221.痴話喧嘩ということは・・・(ネロとグラナータ)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(221)
【格闘大会編】
221.痴話喧嘩ということは・・・(ネロとグラナータ)
ルルさんの今日最後の試合は、それまでの試合と同じく瞬殺で終わったようだ。
ルルさんは、係の人に呼ばれて格闘場に出て行ったと思ったら、すぐに憮然とした表情で戻って来た。
試合時間がこんなに短いと、聖女様目当てでやって来た観客の人たちからクレームが出るんじゃないだろうか。
グラナータさんとネロさんの2人は、いつの間にか静かな話し合いに移行してる。
聞こえてくる単語が、「ギルド運営」とか「事務処理」とか「勤務態度」とかになってるので、どうやら仕事の話をしてるようだ。
でもどう見ても、グラナータさんがネロさんを説教してるような雰囲気。
まあ、そういう力関係なんだろう。
…ウィン様、そろそろクエストを表示しても構いませんか?…
僕が誰とも話していないタイミングを見計らっていたのか、「中の女性」からメッセージが流れた。
クエスト表示?
何のクエストだろう?
…それでは達成済み及び継続中のクエストを表示いたします…
○斬撃耐性クエスト
クエスト : 斬られろ①
報酬 : 斬撃耐性(小)
達成目標 : 強い斬撃を受ける(10回)
カウント : 38/10
クエスト : 斬られろ②
報酬 : 斬撃耐性(中)
達成目標 : 強い斬撃を受ける(25回)
カウント : 38/25
クエスト : 斬られろ③
報酬 : 斬撃耐性(大)
達成目標 : 強い斬撃を受ける(50回)
カウント : 38/50
ああ、斬撃耐性のクエスト、やっぱりあったんだね。
ネロさんの「高所恐怖症」問題で、すっかり忘れてたけど、戦闘中はかなりネロさんの『漆黒の魔爪』で切り刻まれてたからな。
現在のカウントが38/50ってことは、あと12回斬撃を受けると『斬撃耐性(大)』になるのか。
他の耐性系クエストの例からすると、カウント100で『斬撃無効』を獲得できるはず。
早めに無効まで行きたいけど、ルルさんに斬撃を頼むのはイヤだなぁ。
従魔に頼もうかな。
だとするとディーくんの剣かラクちゃんの鎌だよな。
腕を組んだままでそんなことを考えていると、格闘場から戻って来たルルさんが声をかけてきた。
「ウィン、見えない友達との会話は終わったのか?」
「ルルさん、その言い方、やめてもらえませんか。他の人が聞いたら、僕が変な人みたいじゃないですか?」
「ウィン、自覚がないのか。すでに変な人だぞ。」
ルルさん、僕もそんな気がしていなかった訳じゃありませんけど、ど真ん中に直球で投げ込まなくても良くないですか。
人間、真綿に包んで優しく伝えることも大事だと思います。
「そんなことより、グラナータとネロの痴話喧嘩は終わったのか?」
「痴話喧嘩?」
ルルさんの言葉使いって、独特でよく分からないことも多いけど、これも何かの言い間違いだろうか。
ネロさんとグラナータさんの言い争いがなぜ「痴話喧嘩」になるんだろう。
そう思って2人の会話に耳を澄ましてみると、ちょっと前まで仕事に関する単語が聞こえていたのに、いつの間にか言葉の種類が変化していた。
「料理の味付け」がどうとか、「皿洗いの担当」がどうとか、「寝起きが悪すぎる」とか、「使ったものは元の場所へ」とか・・・。
「ルルさん、ルルさん、ネロさんとグラナータさんって・・・」
「夫婦だが、どうかしたのか?」
「えー!」
聞いてないんですけど・・・そんな話。
いや、妙に仲がいいなとは思ってました。
グラナータさん、副ギルド長なのにネロさんのこと「馬鹿ギルド長」呼ばわりしてたし。
ネロさんはネロさんで、グラナータさんのこと「グラ」(たぶん愛称?)呼びだし。
でもまさか冒険者ギルドのギルド長と副ギルド長が夫婦とは思わないよね。
まあ、お互いに自分より弱いヤツは嫌だとか思っている内に、そういう組み合わせになったのかもしれないけど。
「グラナータとネロはな、元々同じパーティー出身だ。」
「ということは付き合いは長いんですか?」
「そうだな。アンソロでは有名だった。」
「アンソロ?」
「ああ、獣人族の国だ。」
「ネロさんはそこの出身なんですか?」
「そうだ。グラナータはこの国の出身だがな。」
ドワーフの国「コロンバール」出身のグラナータさん。
獣人の国「アンソロ」出身のネロさん。
どこでどうやって出会ったのか。
なぜアンソロでパーティーを組んでいたのか。
なぜコロンバールでギルド長と副ギルド長をしているのか。
どういう経緯で結婚したのか。
やばい、聞きたいことがてんこ盛りだ。
でも直接聞いても教えてくれないだろうな。
こんな時は「お願いフェイスさん(諜報ギルドのエース)」だけど、フェイスさん、どこに行ったのか全然見当たらないんだよね。
「ウィン、グラナータとネロのことなら私が教えてやるぞ。」
僕がキョロキョロとフェイスさんを探していると、ルルさんがそう言ってきた。
僕は聞こえなかったフリをして、さらにフェイスさんを探した。
「痛い、痛い、痛いです、ルルさん。」
「耳の調子が悪いようだな、ウィン。」
「痛い、痛い、ルルさん、そこは耳じゃなくて、こめかみです。」
「おっ、聞こえるようになったじゃないか。私の処置は間違っていなかったようだな。」
そう言ってルルさんはぐりぐりしている両方の拳を僕のこめかみから離した。
仕方がないので僕は頭を抱えながら、ルルさんにお願いした。
「ルルさん、ネロさんとグラナータさんのことを教えて下さい。」
「最初からそう言えばいいんだ。では教えてやろう。グラナータとネロは夫婦だ。」
「はい。」
「アンソロで一緒にパーティーを組んでいた。」
「はい。」
「冒険者ギルド・コロン本部で副ギルド長とギルド長をしている。」
「はい。」
「以上だ。」
「・・・・・」
ルルさん、ぐりぐりまでしておいて、情報はそれだけですか。
ていうか新しい情報が皆無ですけど。
僕は念の為、追加で質問してみた。
「2人はどうやって知り合ったんですか?」
「知らん。」
「2人はなぜコロンバールに来たんですか?」
「知らん。」
「2人はいつ結婚したんですか?」
「知らん。」
「・・・・・」
予想通りと言えば予想通りの答えだけど、それでぐりぐりしてくるのは横暴過ぎませんか。
でも余計なことを言うと「追いぐりぐり」が来そうなので、僕は素直にお礼を言った。
「ルルさん、ありがとうございます。」
「お礼を言われるほどでもないがな。」
はい、まったくです。
でも、ルルさんに情報を求めてはいけないということが再確認できましたので、良しとします。
それから、無駄だと思っても一度ルルさんに確認することが大切ということも肝に銘じました。
「よし、ウィン、帰るぞ。」
「はい、もうする事もないですしね。」
「ああ、今日はつまらない1日だった。だが明日はウィンと戦える。」
ルルさんは握りしめた右拳を見つめながらそうつぶやいた。
そうですね。
2人とも勝ち続ければ必ずどこかで当たりますね。
でもルルさん、一言言ってもいいですか。
僕が神様(武神)に会うという最初の目的はどこに行ってしまったんでしょうか。
まあ訊くだけ無駄なので訊きませんけど。
僕はひとつ溜息をつくと、転移陣を発動して『小屋』に戻った。
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