226.『赤いダイナマイト』が炸裂しました(解説者:ネロ)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(226)
【格闘大会編】
226.『赤いダイナマイト』が炸裂しました(解説者:ネロ)
「勝者、ウィン! 見事『白銀の舞姫』アルジェを退けました。」
司会者の勝利宣言と共に大きな歓声が格闘技場を包み込む。
僕は歓声に応えるために右手を上げようとして、スラちゃんが左手首にいることを思い出し、左手を真上に突き上げた。
スラちゃんを讃える気持ちからの行動だったけど、一つ忘れてることがあった。
それは青いポンポンの存在だ。
「おおっと勝者ウィン、左手の青い物体を高々と掲げました。これに呼応して観客席から無数の青い何かが振られています。もの凄い数です。なんという光景でしょう。戦いだけではなく、パフォーマンスでも存在感を際立たせています。」
やっちまった。
従魔たちの罠にハマったかもしれない。
それにしても配り過ぎじゃね。
試合前はこんなに無かったと思うけど。
それから後で司会者の人に『ポンポン』って名前を教えてあげないとな。
『青い何か』じゃ伝えにくいだろうし。
「ところで解説のネロさん、今の試合を振り返ってもらえますか?」
司会者が解説者に話を振った。
あれっ?
この大会に解説者なんていたっけ?
それにネロさんって・・・・・。
まさかあのネロさん?
「おお、任せな。おいウィン、いい気になってんじゃねぇぞ。俺のお気に入りのアルジェちゃんに何してくれてんだぁ。アルジェちゃんの必殺技を潰しやがって。てめぇにゃ思いやりってぇもんがねぇのかよ。俺の大事なアルジェちゃんが可哀想だろぅが。」
やっぱり解説者は冒険者ギルドのギルド長だった。
あの『漆黒の魔爪』のネロさんだ。
でもネロさん、それ解説になってませんよね。
僕のことディスってるだけで。
それに公共の電波・・・じゃなくて拡声魔法でそんなことを言ったら問題が・・・・・
ドコッ
拡声魔法を通して格闘技場にダイナマイトの爆発音が響き渡った。
ほら、言わんこっちゃない。
『赤いダイナマイト』が炸裂しちゃったじゃないですか。
ネロさん、大丈夫ですか?
生きてます?
「痛ぇ。グラぁ、いくらなんでも後ろから不意打ちはマズいだろうがぁ。一瞬走馬灯が見えちまったじゃねぇか。」
ネロさんのぼやく声が聞こえた。
まあ、自業自得ですよね。
でもグラナータさんの不意打ちを後ろから喰らって生きてるなんて、さすがですネロさん。
「ネロさん、解説をお願いします。」
司会者がネロさんに再度解説を促す。
ネロさんとグラナータさん夫婦の痴話喧嘩を前にしてもこの冷静な対応。
司会者さん、相当修羅場を潜ってますね。
仕事に対する矜持といい、ちょっとファンになりそうです。
「おお、そうだったな。アルジェちゃんが使ったのは『変幻』による分身だな。8体も分身を作るたぁたまげた能力だ。攻撃は『針技』だな。この組み合わせならほとんどの相手は手も足も出ねぇだろうよ。」
ネロさんが、今度は割と真面目に解説を行った。
そしてその解説に司会者が呼応する。
「そうですね。昨日の予選ラウンドでは対戦者は全員、あっという間に戦闘不能になりましたから。しかも分身は1体だけでしたし。そうなりますと、8体の分身に対処し退けたウィン様はどのように戦ったのでしょうか?」
「ウィン? ウィンはもうどうでもいいんじゃねぇか。いろいろズルして勝っちまったって事でよぉ。」
ネロさん、その言い方はないんじゃないですか。
自分が負けたのまだ根に持ってますね。
その態度は解説者としても、冒険者ギルドのギルド長としてもどうかと思いますけど。
「ネロさん、解説をお願いします。」
司会者さんが再び同じセリフを繰り返す。
