236.ウィンのすべては私のものだ(決勝戦:決着)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(236)
【格闘大会編】
236.ウィンのすべては私のものだ(決勝戦:決着)
試合会場の上空からルルさんが消えた。
下からの『溶岩雨』が直撃する寸前だったので、おそらく『転移』で逃げたのだろう。
僕は咄嗟に試合会場の舞台上を確認した。
しかしそこにルルさんはいない。
まあ、『溶岩』の下に転移したら『溶岩雨』の餌食だからね。
ちなみにこの『溶岩雨』、『風魔法』と組み合わせれば、上からでも下からでも横からでも攻撃できる。
今回のルルさんの闘い方をヒントに思いついた戦法だけど、周囲の被害を無視できる状況なら、とても凶悪な飛び道具になるだろう。
まあ、『魔法攻撃無効』を持ってない人にとっては、『溶岩』だけで十分凶悪だけどね。
それにしてもルルさん、どこに転移したんだろう?
不貞腐れて『小屋』とかに帰っちゃったのかな?
「ウィン様、聖女様はこちらにいらっしゃいます。」
僕が魔力感知を使いつつ、同時に物理的にもキョロキョロとルルさんを探していると、司会者が僕にそう告げた。
司会者席の方を見ると、司会者の隣の席にルルさんが腕を組んでどっかりと座っていた。
なぜかその後ろの方で解説者のネロさんがひっくり返っている。
「ウィン、私の負けだ。」
ルルさんが腕を組んだまま敗北を宣言した。
「それにしても、ウィン、アレはちょっと酷過ぎるんじゃないか。危うく跡形もなく溶けるところだったぞ。」
「ルルさん、転移があるから大丈夫でしょう?」
「逃げ場をすべて塞いでおいてよく言うな。」
「そうですね。それで司会者席に転移したんですか?」
「どう考えても、場外しか逃げ場がなかった。」
「僕の隣とかは?」
「ふん、どうせその瞬間にウィンが消えて、代わりにあのドロドロが襲ってくるんだろう?」
「よくお分かりで。」
お互いに『魔力切れ』がない状態での魔法戦は、詰将棋みたいなものだ。
自分の持ち駒である魔法でどうやって相手の手を潰していくか。
そういう意味では、今回の戦いは僕の方が条件が圧倒的に有利だった。
僕の方が持ち駒の数が多いし、ルルさんはそのすべてを把握してるわけじゃない。
一方、僕はルルさんの持ち駒を全部知っている。
戦略や戦法を編み上げる能力についてはまた別の問題だけど。
「ウィン、私にどれだけ隠し事をしている?」
「隠し事?」
「『水蒸気爆発』も『溶岩』も私は聞いてない。」
「いやそれは冒険者の秘匿事項では?」
「私たちの間にそんなものはない。」
「そんな無茶な。」
「私のすべて(の魔法)を見ていながら、自分(の魔法)は隠すのか?」
あっ、久しぶりに面倒な『誤解受ける系』の発言だ。
司会者さん、固まっちゃってるし、観客の皆さんも静まっちゃってる。
「ルルさん、その話はまた後でしましょう。」
「なぜだ。みんなに聞かれてまずいことでもあるのか?」
「ありませんけど・・・・・」
「ならばウィンのすべて(の魔法)を私に見せろ。ウィンのすべて(の魔法)は、私の(習得すべき)ものだ。」
一瞬の静寂の後、歓声と怒号と悲鳴と号泣が入り混じった叫び声が格闘場に響き渡った。
ルルさん、よりによってなぜ司会者席でそんな発言をするんですか。
拡声魔法の影響で、ここにいる全員に聞こえてるんですけど。
あっ、もしかして場外の実況中継にも流れてる?
もうコロンバールにはいられないかもしれない。
「ウィン様、聖女様、仲睦まじくお戯れのところ大変申し訳ないのですが、これは格闘大会決勝戦でありますので、勝利宣言をさせて頂いても構いませんでしょうか?」
固まっていた司会者がようやく自分の役割を思い出したらしく、そう発言した。
「構わないぞ。ウィンの優勝だ。」
「それでは宣言させて・・・」
「司会者、ちょっと待て。その前にアレをどうにした方がいい。」
勝利宣言をしようとした司会者を制止して、ルルさんが指差しながらそう言った。
その指先は試合会場の上空を指している。
そうだった。
『溶岩』、出しっ放しだった。
見た目が凶悪なだけに、そのまま放置してると心配になるよね。
ちゃんと後始末しないとね。
ということで、
「消去。」
僕がそうつぶやくと、試合会場の上に浮かんでいた円盤状の『溶岩』は一瞬で消えた。
その光景を見ていた観衆からは、大きなどよめきが上がる。
みんな、あれが落ちてきたらどうなるんだろうとハラハラしてたんだろうな。
でも、『溶岩』を解除できるようになっていて良かった。
そのまま落としたら試合会場がドロドロに溶けて大惨事になっただろうし。
まあ、消せるようになったから使ったんだけどね。
「それでは、場も整いましたので勝利宣言をさせて頂きたいと思います。今回の格闘大会も素晴らしい熱戦が繰り広げられました。実績あるベテラン勢が多数参加する中、能力の高い初参加組がその実力を発揮した大会でもありました。そんな中、数々の激闘を勝ち抜き、優勝の栄冠を手に入れた格闘士は・・・・・」
司会者はそこで溜を作った。
一度静まった観客席から徐々に歓声が上がり始める。
「数えきれない程の多彩な魔法を駆使し、能力の高い従魔を多数従え、次々に向かって来る強敵たちを柔軟な戦略で撃破し、最後に、あの聖女様に『私のものだ』と言わしめた男、その名は?」
司会者がそこで言葉を止めると、大歓声とともに僕の名前が連呼された。
「ウィン(祝)!」
「ウィン(喜)!」
「ウィン(憧)!」
「ウィン(泣)!」
「ウィン(恨)!」
「ウィン(怒)!」
「ウィン(欲)!」
うん、単なる名前の連呼なのにいろいろな感情が載ってるのが分かる。
これって『念話』の影響なのかな。
最後の方、ちょっとゾクっとしたんですけど。
あと、この状況、嬉しいというより恥ずかし過ぎる。
目立つのが嫌いってわけじゃないけど、ここまでは・・・。
もう帰ってもいいかな。
あっ、その前に『武神』に会わないと。
そもそもそのために格闘大会に参加したんだし。
『武神』、どこにいるんだろう?
「神に対して様を付けんとは、今回の優勝者は礼儀が足りんと見える。」
心の中で『武神』、『武神』と唱えていると、いきなり誰かから注意を受けた。
驚いて目の前を見ると、いつの間にか試合会場に人が立っていた。
そしてその人は牧師の姿をしていた。
なぜ牧師が?
僕は言葉を失って、そのちょっと偉そうな牧師を見つめていた。
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