225.3時はおやつの時間ではありません(生命力感知:スラちゃん)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(225)
【格闘大会編】
225.3時はおやつの時間ではありません(生命力感知:スラちゃん)
心の中でスラちゃんの魔物鑑定を確認してみる。
(スラちゃんのステータス)
種族名 : デアベル・スライム ☆☆☆☆
ベル・スライムの進化種。
体型 : 中型(一時的に変化可能)
体色 : 金色透明(一時的に変化可能)
食性 : 鉱石を食べる。(鉱石以外も時々食べる)
生息地 : あらゆる環境に適応する。
特徴 : 警戒心が強い。
敵意や害意を感知すると鈴の音で鳴く。
生命力を感知できる。
あらゆる物に擬態できる。
体内で錬金できる。
硬化時、物理・魔法共に無効。
各種結界を張れる。
逃げ足は早い。
特技 : 攻撃無効・擬態・逃げ足・錬金・結界・生命力感知
鉱物感知
特殊能力: 統率(自分より弱い魔物を従える)
あれ、なんか表示がちょっとずつ詳しくなってる気がする。
僕の『魔物鑑定』にはレベルや等級がないけど、隠しパラメーターで能力アップしてるのかもしれない。
中でも『統率』の説明がかなり物議を醸しそうな内容なんだけど。
自分より弱い魔物を従える?
スラちゃん、星4つだから星3つ以下の魔物は全部従えちゃう感じ?
それって、事実上『魔王』と呼んでもいいんじゃないかな。
まあ、従えるのに何か別の条件があるのかもしれないけど。
種族的な縛りとか、一度倒した魔物限定とか、精神力や知能が低い魔物だけとか。
思考がそんな脇道にそれていると、
「リン(3時)!」
スラちゃんから鋭い鳴き声が飛んだ。
僕は理解が追いつかず、それでも咄嗟に『転移陣』で大きく位置を変えた。
3時?
スラちゃん、それは何?
おやつの時間じゃないよね。
僕が念話でそんな間の抜けた質問をすると、すぐにスラちゃんから返事が来た。
「リン(本体)、リン(方向)!」
本体の方向?
ということは、時間じゃなくて軍隊式の方向表示?
つまり、「3時」は右方向ってことだね。
「リン(6時)!」
すぐにスラちゃんから次の指示が来たので、僕は即座に右側に飛び退き、振り向きざまに真後ろにいたフェイスさん目掛けて『氷矢』を発動した。
しかしフェイスさんは舞を舞うように軽やかにその『氷矢』を避けた。
避けたってことは、おそらくフェイスさんの本体だよな。
フェイクなら攻撃が当たっても関係ないはずだし。
「リン(9時)!」
僕はスラちゃんの指示に合わせて左に向かって『氷矢』を発動した。
左から飛来した『針』と『氷矢』がぶつかり、大きな衝突音が響く。
地面に落ちた『針』を見ると、間違いなく本物の『針』だった。
そこで僕の予想は確信に変わる。
スラちゃんなら、フェイスさんの本体を見破ることができると。
種明かしは簡単だ。
僕には魔力感知しかないけど、スラちゃんには生命力感知がある。
フェイクには、魔力はあるけど生命力はない。
生命力があるのはフェイスさん本体だけだ。
「リン(5時)!」
えっ、5時。
5時ってどの辺だっけ?
軍隊式の方向表示って、慣れてないと中途半端な方向には反応が遅れてしまう。
とあえず後ろの方だと判断して、左側に移動しつつ反転すると、すぐ横を『針」がかすめて行った。
危ない、危ない。
4時と5時は右斜め後ろだね。
落ち着いて考えればすぐに分かるけど、瞬時の判断はまだ無理だな。
3時(右)、6時(後)、9時(左)、12時(前)以外は、とりあえず転移で逃げよう。
「リン(2時)!」
転移!
「リン(10時)!」
転移!
「リン(8時)!」
転移!
