235. アレも使っちゃいます(混合クエスト:『炎+石』)
見つけて頂いてありがとうございます。
第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(235)
【格闘大会編】
235.アレも使っちゃいます(混合クエスト:『炎+石』)
「ルルさん、ちょっとタイム!」
ノンストップの攻防が続く中、僕は大きな声で戦闘の中断を申し入れた。
ルルさんは石弾を撃とうとしていた構えを解き、僕の方を不思議そうに見る。
「どうしたウィン? もう降参するのか?」
「違います。」
「じゃあなぜ止めた?」
「このままだと埒が開きません。」
「確かにな。どちらかが致命的なミスをしない限り無理だな。」
僕はそこで疑問に思っていたことをルルさんに質問することにした。
「ルルさん、ひとつ訊いてもいいですか?」
「いいぞ。」
「どうして『魔力切れ』にならないんですか?」
僕は元々、保有魔力がゼロだ。
僕の魔法はクエストの発動によるので、魔力は関係ないと理解している。
クエスト発動に何らかの量的制限があるのかは、現時点では判明していない。
一方、ルルさんには魔力があり、魔法を発動するとそれを消費する。
保有魔力は2015で、常人に比べて遥かに多いが、これだけ魔法を連発すれば普通なら『魔力切れ』を起こすはずだ。
しかし、今のルルさんを見ているとそんな気配は微塵もない。
「ウィン、それは『ヒール』のおかげだ。」
「ヒール? あっそうか、『ヒール』はケガだけじゃなく体力と魔力も回復するんでしたっけ?」
「その通りでもあり、その通りではない。」
「???」
僕は理解できずに首を傾げた。
相変わらずルルさんの言い方は分かりにくい。
「他者にかける時はその通りだが、自分にかける時は魔力は回復しない。」
「???」
僕はもう一度首を傾げた。
「自分の魔力を使って自分にヒールをかけて自分の魔力を回復するというのは矛盾しているだろう?」
そうなのか?
それは矛盾なのか?
魔法だから何でもありじゃないのか?
よく分からないな。
「私も理解してる訳じゃない。そう教わっただけだ。」
不思議そうな表情の僕を見て、ルルさんはそう付け足した。
「じゃあ、なぜルルさんの魔力は尽きないんですか? 訓練でありえないくらい魔力が増えたとかですか?」
「いや、だから『ヒール』のおかげだ。」
「???」
「この『ヒール』は、ヒールであってヒールではない。」
「すみませんルルさん、意味が分かりません。」
僕はルルさんの説明が理解不能すぎてつい言葉に出してしまった。
「これは、『ヒール』ではなくて『ウィン・ヒール』だ。」
「ウィン・ヒール?」
「そうだ。普通の『ヒール』とは違って、自分の魔力も回復してしまう異常な『ヒール』、つまり『ウィン・ヒール』だ。」
異常なヒール?
ウィン・ヒール?
