224.フェイスさんの戦い方(9人のフェイス)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(224)
【格闘大会編】
224.フェイスさんの戦い方( 9人のフェイス)
(アルジェの鑑定結果)
名前 : フェイス(?歳) 女性
種族 : 獣人族(九尾狐獣人)
職業 : 密偵・針使い・ウィンギルド会員
スキル: 全感知・隠蔽(極)・変幻・変声・敏捷・演技・針技
魔力 : 498
称号 : 『顔無し』『ウィンを愛でる者』
友好度: 100
信頼度: 90
フェイスさん(アルジェに偽装中)のステータスを改めて確認してみた。
諜報系としてはこれ以上ないほどのスキルが揃ってるけど、よく見ると戦闘系としてもかなり厄介な能力ばかりだと分かる。
『全感知』で攻撃を見切られ、『隠蔽(極)』と『変幻』で惑わされ、『敏捷』と『針技』で仕留められる。
うん、負け筋は完全に見えたな。
勝ち筋は・・・・・今のところ五里霧中(全然見えない)。
とりあえず戦いながら探るしかないか。
こうなると、昨日の試合を観戦しておくべきだった。
そうすれば少しでもフェイスさんの戦い方が分かったのに。
ルルさんの「いきなり戦う方が楽しめる」って思考に引っ張られて、ルルさん以外の試合は一切見てないからな。
「ウィン様、準備はよろしいですか?」
考え込んでいる僕に対して、フェイスさんが確認してきた。
僕は意識を目の前の相手に切り替えて、ゆっくり頷く。
それを見たフェイスさんが扇子を持った右手を真上に上げる。
「それでは、決勝ラウンド緒戦、ウィン対アルジェ、試合開始!」
フェイスさんの合図に合わせて、司会者が大きな声で叫んだ。
* * * * *
試合開始と同時に、フェイスさんが高く掲げた右手を振り下ろした。
次の瞬間、氷の礫が僕に向かって飛翔する。
あれっ、フェイスさんに氷魔法はないはず。
僕は意表を突かれながらも、ギリギリその攻撃を避けた。
後方で氷の礫が地面に着弾する。
次の攻撃に注意しながら着弾地点をチラリと確認すると、そこには数本の針が突き刺さっていた。
針を氷の礫に偽装したのか。
でもなぜ?
疑問を抱きながらもすぐに視線をフェイスさんに戻すと、その一瞬でフェイスさんの姿は消えていた。
僕の意識を少しでも外して、その隙に『隠蔽(極)』で姿を消したんだろう。
でも僕には『魔力感知』がある。
僕は素早く体を移動させながら、フェイスさんの魔力を探した。
斜め後方に魔力の塊がある。
僕はその場所に向けて『氷矢』を発動した。
もちろんこれくらいは簡単に避けられるだろうけど、最初の氷の礫に対する返礼くらいの気持ちだった。
しかし予想に反して、氷の矢は僕が感知した魔力の塊に命中した。
そしてその魔力は、フェイスさんの姿に変わり、彼女はガクリと膝をついた。
えっ、うそ?
そんな簡単に?
そう思った瞬間、背後から何かが迫る気配がした。
僕はすぐに『転移陣』を発動したけど、予想していなかった分、対応が遅れてしまった。
転移後に左腕を見ると、針が3本刺さっていた。
僕はすぐに針を引き抜いて『ヒール』をかける。
左腕の傷はすぐに回復した。
でも今のはいったい何が起こったんだろう。
フェイスさんは膝をついていたのに、反対側から針が飛んできた。
『針技』にそんな能力があるんだろうか。
そんなことを考えつつも針が飛んで来た方を確認すると、そこにうっすらと魔力があることに気づいた。
そしてその魔力は徐々に濃くなり、フェイスさんの姿に変化した。
咄嗟に後ろのフェイスさんを見ると、その姿は霧のように消えてしまった。
「予想はしてましたが、ウィン様、麻痺に耐性がありますね。」
実体化したフェイスさんがそう尋ねてくる。
「はい、麻痺無効、持ってます。」
僕は正直に答えた。
「さすがです。では、毒も効かないでしょうね。」
「はい、毒無効も持ってます。」
そう答えると、心なしかフェイスさんの緑色の瞳がトロンとしたように見えた。
「傷も消えたようですが、治癒持ちですか?」
「ヒール持ちです。」
「素敵です。やはり、戦ってみて正解でした。ただ観察しているより、情報量が桁違いです。」
フェイスさん、コンゲムさんを脅迫してまでこの大会に参加した理由はそれなんですね。
なんて言うか、アクティブ過ぎるストーカーですね。
「フェイスさん、さっきの消えちゃったフェイスさんは何だったんですか?」
こちらだけ情報開示するのも不公平に感じたので、僕からもフェイスさんに質問してみた。
「ああ、あれはフェイクです。『変幻』の応用ですね。自分の魔力を自分自身のように見せているだけです。」
「分身の術、みたいな?」
「まあ、そうですね。ですからこんな事もできます。」
フェイスさんがそう言うと、僕の周囲にいくつもの魔力の塊が現れ、それらは全てフェイスさんの姿に変化した。
「凄い、フェイスさんが9人。」
「はい、九尾の狐ですので、9人でお相手させて頂きます。」
それが戦闘再開の合図だった。
僕をグルリと円形に取り囲んだ9人のフェイスさんたちが、一斉に動き出す。
あっという間に、本体がどこにいるのか分からなくなってしまった。
僕は『魔力感知』を使って、本体を見極められないか試すことにした。
本体とフェイクで魔力の濃さに違いがあるはずだと思ったからだ。
しかし、それは甘い考えだった。
9人のフェイスさんの魔力は、すべて濃さが違っていた。
同じ濃さに偽装するのではなく、わざとバラバラにしているんだろう。
これではどれが本体なのか判別の仕様がない。。
さすがフェイスさんだよな。
超一流の『変幻』使いは、戦略も超一流ってことだよね。
ポッと出の僕では、対応は無理かもしれない。
9人のフェイスさんが僕の周囲で舞を踊るように動き回る。
そして右手の扇子を振ると、無数の針が僕に向かって飛んでくる。
僕は体術と『石壁』と『転移』を併用しながら、とにかく針攻撃を避け続けた。
フェイスさんの能力からすれば、フェイクの針には攻撃力はないと思う。
でも万が一がある。
それに『魔力感知』では、針攻撃も本物とフェイクの見分けがつかない。
結局すべての針を避ける以外に選択肢がない状況だ。
『ヒール』があるから、針攻撃を多少食らっても大丈夫かな。
そんな考えが頭に浮かんだが、すぐに思い直す。
いや、針の効果が『麻痺』や『毒』だけとは限らないし。
僕に耐性のない効果が付与されてる可能性もある。
『石化』とか、『睡眠』とか、『混乱』とか、『暗闇』とか。
状態異常も『ヒール』で解除できるけど、瞬時に意識を奪われればそこでジ・エンドだ。
そんなことを考えながらも、防戦一方では勝ち筋がないので、僕はフェイスさんの攻撃の隙を探す。
でも9人の連続攻撃はほとんど僕に時間を与えてくれない。
これは完全に手詰まりかもしれない。
やっぱり今回も最後の手段を使うしかないようだ。
最後の手段、即ち、困った時の従魔頼み。
ということで僕は逃げ回りながら大きな声で叫んだ。
「お願い、スラちゃん!」
僕の魂の叫びに答えて、光の粒が空から舞い降り、僕の左手首を包み込んだ。
そしてその光の中から、腕輪型スラちゃんが現れた。
なぜか、青いポンポンをひとつ付けたままで。
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