223.コンゲムさんの刺客?(準々決勝:『白銀の舞姫』アルジェ)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(223)
【格闘大会編】
223.コンゲムさんの刺客?(準々決勝: 『白銀の舞姫』アルジェ)
格闘大会決勝ラウンド当日。
コロン格闘場の周囲は、前日を遥かに超えるたくさんの観客で溢れ返っていた。
「ルルさん、これ、凄いですね。」
「そうだな。暇なヤツがいっぱいいるものだな。」
「ていうか、これ、格闘場に入り切れませんよね。」
「まあ、無理だろうな。」
ルルさんと僕は人混みの中をかき分けながら、格闘場の選手入口に向かって歩いていた。
中に入れない人たちはどうするんだろう?
前の世界みたいにパブリックビューイングとかないだろうし。
格闘場の周囲の屋台でお酒でも飲みながら雰囲気だけ楽しむんだろうか。
そんなことを考えていると、どこからともなく大きな音声が響き渡った。
「コロン格闘場にお越しの皆様、わざわざお運び下さりありがとうございます。誠に申し訳ありませんが、格闘場内はすでに満席でございます。つきましては、試合中は、場外にいらっしゃるお客様に向けまして、音声による『特別実況中継』を行ないたいと思います。激戦を直接ご覧頂けないのは誠に恐縮ではございますが、熱い戦いの成り行きを言葉による物語としてお楽しみ頂ければ幸いです。よろしくお願い致します。」
昨日の司会者もそうだったけど、「拡声」の魔法かスキルがあるんだろうか。
普通ではあり得ない大音量で、入場できない人たちに対して、お詫びと音声による実況中継のお知らせが伝えられた。
まあこの状態で放置すると、中に入れない人たちの不満が爆発するかもしれないし、格闘士ギルドとしては苦肉の対策なんだろうな。
「ウィン、さあ中に入るぞ。」
「はい。」
場外に溢れる群衆をボーッと見ていると、ルルさんから入場を促された。
僕はルルさんの方を振り返り、その後ろについて選手入口から格闘場内に入った。
昨日と同様に選手控え室で待機かと思っていたら、係の人はルルさんと僕をそのまま試合会場まで先導した。
まさかいきなり試合?
しかもルルさんと対戦?
まだ心の準備が・・・・・
そんな風に内心で慌てていると、どうもそうではないようだ。
決勝ラウンドは、昨日とは段取りが違うらしい。
試合会場に出る四角い出入口をくぐると、会場の作りが変更されていた。
格闘場の中央に大きく円形のステージが作られ、どうやらそこが試合会場となるようだ。
そしてそのステージの周りには、新たに観客席が設置されていた。
これって、いわゆる『アリーナ席』だよな。
でも試合中、魔法とか飛んで来たりして危なくないんだろうか。
まあさすがに対策はしてるんだろうけど。
あっ、アリーナ席の最前列にウィンギルドのメンバーと従魔たちが座ってる。
ジャコモさんやネロさんが権力と実力とコネを活用して、あの席を確保したんだろうな。
いやむしろ、この『アリーナ席』自体、ジャコモさんの提案かもしれない。
ジャコモさんのことだから、『アリーナ席』の販売権をギルドから買い取り、プレミアを付けてお金持ちに売り捌いたりしたんじゃないだろうか。
ジャコモさん、商売の種があれば、どこでも抜かりなくお金を稼ぐ商売人だからな。
「ウィン、出場者はあそこに座るみたいだぞ。」
『アリーナ席』について、余計なことを考えていると、ルルさんが前方を指差してそう言った。
その指の先には、一段高い台の上に8人分の席が用意されていた。
円形の試合会場とメインスタンドの中間あたりだ。
すでに6人が着席しており、ルルさんと僕が最後のようだ。
僕はその席に向かって歩きながら座っている6人を眺めた。
決勝ラウンドに残ったメンバーだけに、強そうな人物が揃っている。
ただ、端にいる2人だけは黒いローブを着て頭からすっぽりフードを被っているのでその容姿を確認できない。
まあどう考えても、彼らがコンゲムさんが特別出場させた2人だろうけど。
「今日は、少しは楽しめそうだな。」
隣でルルさんがちょっと嬉しそうに呟く。
ルルさん、昨日は4試合すべてワンパンだったみたいだし・・・。
ルルさんの気持ちも分からなくはないですけど、僕としてはあんまり強い相手とやりたくないです。
「皆様、お待たせ致しました。それではこれより格闘大会決勝ラウンドを開始させて頂きます。」
ルルさんと僕が席に着くと、すぐに司会者が決勝ラウンド開始を高らかに宣言した。
アリーナ席を含め、超満員の観衆から大きな歓声が上がる。
特にアリーナ席では、青と白のポンポンが至る所で揺れている。
これは・・・タコさんが大量に配りまくったに違いない。
「それでは早速、準々決勝1回戦を行ないたいと思います。本日の開幕戦を飾るカードは・・・」
そこで司会者は思わせぶりに間を置いた。
歓声のボルテージが一際高くなる。
「数々の強敵を倒し決勝ラウンドに駒を進めた、『謎が謎を呼ぶ七色魔法の空飛ぶ神テイマー』ウィン!」
コールと共に大歓声が上がり、青いポンポンが一斉に振られる。
よく見ると、アリーナ席だけではなく、観客席でもかなりの数の青いポンポンが揺れている。
タコさん、どんだけ配ったの?