なるほど。
ようやく全貌が見えてきました。
この世界の普通の『ヒール』は自分にかけた場合、魔力は回復しない。
しかし、僕のクエストで獲得した『ヒール』は自分の魔力も回復してしまうと。
だから『異常なヒール』。
『異常=ウィン』で『ウィン・ヒール』。
ネーミングには抗議したいけど、内容は理解しました。
でもそれだと尚更決着付きませんよね。
「ルルさん、そうなるとこの試合終わりませんよね。」
「まあ、そうだな。」
「それは面倒です。」
「なぜだ? 長く楽しめるぞ。」
「僕は楽しめません。」
「変なヤツだな。」
変な人から変なヤツ呼ばわりされました。
終わりの見えない戦いなんて、誰でも嫌でしょう。
ルルさんと違って、僕は戦闘好きじゃないんですよ。
さて、早期決着を目指すにはどうすればいいのか。
やっぱりアレを使っちゃうしかないだろうな。
まだ使い方について、今ひとつ頭の中がまとまってないけど・・・。
「ルルさん、もう一つ隠し球があるんですけど、見たいですか?」
「何だと! ウィン、まだあるのか! ぜひ見てみたい!」
予想通りルルさんは食いついてきた。
ルルさん、新しい魔法とか見たことがないスキルとか大好きだからね。
もしこれでダメなら、諦めて持久戦に挑むとしよう。
「ルルさん、これが最後の隠し球です。『溶岩』!」
僕がそう叫ぶと、円形の試合会場の上空いっぱいに、赤黒く光る溶岩の円盤が出現した。
クエスト『溶岩』。
『石』と『炎』の混合クエスト。
ドロドロした溶岩でできた円盤状の物体は、落ちることなく空中に止まっている。
「ウィン・・・・・何だあれは!」
「熱で溶けた岩の塊・・・かな?」
『溶岩』の適当な説明が思い浮かばず、ルルさんの問いかけに僕はそんな風に答えた。
最初の頃は、溶岩の小さな塊を落とすくらいしかできなかったけど、練習の結果、大きさも形も自在になり、空中に浮かべることもできるようになった。
「ウィン、これは隠し球というより、最終兵器じゃないのか?」
「そうかもしれません。危な過ぎて使い所が難しいんですよね。」
「またとんでもないものを・・・・・だがこれも魔法。ということは私にダメージを与えることはできないはず。」
「ルルさん、そこなんですよ、問題は。なのでこんなことを考えてみました。」
僕はそう言うと、『風魔法』を使って、ルルさんが作った石のカケラたちを円盤上の『溶岩』の上に巻き上げた。
石のカケラたちは上空に舞い上がり、そこからゆっくりと降下し始める。
そして『溶岩』を通り抜け、ルルさんの頭上に降り注ぐ。
もちろん、ドロドロに溶けた高熱の塊となって。
「ウィン、これはやり過ぎだ!」
ルルさんが僕の意図を理解してそう叫んだ。
その通りですね。
僕もやり過ぎだと思います。
『溶岩』は魔法だけど、『溶岩』を通過して溶かされた石の塊は魔法ではないので、ルルさんにもダメージが入ります。
ルルさんがぶん殴って飛ばす石弾が、僕にダメージを与えるのと同じ理屈ですね。
名前を付けるなら・・・・・『溶岩雨』。
うん、誰か代わりに名前考えてくれないかな。
「ウィン、これはシャレにならんぞ! 当たったら溶ける!」
ルルさんが落ちてきた『溶岩雨』を避けながら叫ぶ。
はい、シャレにならないです。
でもルルさんなら、回避策があることも知ってます。
そしてその回避策への対抗策も一応考えてます。
『溶岩雨』の数が増えてきたところで、ルルさんは『風魔法』を使ってその落下軌道を僕の方へ変えようとした。
僕はすかさず同じ『風魔法』でそれを妨害する。
次にルルさんは『水魔法』で『溶岩雨』をブロックしようとした。
同時に僕も『水魔法』を発動して、ルルさんの魔法を相殺する。
逃げ場が無くなったルルさんは最後に『転移』を発動した。
『溶岩雨』は上空の『溶岩』から降ってくるので、転移して逃げるとすれば当然その上だ。
そこなら『溶岩雨』が降ってこない。
でも・・・・・実はそこも安全地帯じゃないんですよね。
僕は『水蒸気爆発』で新たに試合会場の石床を砕き、それを『風魔法』で真上に噴き上げた。
大量の石のカケラが円盤状の『溶岩』を下から突き抜け、上空に逃れたルルさんに襲いかかる。
赤く溶けた石のかカケラたちがルルさんを下から包み込む直前。
ルルさんの姿がそこから消えた。
読んで頂いてありがとうございます。
徐々に読んで頂ける方が増え、励みになります。
誤字・脱字のご指摘、ありがとうございます。
ご感想を頂いた皆様、感謝いたします。
ブックマーク・評価を頂いた皆様、とても励みになります。
ありがとうございます。
次回投稿は3月6日(水)です。
よろしくお願いします。




