237.初めての神様です(『祝福』:武神様)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(237)
【格闘大会編】
237.初めての神様です(『祝福』:武神様)
「挨拶もできんとはのう。まったく最近の若いもんは。」
固まっている僕に半眼を向けながら、突然現れた牧師はそう言った。
およそ牧師らしくない物言いだけど、僕はその指摘で我に返り、慌てて挨拶した。
「すみません。いきなりだったのでビックリしてしまって。牧師様、ウィンといいます。よろしくお願いします。」
「ふむ、挨拶はそれで良しとしよう。しかしな、牧師には様をつけて、神は呼び捨てというのはどういう了見じゃ?」
「神は呼び捨て?」
「先ほどから武神、武神と呼び捨てにしておっただろうが。」
あっ、そういうことか。
無意識だったし、声に出してなかったからあんまり考えてなかった。
ということはこの牧師様も『念話』持ちか。
「無意識でそれじゃと、信心が足りんということじゃ。深く考えずに呼び捨てにするなど、神に対する敬意を欠く行為じゃ。」
神に対する敬意か。
確かに僕には欠けているかもしれない。
元々信心深い方じゃないし、実際に見たもの以外は信じないし。
もちろん未知のものをすべて否定する程愚かじゃないけど、他人の話をそのまますべて受け入れる程自主性のない人間でもない。
「ああ嫌じゃ嫌じゃ、おぬし、『新人類』とかいうやつじゃな。屁理屈と言い訳ばかりで常識のないグループじゃな。」
新人類?
それってかなり古くないか。
その後に『ミレニアル』とか『ゆとり』とか『Z』とかあったような。
それに常識がないってこともないと思うけど。
あっ、この世界の常識はないかもしれない。
「ますます失礼なやつじゃな。古き良きものに敬意を払わんものは、ひっくるめて『新人類』でいいんじゃ。こんなやつが優勝するようになるとは、この世界も終わりじゃ。」
うん、僕の人間性とか人としての属性とかの話になっちゃってるけど、この牧師様、何のために出て来たんだろう?
どう考えても大会関係者だとは思うけど。
『武神様』に仕える牧師様かな。
…ウィン様、クエストの「発動条件」を達成されたので表示させて頂きます…
○神級発動条件「神に出会う」
達成済み
このタイミングで突然、「中の女性」からメッセージが表示された。
神級発動条件の「神に出会う」を達成?
ということはつまり・・・
「そういうことじゃ。わしは牧師様ではない。武神様じゃ。」
あっ、この神様、自分で自分のこと『武神様』って言った。
もしかして『俺様』タイプの神様なんだろうか。
「うるさいわ。単なる言葉の綾じゃ。それよりおぬし、意思疎通ができるからと甘えおって、ちゃんと自分の口でしゃべらんか。」
「あっ、そうですね。すみませんでした。なんか心の中で会話するクセがついちゃってて。ここからは声に出してしゃべらせて頂きます。」
僕は牧師様・・・の格好をした武神様に一言謝ってから、改めて会話を続けることにした。
「武神様、改めてよろしくお願いします。」
「おお、いきなり礼儀正しくなりおったのう。最初からそうすればよいのじゃ。」
「はい、失礼しました。一つ質問なんですが、どうして牧師様の格好をされてるんですか? とても・・・お似合いですけど。」
「はっはっはっ、そうか似合っておるか。神じゃからのう。どんな姿にでもなれるんじゃ。最近はこれが気に入っておってのう。」
なるほど。
この神様、実はチョロ・・・・・ちょっとカッコいいかも。
心の中まで読まれるので、僕はいろいろ気をつけることにした。
「そうか、カッコいいか。おぬし、意外と違いが分かるやつかもしれんのう。」
「いえいえそんなことはありません。すぐに武神様と気付かず、申し訳ありませんでした。」
「よいよい。おぬし、この大会は初出場じゃろう。わしのことを知らんでも仕方あるまい。」
