234.久しぶりのアレを使います(混合クエスト:『炎+水』)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(234)
【格闘大会編】
234.久しぶりのアレを使います(混合クエスト:『炎+水』)
「では、第二ラウンドと行こうか。」
ルルさんは僕に向けた鋭い眼差しを、ニヤリと悪人風の笑顔に変えた。
そんなルルさんを見て、観客席から大歓声が上がる。
悪い顔をしても、悪人に見えるどころか絶世の美女に見えるなんて・・・
ルルさん、そのお顔の造形は反則だと思います。
僕がいた前の世界なら、世の中に不満を持つ各方面の方々からクレームが入るんじゃないかな。
まあこの国の観衆は大いに盛り上がってるけどね。
第二ラウンドもルルさんの攻撃パターンは最初と同じだった。
まず転移を繰り返して石床を割りながら石のカケラをぶん殴って超高速石弾で攻撃。
弾数(石のカケラ)を十分に確保したら、『風魔法』で空中に巻き上げ、転移からの超高速石弾の乱れ撃ち。
さすがのルルさんも、僕に対する攻撃方法をいくつも準備することはできなかったのかもしれない。
更なる隠し球がないとは言い切れないけど。
ただ『暴風』は見事に攻略されてしまった。
僕が『暴風』を発動すると、ルルさんもカウンターで『暴風』を発動し、魔法同士で相殺してしまう。
タイミングも当て所も完璧だ。
ルルさんの『魔力視』と魔法発動の速さがあってこそ為せる技だろう。
「ルルさん、さすがですね。」
「ウィン、褒めても手は緩めんぞ。」
「分かってます。こちらにもまだ武器は残ってますので。」
「ウィン、いいぞ。戦人はそうでなければな。」
束の間、言葉を交わした後、ルルさんは『風魔法』と『転移』を併用して超高速石弾による攻撃を再開した。
僕は多少傷つきながらも、ルルさんの石弾を防ぎつつタイミングを計っていた。
何のタイミングかって?
もちろん封印してた必殺技をぶちかますタイミングですよ。
『転移』を繰り返しながら、ルルさんのターゲットが僕から外れる瞬間を探す。
しかし戦闘中のルルさんの感覚は研ぎ澄まされていて、試合会場という狭い空間の中では、なかなか難しい。
何度目かの連続転移の後、ようやくそのチャンスは巡ってきた。
ルルさんの死角に入ったと感じた瞬間、僕は空に転移した。
上空から見下ろすと、試合会場に立つルルさんの姿とそれを取り巻くように渦を巻く風の様子がはっきりと見える。
僕はその渦の真ん中、試合会場のど真ん中にに向けてクエストを発動した。
「水蒸気爆発!」
僕の叫び声と同時に試合会場の中心で大爆発が起こる。
その爆風は、ルルさんの『風魔法』を吹き消し、石のカケラたちを粉砕し、ルルさんを吹き飛ばした。
このクエストは「はじまりの島」を出て以来、人前で使ったことはない。
『水蒸気爆発』と呼んでるけど、正確には『炎』と『水』の混合クエストだ。
威力が高過ぎるので、周囲への被害も考慮してコロンバールでもアマレパークスでも封印していた。
もちろん、制御のための練習はしてたよ。
こっそり「はじまりの島」でね。
闇練(隠れて練習すること)、大事だよね。
あっ、それよりも・・・ルルさん、大丈夫かな。
見事に吹っ飛んでたけど。
「ウィン、私に対してまだ隠し球があるとは・・・・・なんて素敵なんだ。」
「うわっ!」
『風魔法』で空中に浮きながらルルさんを探していると、真後ろからルルさんの声が聞こえた。
僕は瞬時に『転移』で地上に逃げる。
もちろん、ルルさんも僕を追いかけて試合会場の舞台に転移してきた。
「ルルさん、吹っ飛びましたよね?」
「ああ、見事にやられた。」
「でも何ともない?」
「当然だ。途中で『転移』で空に逃れたからな。石のカケラが当たった傷は『ヒール』で回復したぞ。」
そういうことですよね。
ルルさんも『魔法攻撃無効』持ちですからね。
やっぱり一瞬で意識を刈り取らないとダメってことですか。
でもこれって、『ヒール』持ち同士で戦うとキリがないんじゃないのかな。
将棋でいうところの、『千日手』になっちゃうんじゃ・・・・・
「ウィン、普通は『ヒール』持ち同士でもこんな状況にはならないぞ。」
「あっ、また読まれた。」
「ウィンの場合、言いたいことが顔に書いてあるからな。」
「なんか、悔しいけど・・・どうしてですか?」
「まず『ヒール』持ちは滅多にいない。」
「レアなんですね。」
「そうだ。そして『ヒール』持ちで戦闘力が高い者は皆無に近い。」
なるほど。
『ヒール』って、聖女くらいしか使えないのかもしれない。
それも一部の聖女だけか。
そして聖女は戦闘力が高くない。
約一名の『戦闘狂聖女』を除いて。
ルルさん、スーパーレアってことだな。
「ウィン、理解したようだな。」
「はい、でもルルさんと僕の場合は決着がつかないんじゃ?」
「だから一撃必殺だ。」
「いやいや殺さないで下さい。せめて一撃失神くらいにして下さい。」
「そんな手加減、できる訳がないだろう。」
おっしゃる通りで。
ルルさんにそんな器用なことを求める方が間違ってる。
従魔たちを買収したように、事前準備ならまだ搦め手もあるんだろうけど、いざ戦いが始まれば力押し一択だよな。
「ウィン、そろそろ第三ラウンドの準備が終わるぞ。」
「えっ?」
準備って何だろうと思って周囲を見回すと、『暴風』と『水蒸気爆発』で吹き飛ばしたはずの石のカケラたちが、竜巻のような風に巻かれて試合会場に戻ってきた。
しかも観客席には一切被害を出さないように竜巻を操るという芸の細かさだ。
この展開に、大観衆は大喜び。
今までは割と地味に見える試合が多かったからね。
こんな大スペクタクルを見せられたら、そりゃ興奮するよね。
ルルさん、『風魔法』については本当に嫌になるくらい自由自在ですね。
もしかして『水魔法』もその域まで達してたりします?
あと、密かに他の魔法とか会得してませんよね。
『時間を止める魔法』とか、『星を落とす魔法』とか、『悪魔を召喚する魔法』とか。
ディーくん、後で小一時間ほど問い詰めるからね。
二人の試合は、そこからは大乱戦になった。
隙あらば『転移』からの超高速石弾を撃ち込んでくるルルさん。
それを防ぎながら、石のカケラとルルさんを『水蒸気爆発』で吹き飛ばそうとする僕。
吹き飛ばされても『転移』で試合会場に戻り、石のカケラを『竜巻』で集めなおすルルさん。
『竜巻』に『竜巻』をぶつけてそれを邪魔しようとする僕。
試合であることも、観客がいることも忘れて、お互いに全力で派手な魔法を連発する二人。
うん、怪獣大戦争かな。
大技の応酬は見ていて迫力があるだろうけど、同じ展開が続くと飽きてくるよね。
僕はもう飽きました。
ということで、そろそろ最後の賭けに出るとしますか。
もう一つの『隠し球』で。
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