219.黒山猫は高い所が苦手?(決着: vs ネロ)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(219)
【格闘大会編】
219.黒山猫は高い所が苦手?(決着: vs ネロ)
僕は地上に転移すると、両手で2本の短剣を構えてネロさんを真っ直ぐに見た。
今のネロさんは、黒山猫状態で僕の攻撃に備えている。
少しでも魔法発動の気配を察知すれば、即座に『加速』で攻めて来るだろう。
僕は考えを読まれないように、ひたすら心を無にすることに徹した。
結果的に短剣を構えたまま微動だにしない状態が続いた。
しばらく睨み合いが続くと、痺れを切らしたネロさんが口を開いた。
「ウィン、てめぇ、何考えてやがる。魔法はもう打ち止めだってぇのか? そっちが来ねぇなら、こっちから行くぜ。」
そう宣言すると同時にネロさんが僕に向かって普通に突撃して来た。
まだ『加速』を使っていない。
どうしたんだろうと思っていると、途中で突然『加速』した。
そして同時に『小型化』した。
『加速』のスピードに段々慣れ始めていた僕も、タイミングを合わせて『小型化』されたために、ネロさんの姿を完全に見失った。
でも僕に向かって来ていることは確かだ。
そして今回の狙いはかわすことじゃないので、僕は攻撃を受ける恐怖に耐えながらネロさんの接近を待った。
ガキン。
ザシュッ。
黒の短剣が子猫ネロさんの左の魔爪を弾き、右の魔爪が白の短剣を掻い潜って僕の左腕を切り裂いた。
その瞬間、僕は子猫ネロさんの体を掴んで大声で叫んだ。
「転移!」
次の瞬間、僕は青い空の中にいた。
そしてその隣には、子猫ネロさんの姿があった。
僕の作戦は単純だ。
ネロさんが僕に近づいた瞬間に一緒に転移する。
青い空の遥か高みに。
ネロさん、飛べないからね。
「なんじゃこりゃ!」
おっ、久しぶりにネロさんの「なんじゃこりゃ」、いただきました。
そりゃ驚くよね。
いきなりこんな場所に放り出されたら。
そして転移で静止した状態から、重力に引っ張られて徐々に落下し始めると、
「ウィン、てめぇ、なんてことしやがる。落ちるじゃねぇか。いやもう落ちてるじゃねぇか。ふざけんじゃねぇ。ウィン、なんとかしろ!」
ネロさん、恐慌状態です。
まあ、こんな高い所、初めてでしょうし。
こんな高い所から落ちるのも初めてでしょうし。
下まで落ちたら大変なことになるでしょうし。
「ネロさん、負けを認めて下さい。」
「うわ〜、なんだと、ウィン? そんなことよりこれを止めやがれ。これはヤバすぎるぞ。」
「負けを認めたら、助けます。」
「ウィン、てめぇ、卑怯だぞ。こんなの俺は認めねぇぞ。」
「使えるものは全部使えって言ったのネロさんですよ。認めないとペシャンコになりますよ。」
「チクショー、ウィン、覚えてやがれ!」
「で、どうします。」
「分かった。認める。負けを認める。だから早くなんとかしろ!」
「了解です。上昇気流。」
僕が『風』を発動すると、2人の落下速度が緩やかになった。
でも実は、その前から落ちるスピードは調整してたんだよね。
自由落下に任せると速過ぎて交渉する暇がないかもしれないからね。
それでもネロさんにしてみれば、初めての高さ、初めての継続落下ということで恐怖を与えるには十分だった。
僕と子猫ネロさんが格闘場の地面に着地すると、何が起こったのかよく分かっていない観衆は戸惑ってるようだった。
しかし、そのまま立っている僕に対して、子猫ネロさんは着地と同時に仰向けに倒れてしまい、その瞬間に大歓声が響き渡った。
「ネロさん、大丈夫ですか?」
「うるせぇ、ほっといてくれ。」
「もしかして腰が抜けました?」
「だからほっとけって言ってんだろうが!」
ネロさん、言葉は強気ですけど、子猫姿のままでひっくり返ってピクピクしながらだと、まったく様になってませんよ。
「ネロさん、一応負けを宣言してもらえませんか。司会者が困ってるみたいなので。」
「分かってらぁ。冒険者に二言はねぇ。負けは認める。だがなぁ、ちょっとくらい待ちやがれ。」
僕は面倒になってきたので、何も言わずにネロさんに『ヒール』をかけた。
これで、抜けた腰は元に戻るだろう。
しばらく様子を見ていると、子猫ネロさんは一つ溜息をついてゆっくりと起き上がり、そこから人化してギルド長のネロさんになった。
「司会者、俺の負けだ。」
ネロさんがそう宣言すると、歓声が一際大きくなった。
「なんと、なんと、冒険者ギルド・コロン本部のギルド長、そしてS級冒険者でもあるネロ様がまさかの敗北宣言です! 『漆黒の魔爪』が敗れました。『空飛ぶ神テイマー』のウィン様、強敵を次々に撃破し、明日の決勝ラウンド進出です。」
司会者さん、今、肩書きに変な言葉を付け足してませんでした。
それ、称号になりそうで嫌なんですけど。
肩書きは本人の承諾を得てから決めてもらえませんか。
「それにしてもウィン様は一体何者なのでしょうか。これだけの強さで無名というのはどういうことなのでしょうか。テイマーでありながら多様な魔法を使い、従魔なしでS級冒険者を倒してしまいました。みなさま、『七色魔法の空飛ぶ神テイマー』、ウィン様に盛大な拍手をお願いいたします。」
司会者さん、また肩書き増えてますけど。
もしかして司会者さんって『念話使い』?