「しょうがねぇなぁ・・・。防御は体術、石魔法、転移魔法だな。あと魔力探知か。攻撃は氷魔法。以上だ。」
「ネロさん、もう少し詳しく解説をお願いします。」
ネロさん、短く切り上げようとしたけど、司会者さんが許してくれなかった。
もう諦めて普通に解説すればいいのに。
「面倒くせぇなぁ。たぶん最初はアルジェちゃんの分身を見破れなかったんじゃねぇか。だから体術と石魔法と転移魔法を駆使して逃げ回った。魔力探知じゃ本体が分からないくらいアルジェちゃんの分身がすごかったってぇ事だな。」
「ファースト・コンタクトでは、針がウィン様に刺さったように見えたのですが。」
「そうだな。あの針にはおそらく麻痺薬が塗ってあったんじゃねぇか。だがウィンには効果なし。つまりウィンは『麻痺耐性』持ってるってぇことだろう。さらに傷は『ヒール』で回復しやがった。」
ようやくネロさんが真面目に解説し始めた。
司会者も続けてネロさんに質問を振る。
「そうなんですね。ウィン様のスキルと魔法の多様さには驚愕を禁じ得ませんが、それでも見破れなかった分身をなぜ後半で攻略できたのでしょうか?」
「それはあれだな、途中で従魔を召喚しただろう。」
「えっ、従魔ですか? いつのことでしょう?」
あれ、スラちゃん呼んだの認識されてない?
言われてみれば、光の粒と腕輪だけじゃあ、普通の人は従魔召喚だと気付かないか。
「光の粒が舞って、ウィンの左手首に腕輪が現れただろう。あれは『スラちゃん』ってぇ従魔だ。スライムだな。」
「スライムの従魔が腕輪に? どういうことでしょうか?」
「スラちゃんは『擬態』持ちだ。腕輪に擬態してアルジェちゃんの本体がどこにいるか指示を出してたってぇことだな。」
「ネロさん、ちょっと待って下さい。スライムが『擬態』して『指示』を出すなんて、そんなスライムが存在するんですか?」
「普通はいねぇな。俺もスラちゃん以外にゃ知らねぇ。あとおそらく『生命力探知』も持ってるな。それでアルジェちゃんの本体を見破ったに違ぇねぇ。分身には生命力はねぇからな。」
ネロさんの解説は予想外に的を得ていた。
そこまでスラちゃんの能力を見抜くなんて、やっぱりネロさん、本当は凄い人なのかもしれない。
まあ冒険者ギルドのギルド長になる人だから凄くて当たり前だけど。
そう思いながら司会者の隣にいるネロさんの方を見ると、チラチラと手元の紙を気にしているのが見えた。
なるほど。
その紙は、シルフィさんにもらったカンペ(カンニング・ペーパー)ですね。
ネロさんのこと、ちょっと見直したのに損した気分です。
「ではネロさん、最後の質問ですが、アルジェさんはなぜ、途中で戦うのをやめて負けを認めたんでしょうか?」
「まぁそこは想像でしかねぇが、初めから分身が見破られるまでと決めてたんじゃねぇか。火力はウィンの方が圧倒的に上だからな。今回使ってねぇが、まだ『火魔法』も『風魔法』も『水魔法』も持ってやがる。まったく人として、ズルの頂点みてぇな野郎だ。」
ネロさんはそう解説を締め括った。
最後に人のことをディスって終わるあたり、ネロさんも徹底してる。
でも僕のスキルや魔法の内容をベラベラ喋るのは冒険者としての規範に外れてるんじゃないのかな。
あと、フェイスさんのこと『アルジェちゃん』と呼び続けてたけど、もしかして正体に気付いてない?
そんな事を思っていると、ネロさんが余計なコメントを付け足した。
「まあ何にしろ、ウィンのせいでアルジェちゃんの綺麗な顔に傷が付かなくて良かったってぇことだな。そこが一番大事・・・」
ドコッ
再び『赤いダイナマイト』が炸裂したのは言うまでもない。
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