220.ダメ押しの上を土足で踏んづける感じ(高所恐怖症:ネロ)
見つけて頂いてありがとうございます。
第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(220)
【格闘大会編】
220.ダメ押しの上を土足で踏んづける感じ(高所恐怖症:ネロ)
「グラ、勝手に俺の秘密を喋るんじゃねぇ。」
敗北宣言をしてそのまま西サイドの控え室に下がったはずのネロさんが、なぜか東サイドの控え室に現れた。
せっかくグラナータさんがネロさんの弱点を教えてくれるところだったのに、ネロさんがストップをかけた。
「ギルド長、お疲れ様です。大変見事な負けっぷりでした。」
グラナータさんは少し考えてから、淡々とそう返した。
嫌味っぽくは聞こえないけど、たぶん嫌味だな。
この2人、仲がいいのか悪いのか、いまいち関係性が掴みにくい。
「うるせぇ。グラだってウィンに負けただろうが。」
「はい、ウィン様の従魔のディーくんに完敗いたしました。まだまだ精進が足りないようです。」
2人の話が別の方向に行ってしまった。
ネロさんの弱点、聞きたかったな。
とても残念。
そんなことを思っていると、
「ネロの弱点って、高所恐怖症のことか?」
ルルさんがあっさりそう言った。
ネロさんに対する呼び方も、「黒山猫さん」から「ネロ」に変化してる。
「ルル、てめぇ・・・」
「そんなこと、誰でも知ってるぞ。」
「なに・・・・・」
あっ、ネロさんが言葉を失くしている。
唖然とした表情がちょっと面白い。
これってあれか、みんな知ってるけど知らないふりをしてくれてたってやつか。
そのことに本人だけ気づいてなかったと。
そしてルルさんはそんなことに気を使う性格じゃないので、普通に喋っちゃったってことだな。
「おいグラ・・・ルルが言ってることは本当か?」
「まあ、そうですね。」
「・・・誰が知ってる?」
「冒険者ギルドの関係者は、ほとんど。」
「・・・・・」
あ〜あ、グラナータさん、ダメ押ししちゃった。
でも隠すこともないと思うけどな。
この世界、高所で戦うことなんてほとんどないだろうし。
お城の上の方とか、城壁の上とかくらいかな。
冒険者にはあんまり関係なさそうだよね。
山の上とかは、意味合いがちょっと違うだろうし。
「あっ、そうか。それでネロさん、ゆっくり降りたのに腰抜かしてたんだ。」
僕はつい、思いついたままに口走ってしまった。
ネロさんの表情が明らかに歪む。
これってさらなるクリティカル?
ダメ押しの上を土足で踏んづけた感じ?
「ウィン様、おっしゃる通りです。うちの馬鹿ギルド長にとってはどんな作戦よりも効果的だったと思います。」
ネロさんが何かを言い出す前に、グラナータさんが僕の言葉を肯定した。
「グラ、てめぇ、自分が高い所も平気だからって・・・」
「グラナータさんは、高い所、大丈夫なんですか?」
僕はネロさんの言葉尻を捉えて、すぐグラナータさんに質問した。
「はい、特に恐怖を抱くことはありません。」
「でも高い所から落とされたら、どう対処するんですか?」
「身体を『硬化』させれば、ダメージはありません。あんまり高い所からだと、地面にめり込む可能性がありますが、それも『剛腕』と『激怒』で何とかなりますので。」
なるほど。
単純に鑑定でスキルや能力を確認しても、それだけでは分からないことって結構あるんだね。
相手の力量を測るには、経験や想像力も不可欠と。
そりゃそうだよな。
僕だって自分の能力を色々工夫して戦ってるんだから、他の人たちも同じってことだ。
グラナータさん、勉強になります。
「ネロ、それでここに何をしに来たんだ?」
「何って、ウィンをシメに来たに決まってんだろうが。あんな卑怯な手を使いやがって。」
あ、やっぱりネロさん、根に持ってたんですね。
正直、僕もちょっとズルい作戦かなと思ってました。
でも反則ではないし、ルールの範囲内ですよね。
「ほう、正式な試合で正式に負けたのに、お礼参りに来たと? グラナータ、お前のところのギルドは、冒険者にこんなことを許しいるのか?」
「ルル様、けしてそのようなことはございません。これは、うちの馬鹿ギルド長の世迷言でございます。」
「グラ、てめぇ、いったい誰の味方してやがんだ。」
「もちろん、ウィン様です。」
「てめぇ、冒険者ギルドの副ギルド長だろうが。」
「はい、同時にウィンギルドの正規会員でもありますので。」
「優先順位ってもんがあるだろうが。」
「格好いい方を優先します。」
「見た目なら俺の方が・・・」
「負けを潔く認めないと格好悪いですよ、ギルド長。」
「何だと!」
正副ギルド長で言い合いが始まっちゃいました。
僕とルルさんにとってはどうでもいい話なので、2人を放置することにして、お茶でも飲みながら寛ぐことにします。
「ウィン、ネロと戦う時は他の手もあるぞ。」
「どんな手ですか、ルルさん?」
「石か氷で高い塔を作って、その上に乗せるとか。」
「おお、それいいですね、ルルさん。」
「クモさんの糸で高い所に吊るすとか。」
「それもありですね。」
「飛竜に頼んで空高く連れ去ってもらうとか。」
「・・・・・ルルさん、飛竜の知り合いいるんですか?」
「いる訳ないだろう。でもウィンならすぐだ。」
「何がすぐなんですか?」
「海竜の娘がいるんだから、飛竜の息子もすぐできるはずだ。」
海竜の娘?
リーたんのこと?
そうか、リーたんに頼めば、飛竜を紹介してもらえるかもな。
あっ、ダメだ。
リバイアタン、長いことぼっちだったから、紹介できるような飛竜なんて知らないはずだ。
でも一応、今度訊いてみよう。
「ルルさんの試合、まだですか?」
「もうすぐじゃないか。」
「そう言えば僕たち、他の人の試合、全然見てませんね。」
「見たらつまらないだろう。」
「普通、対戦相手のこととか研究しません?」
「いきなり戦う方が楽しめる。」
「まあ、ルルさん的思考だとそうなりますよね。」
「実戦だと、下調べできることもあるが、ぶっつけ本番の方が多いからな。」
「確かにそうですね。」
討伐対象が決まってる時とかは事前に準備できるけど、たいていの場合は遭遇戦だから初見の相手と戦うことも多くなる。
そういう意味では、『人物鑑定』と『魔物鑑定』の両方を持ってる僕は、ちょっと、いや、かなりズルいかも。
「ウィン、また下らないことを考えてるな。」
「えっ?」
「持ってる力は存分に使えばいいんだ。」
「ルルさん、やっぱり僕の心を読んでます?」
「これだけ一緒にいれば、だいたい分かる。」
「いや、普通は読めないと思いますけど。」
「ウィン、この世界に同じ存在はない。能力も努力も運もみんな違う。違うことに誇りを持て。」
ルルさん、ポンコツなことも多いけど、たまにいい事いうんだよな。
あっ、睨まれた。
やっぱり読まれてる。
でも今のは褒めたつもりなんだけどな。
読んで頂いてありがとうございます。
徐々に読んで頂ける方が増え、励みになります。
誤字・脱字のご指摘、ありがとうございます。
ご感想を頂いた皆様、感謝いたします。
ブックマーク・評価を頂いた皆様、とても励みになります。
ありがとうございます。
次回投稿は1月31日(水)です。
よろしくお願いします。