僕の心の中の抗議を読み取ってさらに被せてきた感じ?
「さあ、みなさま、明日の決勝ラウンドも盛り上がること間違いなし。『謎が謎を呼ぶ七色魔法の空飛ぶ神テイマー』、ウィン様の活躍に期待しましょう。」
あっ、もう何も言いません。
これくらいで許して下さい。
僕はさっさと退場します。
また明日。
控え室に戻ると、ルルさんとグラナータさんが待っていた。
ディーくんは観客席の従魔応援団のところに合流したらしい。
「ウィン、あれはえげつないな。」
「ウィン様、うちの馬鹿ギルド長相手に見事な戦いでした。あれでも強さだけは本物なので。」
ルルさんとグラナータさんは東サイドの出入口付近から試合を見ていたらしい。
ネロさんの敗北宣言を聞いて、控え室に戻ったとのことだった。
それにしてもグラナータさん、相変わらずネロさんのことは馬鹿ギルド長呼びなんですね。
「ルルさん、でもあの戦法はルルさんには使えませんので。」
「そうだな。でも私以外には通用するだろう。」
「えっ、でも転移持ちとか、風魔法使いには通用しないんじゃないんですか?」
「ウィン、だからウィンは常識がないと言われるんだ。グラナータ、説明してやってくれ。」
ルルさん、そこで説明はグラナータさんに振るんですね。
あれっ、そう言えば今、「グラナータ」って呼んだよね。
ちょっと前まで「赤髪さん」だったのに。
シルフィさんのことはまだ「青姫さん」呼びだったけど。
どこで呼び方が変わるのか、やっぱりルルさんの線引きって理解不能だな。
「ウィン様、『転移』は非常にレアなスキルです。冒険者の中にも滅多に持っている者はおりません。宮廷魔導士クラスだとたまにいるようですが。それでも自由自在に使える者はほぼいないかと。」
「なるほど、でも風魔法使いは割といるんじゃないですか?」
「はい、その通りです。しかし、ウィン様ほど使いこなせる者は、ほとんどいないでしょう。」
「えっ、そうなの?」
「はい。高い所から落下する自分の体を風魔法でゆっくり地面に降ろすなど、至難の技です。」
そうなのか。
下から強い風を当て続けるだけだから、簡単にできそうだけどな。
「ウィン様、魔法を継続的に発動するだけでも難易度は高いんです。その上、方向、強さ、バランスを保ち続けるとなると、私にはどうすればそんなことが可能なのか、想像もつきません。」
グラナータさんが真面目な顔でそう語る。
この世界ではそれが常識なんだろう。
でもそうなると、ルルさんの風魔法の操作も規格外ってことだよね。
ルルさんがあまりにも器用に風魔法を操るので、誰でも練習すればできるのかと思ってた。
「分かったか、ウィン。そういうことだ。」
ルルさん、グラナータさんに説明させといて、どうしてそんなに偉そうに締め括ってるんですか。
説明が苦手なのは知ってますけど。
「ウィン様、一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「いいですよ。」
「ウィン様は、うちのギルド長の弱点を知ってたんですか?」
「えっ? ネロさんの弱点? 何それ?」
グラナータさんの言葉に僕はキョトンとしてしまった。
ネロさんの弱点って何だろう?
「ウィン様、知らずにあの作戦を立てられたと? さすがの戦闘センスです。」
「グラナータさん、ネロさんの弱点って何ですか?」
「それはこうしょ・・」
「おいグラ、なに勝手に俺の秘密をバラそうとしてやがる!」
グラナータさんが僕の質問に答えようとしたところで、西サイドに退場したはずのネロさんが、突然乱入してきた。
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