229.悪の大魔王 vs 悪魔の軍団(準決勝:vs パサート)
見つけて頂いてありがとうございます。
第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(229)
【格闘大会編】
229.悪の大魔王 vs 悪魔の軍団(準決勝:vs パサート)
『改変』
僕にはそれ以外に状況を示す言葉が見つからなかった。
その変化は、目に見えるわけじゃない。
音が聞こえるわけでもない。
何らかの感触があるわけでもない。
でもただ変わっていくのが分かる。
確実に僕の周囲の全てのものが組み換えられていく。
僕を包む空気の組成が別のものになる。
空から降り注ぐ光がその性質を変える。
人々が発する言葉から意味が剥ぎ取られて行く。
時の流れが彷徨うように蛇行し始める。
これは、何だ?
魔法なのか?
精神作用系なのか?
物理阻害系なのか?
それとも幻想系?
目の前の相手ははっきり見えている。
何かを仕掛けられた以上対処しないといけない。
それは分かっているのに体が動かない。
動けないのではなく、「動く」という意思が「動く」という行為に繋がらない。
よしそれならクエストで魔法を発動すれば・・・・・
…従魔たち、ウィン様を助けて!…
僕が魔法を発動する直前、視界の中を特大の文字でメッセージが流れた。
おそらく「中の女性」から従魔たちに向けたSOS。
その救難信号に反応するかのように空から大量の光の粒子が降り注ぎ、続いてガラスが割れるような大きな音が試合会場に鳴り響いた。
バリ〜ン。
気がつくと、僕の周囲には7人の従魔たちがいた。
僕とパサートさんの間に、僕を守るように立ち塞がっていた。
「おやおや、まだ完全体ではないあなた達に破壊されるとは、私の魔法もまだまだ強度が足りませんね。」
パサートさんはそう言いながら、従魔たちに笑いかけた。
「完全じゃないのはお互い様なの〜。弱々しすぎて、誰だか気付かなかったの〜」
「そうだよね〜。あるじ〜、ごめんね〜。こいつだって気付いてたらもっと早く対処したんだけど。」
タコさんとディーくんがパサートさんの方を向いたままそんなことを言った。
どうやら従魔たちはパサートさんのことを知ってるようだ。
「いやいや、ひどい言われようでございますね。まあ仕方がありません。まだ再生率は1割程度ですし。」
「1割ね〜。相変わらず嘘つきだね〜。もうちょっと戻ってるんじゃないのかな〜。でもどうしてこの世界にいるの〜? 消滅させたはずなんだけど。」
再生・・・
消滅・・・
パサートさんとディーくんのやり取りから推察すると、従魔たちとパサートさんは過去に戦ったことがあるんだろう。
その時従魔たちはパサートさんを消滅させたつもりだった。
でも実際は生き残っていて現在再生中。
そういう流れか。
そしておそらくそこに僕も絡んでいる。
抜け落ちた記憶の中に、その出来事が含まれているに違いない。
「あの時は本当にギリギリでございました。最後の最後に細い魔力の糸を何とかあなた達に結びつけて、この世界に逃れたのでございます。」
「そうなの〜? 引っ張ってきちゃったのか〜。失敗しちゃったな〜。まあこっちもみんなギリギリだったしね〜。」
この世界に逃れた?
つまり別の世界からこちらに来たということ。
でも僕の記憶に残る前の世界では、そんなことはあり得ない。
ということは、間にもう一つ別の世界が挟まっていることになる。
ディーくんの『みんなギリギリだった』発言と組み合わせると、僕と従魔たちはパサートさんと別の世界で戦って、ボロボロになりながら勝利し、何らかの理由でその世界からこちらの世界に移動した。
その時に消滅寸前のパサートさんも着いて来た。
そういうことだろう。
「前の話はどうでもいいの〜。問題は何をしに来たかなの〜。そっちがやるっていうなら、やってやるの〜。」
「リン(主人)、リン(守る)。」
タコさんがクルクル回りながら気勢を上げている。
スラちゃんは腕輪の姿になって僕の左腕に収まった。
他の従魔たちもそれぞれの位置からパサートさんに警戒の視線を向けている。
「まあまあ落ち着いて下さい。特に他意はございませんよ。懐かしい方々と少々遊んでみたくなっただけでございます。」
「悪の大魔王にそんなこと言われてもね〜。判断に苦しむよね〜。」
クマさんの言葉にパサートさんは苦笑しながら答える。
「今は『王』ではございません。この世界では孤独な吟遊詩人でございますので。それに善悪の判定は、立場によって異なるものではございませんか。」
確かに善悪の判断は難しいよね。
こちらにとってパサートさんは『悪の大魔王』だったのかもしれないけど、パサートさんにとってはこちらが『悪魔の軍団』だったのかもしれないし。
「ところでウィン様、試合は続行中ですがどうされますか? 決着はつけるべきかと愚行いたします。」
そうだった。
これは格闘大会の準決勝。
因縁のある相手でも話し込んでる場合じゃない。
でも正直なところ、あのよく分からない魔法、ヤバ過ぎるよね。
従魔たちが破壊してくれなければどうなっていたか。
あの時、もう少しで魔法を発動しようといてたんだけど、まずかったのかな。
「中の女性」、慌てて止めた感じだったからね。
…ウィン様、あの魔法に囚われた状態で自らの魔法を発動してはいけません…
心の中で疑問を抱いていると「中の女性」からメッセージが流れた。
(理由を教えてくれる?)
…ウィン様、あの魔法は道理を捻じ曲げる魔法。あの中で魔法を発動すると、ご自分に跳ね返ります…
(なるほど。だから今までの対戦者は『自爆』したんだね。)
…その通りです…
(防ぐ方法はある?)
…それは・・・まだ・・・・・…
「中の女性」が珍しく口篭ってしまった。
まだってことは、方法はあるけどまだ習得できてないってことかな。
それとも方法自体、まだ見つかってないってことか。
そんなことを考えていると、パサートさんが声をかけてきた。
「さて、試合を再開いたしましょうか。」
「そうですね。観客たちも待ってますしね。」
そう答えるとパサートさんは、なぜか懐かしいものを見るような眼差しで僕を見つめてきた。
「ウィン様、私の魔法を体感しても余裕でございますね。」
「いえいえ余裕なんて無いです。でも逃げるわけにも行かないし。」
「単なる試合でございますので、逃げても問題ないかと。」
「まあ、そうなんだけど・・・逃げて負けるより戦って負けたいかなと。」
「まったく、ソウルの本質というものは、なかなか変化しないものでございますね。」
「ソウル?」
「こちらの話でございます。では参ります。」
パサートさんはそう言うと、再びリュートをかき鳴らした。
(@#$%^&*)
リュートの音色とは別に、例の謎の音が僕の心の中に直接響く。
防ぎ方が分からないので、避けようもない。
このままだと謎の音が無限に増殖してしまう。
そして世界のルールを変えてしまう。
従魔たちはもう一度この魔法を破壊できるんだろうか?
そんなことを考えていると、突然金色の光が僕を包み込んだ。
「リン(主人)、リン(守る)!」
声がした方に視線を移すと、僕の左腕でスラちゃんが金色に輝いていた。
読んで頂いてありがとうございます。
徐々に読んで頂ける方が増え、励みになります。
誤字・脱字のご指摘、ありがとうございます。
ご感想を頂いた皆様、感謝いたします。
ブックマーク・評価を頂いた皆様、とても励みになります。
ありがとうございます。
次回投稿は2月21日(水)です。
よろしくお願いします。




