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232.買収とかアリなんですか(従魔たち:不参加)

見つけて頂いてありがとうございます。


第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)


主人公が世界樹のアマレパークスで様々な出来事に遭遇するお話です。

仲間として戦闘狂の聖女ルルに続いてエルフの元勇者リベルが加わります。


週3回(月・水・金)の投稿となります。

よろしくお願いします。


第三章 世界樹の国と元勇者(232)

【格闘大会編】



232.買収とかアリなんですか(従魔たち:不参加)



「ウィン、待ってろ。すぐに済ませる。」


試合終了後の長い解説が終わり、僕が試合会場の舞台から降りると、入れ違いにルルさんが上がってきた。

ルルさんの戦闘衣装は、いつもと変わらず白い竜革の装備にミスリルのガントレットだ。

すれ違いざまに僕に声をかけ、そのまま試合会場に入る。

ルルさんの言う「すぐ」は本当に「すぐ」だろう。

対戦者の『スピード系の人』、心からご愁傷様と言わせて頂きます。


僕が試合会場に背を向けて、既に2席に減らされた出場者席に向かって歩いていると、後ろから大きな歓声が湧き上がった。

準決勝二回戦が始まるのだろう。

僕は、その後の展開を半ば予想しながら、ゆっくりと試合会場を振り返った。


決着は一瞬だった。

「試合開始」の声と共にルルさんの姿が消え、対戦相手の方に視線を移すと・・・。

そこには、拳を振り上げた体勢のルルさんと、きれいな弧を描きながら観客席に飛んでいく『スピード系の人』の姿が一枚の絵のように鮮やかに見えた。


1秒・・・かかってないな、たぶん。


試合開始と同時に『転移』。

そのままアッパーカット。

あれはもう人間の反応速度を完全に超えてると思う。


ルルさん、もう人間やめてません?

なんなんですか、その魔法発動の速さは。

なんなんですか、その体術のキレの凄さは。

昨日の予選も、今日の準々決勝も、まったく本気を見せてなかったんですね。

いつの間にそこまで・・・。


あっ、ディーくんですか。

ディーくんの特訓の成果ですか。

ディーくん、なんてことしてくれちゃってんですか。

これじゃあ、『魔王』を超えて『大魔王』になっちゃってるじゃないですか。

『聖女』を『大魔王』に育ててしまうなんて、関係各位から猛抗議が押し寄せてくると思うんだけど。



「準決勝第二試合は、『孤高の聖女』ルル様の大勝利! まさに『瞬殺』という言葉通り、瞬きする間に倒してしまいました。解説のネロさん、いかがですか?」

「・・・・・」

「解説のネロさん?」

「・・・・・」

「ネロさん、仕事を・・・」

「ふざけんなぁ! ルルゥ、なんでてめぇまでとんでもないことになってやがんだぁ! こんなもん、解説できるかぁ!」


あっ、ネロさんが壊れた。

うんうん、その気持ちよく分かりますよ。

ずっと一緒にいる僕でも驚愕したからね。


現時点ではルルさんがA級でネロさんがS級だけど、ルルさんの実力、もうS級を突き抜けてるよね。

『転移』と『体術』だけでもこんなことになってるのに、まだ『風魔法』と『水魔法』と『ヒール』があるし。

耐性系も増えそうだし。

もう『戦闘狂の聖女』じゃなくて『戦闘狂の大魔王』だよね。

全世界が破滅してしまうかもしれないよね。


そんなことを考えていると、突然、僕の頭を強烈な痛みが襲ってきた。


「痛い、痛い。痛いです、ルルさん。まだ決勝戦始まってないのに、『ぐりぐり攻撃』は反則じゃないですか。」

「良からぬことを考えていたウィンが悪い。」


ルルさんは、試合会場から一瞬で僕の後ろに転移し、僕のこめかみを両方の拳でガッチリとホールドしていた。


結構距離があったのに、どうして考えていることがバレたんだろう?

表情とか見えなかったはずなのに。

もしかして見えない糸で繋がれてる?

『大魔王』に思考がバレバレとか、嫌すぎる。


「次は決勝だ。やっとウィンと戦える。負けた時の言い訳にされるのも癪だから、これくらいで許してやる。」


ルルさんはそう言って、『ぐりぐり』を解除してくれた。

それにしても、『ぐりぐり』の威力も半端なく上がってる気がする。

もしかすると次の決勝戦、『ぐりぐり』だけで僕は負けてしまうんじゃないだろうか。


「ウィン、決勝は手抜きなしだ。使えるものはすべて使え。」

「えっ? ということは従魔たちも?」

「当たり前だ。私も使えるものはすべて使う。」


そう言ってルルさんは不敵に笑った。


でも本当にいいんだろうか。

今のルルさんは確かに大魔王級だけど、従魔たちも本気を出せばそれに匹敵する。

特にタコさん、ウサくん、スラちゃんは星4つだ。

ルルさんの師匠のディーくんもいるし。


それに『聖女様』一人を相手に8人(僕+従魔7人)で戦ったら、僕は完全にヒール(悪役)になるんじゃないだろうか。

たとえそれで勝てたとしても、この大観衆をすべて敵に回すなんて、メンタル的に辛すぎる。

そんな弱音を心の中で吐いていると、


「心配するな。ウィンの想像通りにはならん。」


ルルさんは不敵な笑顔のままでそう言った。


何だろう、ルルさんのこの自信は?