「いえ、優勝すれば武神様の『祝福』を頂けると存じ上げておりましたので。すぐに気付くべきでした。」
「おぬしの世代には珍しく、なかなか殊勝なやつじゃのう。『祝福』に少し色でもつけてやるか。」
「本当ですか。ありがとうございます。」
余計なことを考えないように努力しながら、武神様の言葉にお礼を言うと、武神様は右手を軽く上げて僕に向かってかざした。
するとそこから球状の光が現れ、僕の胸に吸い込まれるようにして消えた。
「『祝福』完了じゃ。」
武神様はそう僕に告げると右手を下げた。
あっという間の出来事だったので今一つ実感が湧かない。
その効果も今の状態だとよく分からない。
「『祝福』じゃからな。効果は微々たるもんじゃ。いつもよりはちょっと多めにしておいたがのう。」
「効果とはどのようなものでしょうか?」
「攻撃力の底上げじゃな。わしは戦闘系の神ゆえ。」
なるほど。
攻撃力が少し上がると。
まあ、格闘大会で優勝したくらいで大き過ぎる力を与えると世界のバランスが狂うだろうしな。
強くなり過ぎると勘違いして問題起こす人間も増えるだろうし。
戦闘狂だらけの世界とか、嫌すぎるよね。
そんなことを考えていると、
「戦闘爺さん、ケチケチしないでウィンに『加護』を与えてもいいんだぞ。」
えっ?
戦闘爺さん?
ケチケチしないで?
隣を見るといつの間にかルルさんが僕の横に転移していた。
でもルルさん、武神様相手にちょっとフランク過ぎるんじゃないですか。
この神様、礼儀にうるさいから怒っちゃうんじゃ・・・・・
「おおルルちゃん、そう言われてもなあ。そんなに簡単に『加護』を与えるわけにはいかんのじゃよ。」
えっ?
ルルちゃん?
えっ?
「ウィンは私のパートナーだ。『加護』を与えても問題ないだろう。」
「ルルちゃん、わしも一応神じゃからのう。『加護』を与える相手は吟味せんといかんのじゃ。」
「私の吟味では足りぬと言うことか?」
「いやそういう意味ではないがのう。」
「ならばいいだろう。減るものじゃなし。」
「いやそういう問題じゃ・・・」
「ウィンがダメなら私も『加護』を返上する。」
「・・・・・」
ルルさんがそう断言すると、武神様が言葉を失った。
ちょっと・・・ちょっと待ってくれませんか。
とりあえず状況を整理させて下さい。
ルルさん、『加護』を返上するということは、現時点で武神様の『加護』持ちってことですよね。
確か、『祝福』は他人を祝う気持ち、『加護』は身内を守る気持ちでしたっけ。
ってことはルルさん、武神様の身内?
いやルルさんは人間なので、身内に近いほど親しいってこと?
でもルルさん、なぜ神様に対して会話がそんなに上からなんですか。
そしてなぜ武神様は、ルルさんに対して下からなんですか。
なんか弱みでも握られてる?
「なぜウィンはダメなんだ? 実力は十分だと思うが。」
「いやルルちゃん、ほら、最近のルルちゃんは全然会いに来てくれんじゃろう。そこのウィンという人間にベッタリで・・・」
「強さを極めるためには当然のことだろう。」
「それはその通りじゃが・・・神も寂しいんじゃよ。」
「たまには会いに来いってことか?」
「まあ、言いたいことを短くまとめると、そういう意味になるかもしれんのう。」
ええっと、神様に敬意を示すの、やめていいですか。
いや神様を一括りにするのは他の神様に失礼かもしれない。
武神様、いや武神様を名乗るジジィは敬わなくていいですよね。
あっ、思わず言葉遣いが乱れました。
申し訳ありません。
それよりも、もっと気になる発言があったんですけど。
今の会話だと、ルルさん、いつでも武神様に会えるってことですよね。
だとしたら、この大会に出る必要なかったんじゃないんですか?
ねぇルルさん、どうなんですか?
右斜め上を見ながら口笛吹くフリしてもダメですよ。
それにその口笛、音が出てませんからね。
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