ていうか、ラクちゃんどんだけ作ったの?
それにしても、いきなり僕の出番なんですね。
そして肩書は長いままなんですね。
いえ、不満はありません。
肩書はそのままで大丈夫です。
それ以上長くはしないで下さい。
心の底からお願いします。
「そして戦いの口火を切るもう1人は・・・」
歓声が落ち着いたタイミングで司会者が対戦相手のコールに入った。
観客のテンションが再び盛り上がる。
相手は誰でも構いませんよ。
まあほぼ予想はつきますけど。
ルルさんか、そうでなければ黒フードのどちらかですよね。
「昨日の戦いですべての相手を戦闘不能に陥れた『白銀の舞姫』アルジェ!」
名前が呼ばれると黒フードの1人がスラリと立ち上がった。
そして大きな歓声が響き渡る中、フードとローブを脱ぎ捨てた。
中から現れたのは、銀髪に真っ白な肌の女性だった。
服装は真っ白な巫女服のようなものを着ている。
あれが戦闘用の衣装なんだろうか?
まあ、僕の服装も黒いジーンズに白いシャツなので、人のことは言えないけどね。
アルジェと紹介されたその女性は僕の方を見て、ニッコリと微笑んだ。
見た目から判断するとおそらくヒト族。
右手に扇子のようなものを持っている。
とりあえず鑑定してみるか。
いやちょっと待てよ。
僕は思い直して、彼女の緑色の瞳を見つめ返した。
えーと、フェイスさん、そこで何をしてるんですか?
偽装してるけど、その瞳はどう見てもフェイスさんですよね。
まあ100歩譲って、格闘大会に参加することは個人の自由なので仕方ないですけど・・・
コンゲムさんの刺客ってのが理解できません。
僕は少し混乱しながら、係員に促されて試合会場のステージに上がった。
一拍遅れてフェイス・・・アルジェさんが僕の向かい側に立つ。
僕は我慢できずにアルジェさんに向かって声をかけた。
「アルジェさん、面倒なのでフェイスさんって呼んでもいいですか?」
「はい、ウィン様。バレバレですよね。別にウィン様の目を誤魔化すための変装ではないので構いません。」
アルジェさん・・・に変装したフェイスさんは僕の言葉に淡々と返事を返した。
「一つ質問してもいいですか?」
「はいどうぞ、ウィン様。」
「どうしてコンゲムさんの刺客をやってるんですか?」
「ウィン様、それはちょっと違います。」
「コンゲムさんに頼まれた訳ではないと?」
「はい、むしろ逆です。コン狐を脅して無理やり出場させて頂きました。」
コンゲムさんを脅迫したの?
つまりこの一戦は、コンゲムさんが仕込んだのではなく、フェイスさんが仕込んだってこと?
諜報ギルドのエースのフェイスさんが、僕と戦う理由ってないと思うんだけど。
「フェイスさん、理由を伺ってもいいですか?」
「もちろん、理由は言うまでもなく・・・」
「言うまでもなく?」
「趣味です。」
フェイスさんはさも当然のようにそう答えた。
趣味ですか。
そうだよね。
そういう人だよね、フェイスさんって。
グラナータさん、ネロさんと来て、次はフェイスさんか。
そういう人たちばっかりだよね、僕の周りって。
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