228.派手な服装のあの人(準決勝:vs ノックス)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(228)
【格闘大会編】
228.派手な服装のあの人(準決勝:vs ノックス)
「さあ、格闘大会も大詰めに近付いて参りました。試合会場内に残る格闘士は4人。この中から決勝に進むのは果たして誰になるのか。これから準決勝を開始させて頂きます。」
司会者の宣言と共に満員の観客席から大きな歓声が湧き上がった。
いつの間にか、ほとんどの観客がポンポンを持っている。
それも青ポンポンと白ポンポンをひとつずつ。
今は、両方の色のポンポンが盛大に振られている。
メインスタンド前の選手席は、既に準決勝仕様にセッティングし直されて、椅子の数は4つになっていた。
そしてそれぞれの椅子には準決勝に残った4人が着席している。
メインスタンドから見て、右端に『宵闇の魔道士』ノックス。
黒いフードを目深に被り、うつむき加減の姿勢で微動だにしない。
周囲にはまったく関心が無いようだ。
その隣は『パワー系の人』に勝利した『スピード系の人』。
(ごめんなさい。名前覚えてません)。
何かとても落ち着かない感じでソワソワしている。
まあたぶん隣にいる女性のことが気になってるんだろう。
スピード系の人の隣には『孤高の聖女(戦闘狂の聖女)』ルル。
腕を組んでどっかりと椅子に座わりちょっとイラついた表情をしている。
準々決勝の戦いが物足りなかったんだろうね。
もう少し聖女らしい座り方をすればいいのに。
最後の左端に肩書がやたらと長い僕。
司会者の方を見たり、観客席を眺めたり、準決勝出場者の姿を順番に確認したりしている。
あっ、周りから見たら一番落ち着きがないのは僕かもしれない。
ところで準決勝の組み合わせはどうなるんだろう?
これまでの流れからすると、たぶん僕の試合が先に組まれる気がする。
まあ連戦になっても、疲れや怪我は『ヒール』で治せるので順番はどうでもいいんだけどね。
観客たちの歓声のヴォリュームがだんだん小さくなっていく。
元気よく振られていた青と白のポンポンも落ち着きを取り戻す。
そして一瞬の静寂が訪れる。
次の展開への期待感が詰まった静寂だ。
そのタイミングを見事に捉えて、司会者が準決勝の対戦者の紹介に入った。
「それでは準決勝第1試合の対戦カードを発表いたします。まず一人目は、ここまで謎の魔法で対戦相手を全て『自爆』させてきた『宵闇の魔道士』、ノックス!」
司会者のコールに対して、観客席からは一種異様などよめきが上がった。
ここまで勝ち残った者に対する反応としては珍しい。
確かに見た目は黒尽くめで顔も隠していて不気味だけど、戦い方も変わってるんだろうか。
そう言えば司会者の人、『自爆』って言ってたよな。
『自爆』って何だ?
「そして対するのは、予選ラウンドから強敵を次々に粉砕し、聖女様と並んで一躍優勝候補の筆頭に躍り出た『謎が謎を呼ぶ七色魔法の空飛ぶ神テイマー』、青ポンポンのウィン!」
『自爆』のことを考えていると、司会者が僕の名前を力強く叫んだ。
途端に観客席が青いポンポンで埋め尽くされる。
こちらから見てると結構凄い光景だ。
だけど・・・・・
司会者さん、肩書が長いのはもう諦めましたが、『青ポンポンのウィン』はないんじゃないかな。
ちょっと気合いが抜けちゃうんですけど。
そう言えば司会者さん、ポンポンって呼び名、どうして知ってるんだろう。
僕はまだ教えてないのに。
そんなことを考えながら円形の舞台に上がると、既にノックスさんがそこで待っていた。
いつの間に移動したんだろう。
これは『転移』持ちの可能性も頭に入れておかないとな。
ノックスさんは相変わらず黒いローブに黒いフードを被っていて、その表情はまったく見えない。
『宵闇の魔道士』ってことは、『闇魔法』とか使うのかな。
でも『闇魔法』って見たことないし、どんなものか全然分からない。
相手の事前情報がほとんど無いので、僕はノックスさんに人物鑑定をかけてみることにした。
(鑑定。)
カキン。
えっ?
