217.子猫ネロさんはずるいと思います(4回戦: vs ネロ)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(217)
【格闘大会編】
217.子猫ネロさんはずるいと思います(4回戦: vs ネロ)
とりあえず、ネロさんを鑑定してみる。
(鑑定結果)
ネロ(NERO) 冒険者ギルド・コロン本部 ギルド長
名前 : ネロ(40歳) 男性
種族 : 獣人族(黒山猫人)
職業 : 冒険者(S)・ギルド長・ウィンギルド会員
スキル: 剛力・加速・斬撃・状態異常無効・獣化・小型化
統率
魔力 : 222
称号 : 『漆黒の魔爪』
友好度: 90%
信頼度: 90%
『友好度』と『信頼度』が90%?
グラナータさんより高いのか。
態度だけ見てるとそうは思えないんだけどな。
もしかしてネロさんってツンデレ系?
そんなことより、改めてネロさんの情報を見ると、かなり手強そうなんだよね。
冒険者としてSランクだし、スキルがいっぱいあるし。
それに称号が『漆黒の魔爪』。
長剣使いだと思ってたけど、爪の斬撃も警戒しなきゃいけないってことかな。
黒山猫だけに。
「ウィン、てめぇ何をジロジロ見てやがる。とっとと始めるぞ。」
「え〜と、始めるのはいいんですが、冒険者ギルドのギルド長が格闘大会とか出ちゃっていいんですか。」
別に戦いたくない訳じゃないんだけど、僕は冗談半分に質問してみた。
「普通はダメに決まってんだろうが。」
「え〜、ダメなのに出るのは反則じゃないんですか?」
「存在自体が反則のてめぇに言われる筋合いはねぇ。」
「なるほど。」
存在自体が反則って言葉には反論したいところだけど、言いたいことは理解できる。
『クエスト・メイカー』なんて妙な能力を持っている僕は、この世界では明らかに異分子だろう。
「コンゲムさんに頼まれました?」
「俺があんなヤツの言うことを聞くと思うか?」
「それは・・・そうですよね。」
やっぱりあれだ。
これはコンゲムさんの仕込みじゃなくて、ネロさんの独断専行だな。
ということは、コンゲムさんが大会直前に仕込んだ2人は、まだ温存されてる?
明日出て来るってことかな?
まあ、僕がネロさんに勝てればの話だけどね。
「それで、従魔、使うのか? 使わねぇのか?」
「とりあえず使いません。危なくなったら使います。これってズルいですかね?」
「バカ言ってんじゃねぇ。使えるもん全部使って戦うのが冒険者ってぇもんだ。遠慮しねぇでかかって来やがれ。」
そう言うとネロさんは、体勢を低くして構えた。
地面に突き立ててある自分の長剣には見向きもしない。
どうやら『魔爪』で戦うようだ。
僕はネロさんの様子を見て、空間収納から『黒の短剣』を取り出した。
自分で作ったアダマンタイト製の短剣だ。
接近戦ならこちらの方が使いやすい。
「いい判断だ。バカじゃねぇみたいだな。」
ネロさんはニヤリと笑うと、次の瞬間、姿を消した。
いや消えたように見えた。
やばい、いきなり『加速』か。
僕は咄嗟にそう判断して『転移陣』を発動する。
しかしわずかに間に合わなかったようだ。
転移先で左腕を確認すると、3本の斬撃が肉を深く抉っていた。
「ヒール。」
僕は即座にヒールで左腕を治療した。
『ヒール(上級)』を獲得しておいて助かった。
でも逆に『斬撃耐性』を持っていないのが悔やまれる。
あれ?
爪も『斬撃』だよね。
別枠で『爪撃』とかあるのかな。
…ウィン様、爪による攻撃は切る場合は斬撃、刺す場合は刺突と判定されます。クエストについては後ほど表示させて頂きます…
説明ありがとう、「中の女性」。
詳細は後でお願いします。
「ウィン、てめぇヒールも使えんのか? 説明には無かったじゃねぇか。」
「すみません、最近覚えたので。」
ネロさんの質問に答えながら声がした方を見ると、そこには大型犬サイズの漆黒の獣がいた。
『獣化』したようだ。
「ネロさん、それが黒山猫ですか?」
「そうだ。」
「あの小さい姿は?」
「ありゃあ、人前用に小型化したもんだ。この形だとみんな怖がっちまうだろうが。」
試合中に呑気に会話しているように見えるだろうけど、お互いに警戒は解いてない。
黒山猫ネロさんは話しながら僕の隙を伺っているし、僕はアダマンタイトの短剣を構えたままで『加速』が発動される際の魔力感知に集中している。
来る!
黒山猫ネロさんの全身からわずかに魔力が溢れ、次の瞬間、漆黒の毛並みがブレて消えた。
初見の時はそれで見失ったけど、『加速』は『転移』ではないので注視していれば見えないことはない。
しかし速い。
一瞬で間合いを詰めた黒山猫ネロさんの左前脚が、僕の右腕を狙って振られる。
3本の長くて黒い爪がはっきりと見えた。
僕はその爪を短剣で受け止める。
爪の攻撃とは思えない程重い一撃をなんとか凌ぐ。
次の瞬間、嫌な予感が背中を駆け上がった。
前脚は2本ある。
剣術で言うなら二刀流と同じだ。
左を止めても、右が残っている。
左の脇腹に迫る3本爪の脅威を感じながら、僕は『転移陣』を発動した。
結果から言うと、今回は初回よりはマシだった。
完全にはかわし切れなかったけど、浅い切り傷で済んだ。
すぐに『ヒール(上級)』をかけると、傷は完治した。
確か『ヒール(上級)』は回復率75%だった気がするけど、重傷でなければ完治するようだ。
「そのヒール、面倒だな。一撃で意識を刈り取らねぇと回復されちまうか。」
「ネロさん、殺さないで下さいね。」
「当たりめぇだ。だから首は狙ってねぇだろうが。」
うわぁ、ネロさん、普通ならあの爪で首を刈りに行くんですね。
『漆黒の魔爪』、怖過ぎる。
まあ魔物相手限定だとは思いますが。
魔物だけですよね。
人にはしませんよね。
「よし、作戦変えちまうか。」
黒山猫ネロさんがそんなことをつぶやいた。
その爪攻撃だけでもかなり厄介なのに、他の作戦もあるんですね。
まあSランク冒険者ですから、戦い方も柔軟にいろいろ取り揃えてるんでしょうね。
相手をするこちらは、堪ったもんじゃありませんけど。
僕はそんなことを考えながら空間収納からもう一本、短剣を取り出した。
こちらは白の短剣、ミスリル製のやつだ。
二刀流には二刀流で対応しないとね。
作戦を変えるみたいだけど、両前脚の爪攻撃が脅威であることに変わりはない。
「よしウィン、行くぜ。」
黒山猫ネロさんは、なぜか僕にそう宣言してから『加速』した。
作戦を変えると言ってたけど、それまで同様、真っ直ぐに僕に突っ込んで来る。
僕は黒と白の短剣を構えて、『魔爪』を受け止めるべく迎撃体勢を取った。
そして爪と短剣が接触する直前、黒山猫ネロさんの体が急激に小さくなった。
小型化!
黒山猫ネロさんは子猫ネロさんになり、僕の二つの短剣の間をすり抜け、そのままの勢いで僕に体当たりをかました。
虚をつかれた僕は、『転移陣』を発動することもできず、その体当たりをまともにお腹に受けてしまった。
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