もしかしてさらなる秘策兵器を温存してるのか?

まさか僕の知らないうちにテイマーになっていて、強力な従魔たちを従えていたりするとか?

あるいは、パサートさんの訳の分からない魔法のような極悪非道な魔法を習得しているとか?


「ウィン、体は万全か?」


僕が頭の中で様々な考えをグルグル回していると、ルルさんがそう尋ねてきた。


「大丈夫です。」

「ならば早速始めよう。もう待つのは飽きた。」

「今すぐですか?」

「今すぐだ。」


ということで、すぐに決勝戦を開始することになった。




「大観衆の皆様、お待たせ致しました。ここに世紀の大決戦が実現致しました。もうご紹介する必要はないとは思いますが、大会規定に則り、ファイナリストの名前を呼ばせて頂きます。まず一人目は、数々の強敵を多種多彩な魔法と史上稀なる従魔たちを駆使して退けて参りました、『謎が謎を呼ぶ七色魔法の空飛ぶ神テイマー』、青の格闘士ウィン!」


僕の名前が呼ばれると大歓声が上がり、同時にアリーナもスタンドも青いポンポンで埋め尽くされた。

もうおそらく大観衆全員がポンポンを持っているに違いない。

あと、司会者の人、『青ポンポンのウィン』のところを『青の格闘士』に修正してくれてありがとうございます。


「続きましてファイナリストのもう一人は、対戦相手をことごとく一撃で沈め、悠々とこの舞台まで上り詰めた奇跡の女性。この国では知らぬ者など誰一人存在しないみんなのアイドル。『孤高の聖女』『鋼の拳闘士』そして『瞬殺の天使』、白の格闘士ルル様!」


再び大歓声が上がり、今度は白いポンポンが会場内を埋め尽くす。

これは全員が青白両方のポンポンを持ってるようだ。

ラクちゃん、ポンポン作り、お疲れ様。

あとで『おにぎり』をいっぱいあげよう。

いやそんなことより、試合開始直後を気を付けないと、僕まで瞬殺されてしまうかもしれない。


「それでは皆様、格闘大会決勝を始めさせて頂きます。この二人の戦いは一瞬でも目を離すと何が起こるか分かりません。しっかりと集中してご覧下さい。ウィン様、ルル様、よろしいでしょうか? では・・・始め!」


司会者の開始の声と共に、僕はすぐに転移して立ち位置を変えた。

ルルさんの先制攻撃を避けるためだ。

僕には『打撃無効』があるので簡単には倒されないとは思うが、ルルさんだけに何があるか分からない。

しかし僕の予想とは異なり、ルルさんは開始位置に立ったまま、一歩も動かなかった。


「ウィン、何を慌てている。とりあえず、従魔たちを呼んだ方がいいんじゃないか?」


ルルさんは余裕を持った態度でそう告げてきた。


確かに、最初から従魔たちを呼んで全力で戦った方が勝率は高い。

それはテイマーとして卑怯な戦い方じゃない。

体術や戦術、経験値ではルルさんの方が遥かに上なので、1対1にこだわる必要はないのかもしれない。

でも、何かが引っ掛かる。

あのルルさんの余裕はどこから来るんだろう?


「ウィン、殴り合いが始まったら従魔を呼ぶ暇はなくなるぞ。」


ルルさんがさらに言葉を被せてくる。

しかし言ってることはその通りだ。

少し不安はあるが、従魔たちがいるのといないのとでは雲泥の差だ。

ルルさんの言葉に甘えて呼び出しておこう。


「従魔たち、全員、お願い!」


僕は一度に全員を召喚した。

上空に光の粒子が集まり、試合会場の舞台に舞い降りる。

しかし、なぜかいつもと展開が違う。

従魔たちは、僕の周りではなく、少し離れた所に出現した。


「ディーくん、どうしてそんな所に?」


僕は従魔たちのまとめ役のディーくんに質問した。


「あるじ〜、ごめんね〜、今回は協力できないんだよね〜」


えっ、どういうこと?

協力できない?

意味が分からないんですけど。


「ルルちゃんに買収されちゃったんだよね〜。だから中立で見てるね〜」


ええっ〜、従魔って買収されたりしちゃうの?

そんな話、聞いてないんですけど。



読んで頂いてありがとうございます。

徐々に読んで頂ける方が増え、励みになります。


誤字・脱字のご指摘、ありがとうございます。

ご感想を頂いた皆様、感謝いたします。

ブックマーク・評価を頂いた皆様、とても励みになります。

ありがとうございます。


次回投稿は2月28日(水)です。

よろしくお願いします。

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