今、『人物鑑定』が跳ね返された?
どういうこと?
『隠蔽』や『偽装』で完全には見えないことはあったけど、まったく鑑定が通らないのは初めてだ。
「ウィン様、もう少し威力と精度を上げませんと、私に鑑定は通りませんよ。」
正面にいるノックスさんからそんな言葉が響いてきた。
まさか喋るとは思ってなかったので、かなり驚いてしまった。
でも待てよ。
この声、どこかで聞いたことがある気がする。
「もちろん私は喋りますし、というより今は語るのがお仕事ですし、ウィン様がこの声に聞き覚えがあるのも当然でございます。」
うわっ、心の中も読まれてる。
『念話』かそれ以外の心を読むスキルを持ってるってことだよね。
それに今の話の内容でノックスさんの正体が分かってしまった。
でも『語り部』なのに戦闘もこなされるんですね。
「はい左様でございます。ご理解頂けたなら、姿を隠す必要もございませんね。」
ノックスさんはそう言うと、ローブに隠れていた両腕を左右に広げた。
黒いローブと黒いフードが一瞬で消滅する。
そして中の人物がその姿を表した。
長い銀髪にカラフルな羽飾りの付いた大きな帽子。
薄いピンク色の瞳に青白い肌。
緑色の服に金色のベルト。
背中にリュートを背負っている。
そう、ノックスさんの正体は、コロンバールからアマレパークスに向かう船上で遭遇した魔族、吟遊詩人のパサートさんだ。
「ウィン様、私の名前を覚えていて下さって感謝申し上げます。」
やっぱり心を読まれてる。
しかもほぼ完璧に。
これは戦う上でとんでもなく不利だ。
こちらの意図を事前に察知されてしまうんだから。
「ウィン様、そんなご心配は無用でございます。ウィン様にとってこれくらいのハンデはどうということもないでしょう。それに私たちの戦いはもっと別の次元でのものとなるでしょう。」
僕はパサートさんの語りを聞きながら慌てて前回の鑑定結果を見直した。
パサート(PASSATO)
名前 : パサート(不明) 男性
種族 : 魔族
職業 : 吟遊詩人・(不明)
スキル: (不明)
魔力 : (不明)
称号 : 『古の語り部』
友好度: (不明)
うん、分かってたけどまったく参考にならない。
おそらくあの時は、わざと見られても問題のない部分だけ僕に見せたんだろう。
でもパサートさんの言う『別の次元』って、どういう意味だろう。
「それではウィン様、そろそろ戦いを始めても構わないでしょうか?」
パサートさんの淡々とした問いかけに僕は無言で頷いた。
『威圧』のような圧迫感は全然感じないのに、なぜか声を出すことができない。
僕の了解の合図を確認したパサートさんは、ゆっくりと背中に背負ったリュートを体の前に回した。
そして右手の指先でひとつのコードをかき鳴らした。
次の瞬間、パサートさんの薄いピンクの瞳が濃い赤に変化したように見えた。
(@#$%^&*)
僕の心の中にパサートさんの声が直接響く。
7音で構成された短い言葉だ。
でも僕にはそれが言葉として認識できなかった。
認識が阻害されているのか、それとも元々僕には理解できない言語なのか。
(@#$%^&*@#$%^&*@#$%^&*・・・・・)
少し間を置いて、意味不明な呪文のような音が僕の心の中でリピートされ始めた。
7つの音の並びが途切れることなく延々と続いていく。
そしてそれは徐々に音量を上げていった。
((((@#$%^&*@#$%^&*@#$%^&*))))
やがてその奇妙な音の羅列は、時間差でいくつも発生し始め、僕の思考を済み済みまで塗りつぶし、最後には僕の外へと溢れ出した。
そして僕から溢れた音の洪水は、僕の周囲のすべてを『改変』し始めた。
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