますね。
あの戦闘時のキリッとした真っ直ぐな眼差しはどこに行ってしまったんでしょうね。
そんな態度だと、どんなに無能な裁判官でもギルティ(有罪)一択になりますよ。
「ルルさん、今回、僕の従魔たちを買収しましたね?」
「ああ、でもそれは戦略の一環だ。」
「分かってます。それに僕を攻撃するために新しい戦法も考えましたね?」
「もちろんだ。勝つためにあらゆる方法、手段を模索するのは戦いの基本だ。」
「つまり、ルルさんって意外と頭脳派ですよね。」
「その通り。私は戦闘バカだが、脳筋バカではない。」
ルルさん自分のこと戦闘バカだと自覚してるんですね。
まあ『バカ』というより『狂』の方がより似合う気がしますけど。
「ということは、ルルさんと一緒なら僕が武神様にすぐ会えることくらい想定済みですよね。」
「当然だ・・・・・あっ・・・・・」
だからルルさん、そんなに簡単に自白しちゃったら、取調室でカツ丼食べさせてもらえませんよ。
カツ丼で容疑者を落とす刑事が本当にいたのかどうかは知りませんけど。
「今の『あっ』はどういう意味ですか? ここまで来て嘘ついたら、ルルさんと言えども許しませんよ。」
「ウィン、強過ぎる。もう少し『威圧』を抑えろ。戦闘爺さんが白目になってるじゃないか。」
「じゃあ素直に吐きましょう。」
「分かった。私が悪かった。ちょっとウィンと本気で戦ってみたかったんだ。それだけだ。」
こうしてルルさんの『有罪』が確定した。
でも僕と戦いたいだけならそう言えばいいのに。
最初の時のように、『はじまりの島』で戦うこともできたんじゃないのかな。
わざわざ格闘大会に出て、目立つ必要なんてなかったと思うけど。
そのせいでたくさんの格闘士さんたちが自信を喪失しちゃったし、僕も面倒な人たちと戦うハメになったし。
そんなことを考えていると、白目を剥いていた武神様がようやく立ち直り、僕に話しかけてきた。
「ウィン、おぬし、乙女心が分かっておらんようじゃの?」
「武神様、お帰りなさい。意識が戻ったようで何よりです。ところでどこに『乙女』がいるんでしょうか?」
「ルルちゃんに決まっておる!」
「神様の世界では、『戦闘狂』と書いて『おとめ』と読むんですか? ああ、『戦乙女』みたいな感じですか? ジャンヌ・ダルクとか?」
「馬鹿者、そんなことはどうでもよい。おのれが認めた相手と力を尽くして戦うにはそれなりの舞台も必要ということじゃ。」
なるほど。
武神様の言うことも分からなくはない。
盛り上がる大観衆。
多種多彩な強敵たち。
激闘に次ぐ激闘を乗り越え、最後の相手は最も信頼する仲間。
そしてお互いの死力を尽くした戦いの末に訪れる決着の瞬間。
確かに『はじまりの島』での練習試合とは別物だよな。
真剣さとか、緊張感とか、アドレナリンの出方とか。
武神様もたまにはいいこと言うじゃん。
「そうじゃろう、そうじゃろう。戦いには物語がなければのう。ところでその、ジャンヌなんとやらは、どこの戦乙女じゃ? 美人か? 今度紹介してくれんかのう。」
瞬速で前言を撤回します。
もう『武神様』呼びはやめようと思います。
『戦闘じじぃ』でいいよね。
いや、単なる『じじぃ』でいいかも。
「これこれウィン、神に対する敬意は忘れてはいかんぞ。」
「神様なら神様らしい言動を心がけて下さい。」
「永遠の時を生きておるんじゃ。神とて楽しみのひとつもなきゃやっとれんわい。」
「もしかして他の神様たちも、変人、いや変神だらけとか?」
「そりゃあもういろいろおるぞ。わしなんぞ、マシな方じゃ。」
この人、いやこの神、自分で自分のことを「マシな方」とか言っちゃってるよ。
でももっと変な神様が他にいっぱいいるのか。
なんかもう、他の神様には会わなくてもいいかな。
「ウィン、それは無理な話じゃ。神の使いを従えておる以上、これからも絡んでくる神が必ず出てくるはずじゃ。」
「神の使い?」
「そうじゃ。まだ記憶が戻っておらぬようじゃが、おぬしも薄々気づいてはおろう? まあ、この世界では気にせずゆっくり歩いて行けばよいがな。」
武神様は、優しげな表情でそう言った。
まあ、これまでの流れでだいたいの想像はつくけど、まだ自分の記憶としては何も思い出さないんだよね。
先のことは分からないけど、記憶が戻ったらその時にまた改めて考えよう。
ところで・・・・・
「二人とも、どうしてまだ正座したままなのかな?」
「ウィンが正座しろと言ったからじゃないか。」
「わしは・・・足が痺れて動けん。」
ルルさんと武神様は僕の言葉にそれぞれ答えると、ルルさんはすぐに立ち上がり、武神様は座ったままで後ろにひっくり返った。
「なんということでしょうか。今大会の優勝者ウィン、聖女様と武神様を正座させた上に、最後に武神様を倒してしまいました。ウィン様とはいったい何者なのか。格闘士ギルドは今後も総力を上げてウィン様の動向を追いかけたいと思います。皆様、乞うご期待!」
あっ、ここまだ試合会場の舞台の上だった。
すっかり忘れてた。
でも司会者さん、その締め方はないんじゃないかな。
観客の皆さんがまた騒ぎ出してるんですけど。
ほら、興奮してポンポンを会場内に投げ込み始めちゃったよ。
大相撲で取り組みの後に座布団が宙を舞う感じ?
スケートリンクでオレンジ色のクマさんが飛び交うってのもあったよね。
あっ、従魔たちが投げ込まれたポンポンを素早く回収してる。
回収して再利用でもするつもりかな。
もう使う機会なんてないと思うんだけど。
あれっ、従魔たちに混じって、黒い子猫が跳ね回ってるけど・・・。あれは子猫姿のネロさんだよね。
投げ込まれた青と白のポンポンに飛びついてる。
それって子猫の本能なのか。
本来はでっかい黒山猫だけど。
アリーナ席の観客たちは全員立ち上がってる。
拳を振り上げたり叫んだりしてる人もたくさんいる。
ウィンギルドのメンバーは・・・・・
笑顔で手を振ってくれてるな。
ジャコモさん、マッテオさん、アリーチェさん、シルフィさん、フェイスさん、グラナータさん、応援ありがとうございました。
最後は観客席の人たちも会場内に流れ込み、大混乱の中で格闘大会はその幕を閉じた。
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