「リン(12時)!」
ようやく分かりやすいターンが来た。
『前』を示すスラちゃんの鳴き声を聞いて、僕は正面のフェイスさんを視界に捉えた。
念の為、正面以外のフェイスさん(フェイク)の攻撃を『石壁』で防ぎつつ、正面のフェイスさん(本体)に『氷矢』を発動する。
しかも今回は、フェイスさんを取り囲むようにたくさんの『氷矢』を同時に飛ばした。
全方向から迫る『氷矢』に対して、フェイスさんは扇子を広げたままでクルリと一回転した。
フェイスさんを中心にして『針』が円状に散開しながら飛ぶ。
そしてその『針』がすべての『氷矢』を迎撃した。
すべての『氷矢』が砕け散り、すべての『針』が地面に落ちると、フェイスさんは舞うのをやめて佇んでいた。
フェイクのフェイスさんもすべて消え失せている。
「ウィン様、さすがです。私の奥義をあっさり見破ってしまわれるのですね。」
フェイスさんは戦闘を中断して、僕にそう語りかけた。
「いやいや、見破ったのはスラちゃんなので。」
僕は謙遜ではなく、本気でそう返した。
「ウィン様、それもテイマーの力です。」
フェイスさんは、従魔の能力もテイマーの力だと言う。
でも果たして本当にそうだろうか。
この類稀なる従魔たちは、本当に僕の力なんだろうか。
従魔たちの力が僕の力に含まれて評価されることに、僕自身はまったく納得していない。
この従魔たちがいれば、他の誰でも強くなれるんじゃないだろうか。
「ウィン様、納得できないようですが、それでは従魔たちが可哀想です。」
フェイスさんは、僕の表情を読み取ってそう伝えてきた。
「どうしてですか?」
「従魔のみなさんは、他の誰かではなくウィン様に従っているのです。そこに疑念を持つということは、従魔のみなさんの心を疑うことになります。」
それはそうなんですけど・・・・・。
そこは理解もしているし、従魔たちに感謝もしてるんですが・・・。「はじまりの島」で、何が何だかよく分からない状況で従魔たちを得たので、いまいち「自分の力」という部分に躊躇いがあるんですよね。
それに従魔になった動機が、食べ物メインだったような気がして・・・。
まあ、タコさん、ウサくん、スラちゃん以外とはちゃんと戦いましたけど。
「それにしても残念です。」
僕がうだうだと考えていると、フェイスさんが突然落胆した表情でそうつぶやいた。
「どうしたんですか?」
「もう少しやれると思ったんですが。」
珍しくフェイスさんが悔しさを表情に出している。
フェイスさんでも、感情を露わにすることがあるんですね。
まあ、自分の奥義を見破られれば、当然の反応かもしれないですけど。
「スラちゃんだけなんて・・・悔しいです。」
「え〜と、どういうことでしょうか?」
「もう少し従魔さんたちを呼び出してもらうつもりだったので。」
「え〜と、もう一度、どういうことでしょうか?」
僕はフェイスさんの言わんとするところが今一つ理解できずに尋ね返した。
「ウィン様とディーくんの共闘はグラナータ様との試合で拝見いたしました。」
「そうですね。」
「ウィン様とスラちゃんの共闘する姿は、この目に焼き付けました。」
「そう・・・でしょうね。」
僕はフェイスさんの言葉使いに少し不穏なものを感じながらも肯定した。
なんか嫌な予感がする。
「ウサくん、タコさん、コンちゃん、ハニちゃん、ラクちゃんとウィン様が共闘する姿はまだ見ていません。」
「そう・・・かもしれません。」
「これでは、コンプリートに程遠いです。」
コンプリート?
フェイスさん、何を目指してるんでしょうか?
僕と従魔たちが共闘する姿を見るためだけに、コンゲムさんを脅迫してまでこの大会に参加したんですか?
「仕方がないので、この後の対戦者の方たちに期待することにします。」
「え〜と・・・」
「『九尾幻想』を使えば3人くらいは呼び出してもらえると思ってたんですが。」
「フェイスさん?」
「ウィン様はたいてい一人で戦ってしまわれるので、従魔さんたちとの共闘姿はレア・アイテムなんです。」
「・・・・・」
僕は言葉を失った。
レア・アイテム?
アイテムの使い方って、それでいいんでしたっけ?
話がどんどん拗れていってる気がしますけど、これ、格闘大会の準々決勝ですよね。
試合はどうなってしまったんでしょうか。
そんな風に僕が困惑していると、フェイスさんが扇子を開いて、そのまま自分の前の地面に置いた。
そして司会者席の方に向かって一礼した。
その動作と同時に、司会者が僕の勝利を宣言した。
今ので敗北宣言になるのか。
なんか、変な勝ち方ばっかりだけど、これでいいのかな?
僕の疑問は勝利宣言に続く大歓声でかき消された。
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